【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
第4章 これは同情で愛情ではない4
ちゅっ、と三橋さんの唇が私の頬に触れ、電気が消される。
すぐにすーすーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
「……三橋、さん」
寝返りを打って彼の方を向き、その胸に額をつける。
「……温かい」
そのぬくもりに安心して、ゆっくりと眠りに落ちていく。
キングサイズのベッドは小柄な私ひとりには広すぎるが、背の高い彼とふたりならちょうどいい。
朝ごはんは夜のうちに仕込んでおいた玉子サンドと、昨日の残りのスープで済ませた。
「あ、そういえば。
三橋さんのデニムの着物は、洗い屋さんに出した方がいいですよね」
なぜか不思議そうに、眼鏡の向こうで彼がパチパチと数度、瞬きをする。
「洗い屋に出さずに、どうするんですか?」
「え、自分で洗いますけど?」
また彼が、パチパチと瞬きをした。
「着物を?
自分で?
洗う?」
「はい」
「すみません、私はそこまで考えたことがありませんでした……」
はぁーっ、と三橋さんの口からため息が落ちる。
でも普通はそうだよね、スーツはクリーニングに出すものだし、Tシャツでも高級ブランドのものは自分で洗わない。
それと同じようなものだ。
「あの、私の着物は基本、安い一万円以下のデニムか木綿か、手芸店で買った生地を自分で縫ったのなんで、ガラガラ洗濯機で回しても問題ないんですけど、さすがに三橋さんのは」
「えっ、着物を洗濯機で洗うんですか!?」
今度はさらに信じられなかったみたいで、目玉が落ちちゃわないか心配になるほど目を見開いた。
「洗いますよ。
さすがに、手洗いコースですが」
「……はぁーっ」
また、三橋さんの口からため息が落ちていく。
「私は決まりに縛られず、カジュアルに、自由に着ているつもりでしたが、まだまだですね……」
そんなに落ち込むことなんだろうか。
だって三橋さんはそういう世界に住んでいるんだから、私のような乱雑にやっているのは知らないのは当たり前で。
「……精進します」
「えっ、精進とかそんな!
三橋さんが好きなように着ればいいんですよ」
すっかり下を向いてもそもそ玉子サンドを囓っているけれど、……ねえ?
「……私の着物も洗濯機で洗ってしまってください」
「それはさすがに、勘弁してください!」
うー、なんか変な、三橋さんのコンプレックススイッチ押しちゃったよー。
「まあさすがに、それは冗談ですけど」
「冗談、ですか」
慌てた私がおかしかったのか、くすっと小さく三橋さんが笑う。
それはちょっと、性格悪いぞ。
「でも今度、可愛い鹿乃子さんがよく利用しているお店を教えてください。
私も洗濯機でガラガラ洗える着物が欲しいです」
「それなら、喜んで」
やっと気持ちは浮上したのか、顔を上げて最後のサンドイッチを三橋さんは口へ入れた。
今日は三橋さん車で実家へ向かう。
当然、運転は三橋さんだ。
「おはよーございます」
「おはよー」
母屋に声をかけ、さっさと工房を開ける。
いつもどおり掃除をして準備をした。
三橋さんはこのあいだ、祖父とお茶タイムだ。
ちらりと一度、覗いてみたら、相変わらず噛みついてくる祖父を、にこにこ笑いながら三橋さんがのらりくらりとかわしていた。
どうも最近、祖父の扱いに慣れてきたらしい。
「じゃあ今日も、帳簿を見せてもらいますね」
そのうち、父たちと工房へ来た三橋さんは大量に帳簿を積み、隅に置いてあるパソコンと向き合った。
内容を精査しつつ、いまだに電子化していない帳簿を入力してくれている。
「いつもながら、早いな」
父が作業の手を休め、ほぇーっと感心しながら三橋さんの手元を見る。
そこでは目にも留まらぬ速さでキー入力が続けられていた。
「お父様」
すぐにすーすーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
「……三橋、さん」
寝返りを打って彼の方を向き、その胸に額をつける。
「……温かい」
そのぬくもりに安心して、ゆっくりと眠りに落ちていく。
キングサイズのベッドは小柄な私ひとりには広すぎるが、背の高い彼とふたりならちょうどいい。
朝ごはんは夜のうちに仕込んでおいた玉子サンドと、昨日の残りのスープで済ませた。
「あ、そういえば。
三橋さんのデニムの着物は、洗い屋さんに出した方がいいですよね」
なぜか不思議そうに、眼鏡の向こうで彼がパチパチと数度、瞬きをする。
「洗い屋に出さずに、どうするんですか?」
「え、自分で洗いますけど?」
また彼が、パチパチと瞬きをした。
「着物を?
自分で?
洗う?」
「はい」
「すみません、私はそこまで考えたことがありませんでした……」
はぁーっ、と三橋さんの口からため息が落ちる。
でも普通はそうだよね、スーツはクリーニングに出すものだし、Tシャツでも高級ブランドのものは自分で洗わない。
それと同じようなものだ。
「あの、私の着物は基本、安い一万円以下のデニムか木綿か、手芸店で買った生地を自分で縫ったのなんで、ガラガラ洗濯機で回しても問題ないんですけど、さすがに三橋さんのは」
「えっ、着物を洗濯機で洗うんですか!?」
今度はさらに信じられなかったみたいで、目玉が落ちちゃわないか心配になるほど目を見開いた。
「洗いますよ。
さすがに、手洗いコースですが」
「……はぁーっ」
また、三橋さんの口からため息が落ちていく。
「私は決まりに縛られず、カジュアルに、自由に着ているつもりでしたが、まだまだですね……」
そんなに落ち込むことなんだろうか。
だって三橋さんはそういう世界に住んでいるんだから、私のような乱雑にやっているのは知らないのは当たり前で。
「……精進します」
「えっ、精進とかそんな!
三橋さんが好きなように着ればいいんですよ」
すっかり下を向いてもそもそ玉子サンドを囓っているけれど、……ねえ?
「……私の着物も洗濯機で洗ってしまってください」
「それはさすがに、勘弁してください!」
うー、なんか変な、三橋さんのコンプレックススイッチ押しちゃったよー。
「まあさすがに、それは冗談ですけど」
「冗談、ですか」
慌てた私がおかしかったのか、くすっと小さく三橋さんが笑う。
それはちょっと、性格悪いぞ。
「でも今度、可愛い鹿乃子さんがよく利用しているお店を教えてください。
私も洗濯機でガラガラ洗える着物が欲しいです」
「それなら、喜んで」
やっと気持ちは浮上したのか、顔を上げて最後のサンドイッチを三橋さんは口へ入れた。
今日は三橋さん車で実家へ向かう。
当然、運転は三橋さんだ。
「おはよーございます」
「おはよー」
母屋に声をかけ、さっさと工房を開ける。
いつもどおり掃除をして準備をした。
三橋さんはこのあいだ、祖父とお茶タイムだ。
ちらりと一度、覗いてみたら、相変わらず噛みついてくる祖父を、にこにこ笑いながら三橋さんがのらりくらりとかわしていた。
どうも最近、祖父の扱いに慣れてきたらしい。
「じゃあ今日も、帳簿を見せてもらいますね」
そのうち、父たちと工房へ来た三橋さんは大量に帳簿を積み、隅に置いてあるパソコンと向き合った。
内容を精査しつつ、いまだに電子化していない帳簿を入力してくれている。
「いつもながら、早いな」
父が作業の手を休め、ほぇーっと感心しながら三橋さんの手元を見る。
そこでは目にも留まらぬ速さでキー入力が続けられていた。
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