【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第9章 私と貴方の独占欲3

「立本さんか……」

確かにあの感じは、彼らしい。
そしていま、私が漸の家にいるのも知っているし、漸が彼に私の相手をしてくれないか頼むとも言っていた。

「……登録、しとこ」

これからは長い付き合いになりそうな気もするし。

――ピンポーン。

きっかり十五分後、インターフォンが鳴った。

「はーい」

鞄を持って玄関まで走る。
しかしその間も待てないらしく。

――ピンポン、ピンポン、ピンポン!

……連打された。

「遅い!」

ドアを開けるの同時に怒鳴られたけど……これは私が悪いのか?

「あ、えっと。
……すみません」

「さっさと行くぞ」

私を置いて立本さんはエレベーターへと向かった。
慌てて鍵をかけ、あとを追う。

「なんかすみません、漸が無理を言ったみたいで」

エレベーターの中で立本さんは右肩を壁に預け、腕を組んで苛々と手をトントンしていた。

「あ……。
すまん、つい」

自分の態度に気づいたのか、急に彼が申し訳なさそうになる。

「漸の奴、いつも人の都合を考えずに頼んでくるから。
お前が悪いんじゃないのにわるかった。
……いや、お前のための頼み事だから、やっぱりお前が悪いのか?」

「えーっと……」

そこは曖昧に笑って誤魔化しておいた。
そうだとも、違うとも言えない。

「それで。
どこか行きたいところはあるのか?
漸からはお前を楽しませてくれって言われたが」

マンションを出て止めてあった車に乗せられた。
漸は金沢で黒のSUVに乗っているが、立本さんは白のスポーツセダンだった。
イメージとしては逆なんだけどな。

「あの、家電量販店に連れていってもらえますか……?」

私がシートベルトを締めたのを確認し、立本さんは車を出した。

「家電量販店?
……ああ」

なんか納得したらしく、彼は頷いている。

「あの部屋、なんもねーもんな」

知っているんだ。
てか、立本さんなら中に入っていてもおかしくないか。

「酒も冷やせねーから俺が買って置いた冷蔵庫が、唯一の家電か?
あと、エアコン」

「え」

立本さんが必要なければ、冷蔵庫すらなかったかもしれないってこと?
そして電子ケトルはきっと、まともに朝食を食べはじめてから買ったんだ。

「あいつ、接客業だから身だしなみには気を配るが、それ以外はどーでもいいからな。
あいつとの生活は大変じゃないか?
人としての常識が欠如してるから」

「別に苦労したことなんてないですけど……?」

だからこそ、東京であんな破綻した生活をしているなんて知らなかった。
あまりにも普通、だったから。

「あいつなりに努力したのか、お前にそうさせるだけのものがあるんだろうな」

ふっ、と唇を緩ませた立本さんは、酷く嬉しそうだった。

連れてきてもらった家電量販店で電子レンジを選ぶ。
トーストも焼けるものもあるが、漸がそこまでするか疑わしい。
ので、単機能のものにした。

「ま、確かに正解だな」

電子レンジを車に運びながら、立本さんは笑っている。

「あとはどこ行く?
スカイツリーでも登るか」

漸もだけど、とりあえずスカイツリーと言っておけば喜ぶとでも思っているんだろうか。

「あー、えっと」

行きたいところはある。
がしかし、男性にこんなことを言うのは恥ずかしいわけで。

「上野でパンダでも見るか」

それで決まりだと、立本さんは車を出した。

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