【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
第6章 漸は私の男です10
「漸がオマエを、愛しているとでもいうのか!?
自惚れるな!」
三度、彼が机を叩く。
もしかしてあれは、恫喝するときの癖なのだろうか。
それごときで私が怯えるとか思わないでもらいたい。
私は今日、三橋さんを奪還するまで、強気でいくと決めたのだ。
「漸!
オマエは私の言うことを聞いて、おとなしく結婚するな!」
反論は許さない、とばかりにお父さんが三橋さんを睨みつける。
どうかしている、もうアラフォーの息子を自分の好きにしようだなんて。
「私は鹿乃子さんと結婚します。
荒木田様とは結婚しません」
淡々と三橋さんは告げているが……ん?
荒木田って……いまの総理大臣じゃなかったっけ!?
「そんなこと、許されると思っているのか!」
――バン!
お父さんはとうとう両手で机を叩き、腰を浮かせた。
「許されるのか、と言われましても……。
現代の日本の法律では、成人済み男女の結婚に親の承諾は必要がないので、問題はありませんが」
「そういう話じゃないだろうが!」
威嚇するゴリラのごとく、バンバン机を叩かれてうるさい。
鶏ガラお母さんは鶏ではなく爬虫類だったらしく、カメレオンのごとくあちこちを見ながら顔色を七色に変えている。
「だいたい、たかが染屋の職人ごときの娘など、なんの価値もない……!」
「……」
青筋を浮かせ、三橋さんの顔に唾を飛ばしながら力説しているが……言ってはいけないことを、言いましたね?
ええ、私、しっかりと記憶に刻ませていただきました。
〝たかが染屋の職人ごとき〟と。
「……ふふふふっ」
「なにがおかしい!?」
急に私が笑いだしたので、ご両親が私に注目した。
「すみません、つい笑いが漏れてしまいました」
ひとつ深呼吸して呼吸を整え、再び口を開く。
「いまのご自身の失言、自覚がおありですか」
「失言?
私は正しいことしか言っていない!」
あー、そういう。
うすうす、気づいてはいたけどね。
自分の言うことが全部正しい、だから下々の人間は従うべきだ。
たとえそれが、実の息子であっても。
そういう、人なんだって。
「全染め物職人……いいえ。
全呉服職人を敵に回したんですよ、貴方は」
祖父に、失礼な奴には年上だろうとそれ相応の対応をしてやれと育てられてきた。
反対に尊敬できる人はたとえ年下でも敬えと言われたけど。
この人に敬意を払う必要なんてない。
「貴方のいう職人ごときのおかげで、商売ができているのはどなたですか?
なのに、そんなに見下して」
うちに出入りの問屋のおじさんは、商売ができるのは職人のおかげだと言ってくれる。
それに対して父も、祖父も、うちがやっていけているのは問屋や小売店が売ってくれるからだと感謝している。
持ちつ持たれつの関係、なのにこの人は。
「すぐに三橋呉服店を相手にしてくれる工房はなくなりますよ。
私は別に、かまいませんが。
三橋さんがそれで自由になれるなら」
「黙れ、このクソアマが!」
瞬間、湯飲みが顔めがけて飛んできた。
手で顔面を守りつつ目を閉じる。
けれど、いつまでたっても痛みはやってこない。
「……?」
おそるおそる目を開けると三橋さんの手が、私の顔直前で湯飲みを掴んでいた。
「……鹿乃子さんに傷をつける人は、誰だろうと許しません。
それがたとえ、父でも」
ことり、と座卓へ三橋さんが湯飲みを戻す。
場に似つかわしくないほどの冷静さは、空気を凍りつかせた。
――バン!
緊迫した空気をぶち壊すかのように、勢いよく襖が開いた。
「わるい!
遅くなった!」
入ってきてどさっ、と私の斜め前に座ったスーツの男は、軽薄な空気を纏っていた。
「あ、これが兄さんが連れてきた女?」
これ呼ばわりされたうえに、じろじろと値踏みするかのように見られて不愉快だけれど、引きつった笑顔でどうにか耐える。
「どんな美女かと思ったら、ブスだね」
自惚れるな!」
三度、彼が机を叩く。
もしかしてあれは、恫喝するときの癖なのだろうか。
それごときで私が怯えるとか思わないでもらいたい。
私は今日、三橋さんを奪還するまで、強気でいくと決めたのだ。
「漸!
オマエは私の言うことを聞いて、おとなしく結婚するな!」
反論は許さない、とばかりにお父さんが三橋さんを睨みつける。
どうかしている、もうアラフォーの息子を自分の好きにしようだなんて。
「私は鹿乃子さんと結婚します。
荒木田様とは結婚しません」
淡々と三橋さんは告げているが……ん?
荒木田って……いまの総理大臣じゃなかったっけ!?
「そんなこと、許されると思っているのか!」
――バン!
お父さんはとうとう両手で机を叩き、腰を浮かせた。
「許されるのか、と言われましても……。
現代の日本の法律では、成人済み男女の結婚に親の承諾は必要がないので、問題はありませんが」
「そういう話じゃないだろうが!」
威嚇するゴリラのごとく、バンバン机を叩かれてうるさい。
鶏ガラお母さんは鶏ではなく爬虫類だったらしく、カメレオンのごとくあちこちを見ながら顔色を七色に変えている。
「だいたい、たかが染屋の職人ごときの娘など、なんの価値もない……!」
「……」
青筋を浮かせ、三橋さんの顔に唾を飛ばしながら力説しているが……言ってはいけないことを、言いましたね?
ええ、私、しっかりと記憶に刻ませていただきました。
〝たかが染屋の職人ごとき〟と。
「……ふふふふっ」
「なにがおかしい!?」
急に私が笑いだしたので、ご両親が私に注目した。
「すみません、つい笑いが漏れてしまいました」
ひとつ深呼吸して呼吸を整え、再び口を開く。
「いまのご自身の失言、自覚がおありですか」
「失言?
私は正しいことしか言っていない!」
あー、そういう。
うすうす、気づいてはいたけどね。
自分の言うことが全部正しい、だから下々の人間は従うべきだ。
たとえそれが、実の息子であっても。
そういう、人なんだって。
「全染め物職人……いいえ。
全呉服職人を敵に回したんですよ、貴方は」
祖父に、失礼な奴には年上だろうとそれ相応の対応をしてやれと育てられてきた。
反対に尊敬できる人はたとえ年下でも敬えと言われたけど。
この人に敬意を払う必要なんてない。
「貴方のいう職人ごときのおかげで、商売ができているのはどなたですか?
なのに、そんなに見下して」
うちに出入りの問屋のおじさんは、商売ができるのは職人のおかげだと言ってくれる。
それに対して父も、祖父も、うちがやっていけているのは問屋や小売店が売ってくれるからだと感謝している。
持ちつ持たれつの関係、なのにこの人は。
「すぐに三橋呉服店を相手にしてくれる工房はなくなりますよ。
私は別に、かまいませんが。
三橋さんがそれで自由になれるなら」
「黙れ、このクソアマが!」
瞬間、湯飲みが顔めがけて飛んできた。
手で顔面を守りつつ目を閉じる。
けれど、いつまでたっても痛みはやってこない。
「……?」
おそるおそる目を開けると三橋さんの手が、私の顔直前で湯飲みを掴んでいた。
「……鹿乃子さんに傷をつける人は、誰だろうと許しません。
それがたとえ、父でも」
ことり、と座卓へ三橋さんが湯飲みを戻す。
場に似つかわしくないほどの冷静さは、空気を凍りつかせた。
――バン!
緊迫した空気をぶち壊すかのように、勢いよく襖が開いた。
「わるい!
遅くなった!」
入ってきてどさっ、と私の斜め前に座ったスーツの男は、軽薄な空気を纏っていた。
「あ、これが兄さんが連れてきた女?」
これ呼ばわりされたうえに、じろじろと値踏みするかのように見られて不愉快だけれど、引きつった笑顔でどうにか耐える。
「どんな美女かと思ったら、ブスだね」
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