【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第3章 祖父VS三橋さん10

「そんなに無理に、詰めてくることないですよ。
私は仕事ですから」

休みのたびに来るのは大変じゃないだろうか。
交通費はおいておいて、移動だけでも疲れるはず。

「私が可愛い鹿乃子さんに会いたいだけなので、気にしないでください」

「はぁ……」

さらりと三橋さんは言ってくるけど、恥ずかしくないのかな?

「今日、仕事が終わって、間に合えばそのままこちらへ来ます。
また、連絡しますね」

「だからそんな無理をしなくても……」

「私が可愛い鹿乃子さんに、一分、一秒でも早く会いたいだけなので」

……うん。
だんだん、心配するのが虚しくなってきた……。

改札の前で今日も、彼は私の手を握ったまま立っている。

「このまま、可愛い鹿乃子さんも連れていけたらいいのに……」

手が引っ張られ、前回のことがあるから踏ん張った。
けれど三橋さんの方が力が強く、結局その胸に飛び込まさせられる。

「早ければ今晩にはもう会えるのはわかっているのに、こんなにも離れがたい」

ぎゅっ、と私を包み込んだ三橋さんからは今日、父と同じボディソープのにおいがした。

「……愛してる、鹿乃子」

三橋さんの手が、私の顎を持ち上げる。
ゆっくりと顔が近づいてきて、え、まさかキスする気!? と怖くなって目を閉じた。

「じゃあ、また、夜」

するりと名残惜しそうに私の頬を撫で、彼が改札の向こうへと消えていく。

「……キス、しないんだ」

そっと、自分の額を押さえる。
三橋さんの唇が触れたのは、額だった。

「帰って仕事、しよ」

あの人は強引に押してくる癖に、こういうところは一線を越えない。
それはどこか、安心できたし嬉しかった。

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