【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第5章 決戦は月曜日6

「あのー、三橋、さん。
どこで着替えたら……?」

いまだに家でも、着替えは別々だ。
いや、三橋さんは私の前でも平気で着替えるけど。
私はまだ、恥ずかしい。
ここは浴室を出たら即部屋、みたいな間取りなので、閉じられた空間はユニットバスしかない。

「あー……」

再び、彼が天井を仰ぐ。

「いつもひとりなので、考えたことなどなかったです……」

がっくりと彼のあたまが落ちたが、再び大問題ですよ、これは。

「あー、えと」

再び、ユニットバスの中を見る。
トイレと浴槽部分はシャワーカーテンで区切られているから、トイレ部分で着替えればなんとかなりそう?

「どうにかするので、大丈夫です」

濡らさないようにとにかく、気をつけて入ろう。

「あがりました……」

リラックスできるはずのお風呂でぐったり疲れ、出たときには部屋にベッドが出現していた。

「これ……」

「このソファー、一応、ソファーベッドなんですよ。
これなら兼用できるから便利だと決めたんですが、いままで一度もベッドとして使ったことはありません。
……じゃあ私も、シャワーを浴びてきますね」

三橋さんはなにも気にすることなく、浴室の前で着物を脱ぎはじめた。
のはいい。
のはいい、が。

「三橋さん!」

「はい?」

なにか問題でも?
なんて顔で、下着に手をかけたままこちらを見ないでほしい。

「……下着はせめて、中で」

なるべく見ないように気をつけながら、背を向ける。

「ああ、そうですね。
失礼しました」

少ししてドアの閉まる音がし、やっと身体の緊張を解く。

「……デリカシー」

とか、東京の三橋さんに言っても無駄な気がする。

「で、あの紐パンはさー」

洗濯物は干していたから知っている。
が、彼が着替えをはじめたらさりげなく部屋を出ていたので、実際に身につけているところを見たのは初めてだ。

「……ヤバいって」

思いだした途端に、顔が熱を持つ。
耐えられなくなって抱えた膝の間に顔をうずめた。
着物に響かないデザインであれを選んでいるんだろうが、……エロすぎる。

「あがりましたー」

ようやく顔の熱が引いた頃、三橋さんがシャワーを終わらせてきた。

「じゃあ、寝ましょうか」

「そうですね」

ソファーベッドに私を抱き締めて横になり、三橋さんが上から着物をかぶる。

「おやすみなさい、可愛い鹿乃子さん」

「おやすみなさい」

ソファーベッドは実家にある私のベッドよりも小さいので、さらに身体を寄せた。
私を包む三橋さんの体温は温かくて、これなら眠れそうだ。

……高級大島を布団代わりにしていることについては考えない。



朝も一悶着ありつつ、準備を済ませる。
こんなことなら服は全部、洋服にすればよかった。
着物にしてしまった自分が悔やまれる。

トーストとコーヒーだけの朝食を済ませ、マンションを出た。
てか、初めてフライパンでパンを焼いたよ!
でも、確かに溶かしバターへパンを入れて焼くのは美味しかったけど。

「とりあえず、布団を買いに行かなきゃですね」

「はい」

こちらでの三橋さんの足はタクシーだった。
駐車場、保険やガソリン代、接待のときの帰りなどを天秤にかけると、タクシーの方に軍配が上がるらしい。
あと、店とマンションとの往復がほとんどで、プライベートで出掛けることがほとんどないから、と。

高級寝具店に連れていかれたらどうしようとビクビクしていたが、大手生活雑貨店でほっとした。

「掛敷きセットですかね……」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品