【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
第3章 祖父VS三橋さん9
「ええーっ」
渋々ながらお風呂に入る。
上がったときには宣言どおり、私の部屋に三橋さんの分の布団が引かれていた。
「ここが可愛い鹿乃子さんの部屋ですか」
昔の彼氏がゲーセンで取ってくれた、ピンク色の大きなうさぎのぬいぐるみを抱いて三橋さんが部屋の中を見渡す。
ちなみにぬいぐるみは未練があるとかではなく、なんとなくそのまま置いてあるだけだ。
あと、抱き心地がいいから。
「可愛い鹿乃子さんらしく、可愛い部屋ですね」
にへら、と実に締まらない顔で三橋さんは笑った。
小学校高学年になってもらったこの部屋は、あの当時からあまり変わりがない。
学習机は若干のカスタマイズはしたもののそのまま使っているし、ベッドもマットレスは替えたが、フレームはそのままだ。
「幼いだけですよ」
この部屋を出ていくだなんて、考えたこともなかった。
なんとなく、お婿さんをもらってこの家で暮らし続けていくんだって思っていたから。
「我が家も、素敵な家にしましょうね」
にこにこと嬉しくて仕方ないという顔で三橋さんは笑っている。
結局、祖父との飲み比べに勝った彼は、私との同居をもぎ取った。
「そう、ですね……」
とはいえ、どこまでカスタマイズしていいのかは悩むところ。
住むなら居心地がいい方がいいが、最大四ヶ月ほどの話なのだ。
三橋さんと結婚すればずっとあそこに住むのだろうが、私にはまだその気はない。
「明後日、また来ます。
今度は連休なので、ゆっくり……」
次第に声が小さくなっていき、そのうち聞こえなくなった。
「三橋さん?」
ベッドから見下ろすと、ぬいぐるみを抱いたままぽてっと倒れ、スースーと気持ちよさそうな寝息を立てている。
「風邪、引きますよ」
苦労して身体の下からタオルケットを引き抜き、かけてやる。
「……ふふっ。
鹿乃子、さん……可愛い……」
幸せそうに笑いながら、三橋さんはぬいぐるみを私と思っているのか、ぎゅーっと抱き締めて眠っている。
そういうのが可愛くて、憎めないんだよね、この人。
「私も寝るか……」
電気を消してベッドへ潜り込んだ。
朝はいつもよりも早く起きた。
三橋さんを七時の新幹線に乗せなければいけない。
店の開店時間には間に合わないが、遅れると連絡を入れているので大丈夫だと言っていた。
「お風呂、ありがとうございました」
朝ごはんを作っていたら、三橋さんがお風呂から上がってきた。
今日はまだ、両親も祖父母も起きてきていない。
私がやるから寝ていていいよ、とも言ったしね。
「朝ごはんできてるんで、よかったら食べていってください」
テキパキとご飯や味噌汁をよそい、三橋さんの前へ並べていく。
「なにからなにまですみません……」
恐縮しつつ、三橋さんはダイニングの椅子に座った。
「鹿乃子さんが作ってくれたんですか」
「はい。
お口にあうかわかりませんが」
私もエプロンを外し、一緒にテーブルに着く。
「可愛い鹿乃子さんが作ってくれた食事が朝から食べられるなんて、幸せです」
なんだか噛みしめているが……たいしたものは作っていないけれどね?
「いただきます」
まるで拝むかのように手をあわせ、三橋さんは箸を取った。
そのままお椀を手に、ひとくち。
「美味しいです。
鹿乃子さんは可愛いだけじゃなく、料理も上手なんですね」
眼鏡の下で目尻を下げ、にっこりと笑われれば頬が熱くなっていく。
「……変なこと言ってないで、さっさと食べちゃってください。
間に合わなくなります」
「そうですね」
照れて、ありがとうと言えなかった。
いくら相手が三橋さんでも、そういう素直じゃない自分、嫌い。
食べ終わり、母の車で駅まで送る。
「じゃあ、次は明後日……もう、明日ですね。
来ますので」
渋々ながらお風呂に入る。
上がったときには宣言どおり、私の部屋に三橋さんの分の布団が引かれていた。
「ここが可愛い鹿乃子さんの部屋ですか」
昔の彼氏がゲーセンで取ってくれた、ピンク色の大きなうさぎのぬいぐるみを抱いて三橋さんが部屋の中を見渡す。
ちなみにぬいぐるみは未練があるとかではなく、なんとなくそのまま置いてあるだけだ。
あと、抱き心地がいいから。
「可愛い鹿乃子さんらしく、可愛い部屋ですね」
にへら、と実に締まらない顔で三橋さんは笑った。
小学校高学年になってもらったこの部屋は、あの当時からあまり変わりがない。
学習机は若干のカスタマイズはしたもののそのまま使っているし、ベッドもマットレスは替えたが、フレームはそのままだ。
「幼いだけですよ」
この部屋を出ていくだなんて、考えたこともなかった。
なんとなく、お婿さんをもらってこの家で暮らし続けていくんだって思っていたから。
「我が家も、素敵な家にしましょうね」
にこにこと嬉しくて仕方ないという顔で三橋さんは笑っている。
結局、祖父との飲み比べに勝った彼は、私との同居をもぎ取った。
「そう、ですね……」
とはいえ、どこまでカスタマイズしていいのかは悩むところ。
住むなら居心地がいい方がいいが、最大四ヶ月ほどの話なのだ。
三橋さんと結婚すればずっとあそこに住むのだろうが、私にはまだその気はない。
「明後日、また来ます。
今度は連休なので、ゆっくり……」
次第に声が小さくなっていき、そのうち聞こえなくなった。
「三橋さん?」
ベッドから見下ろすと、ぬいぐるみを抱いたままぽてっと倒れ、スースーと気持ちよさそうな寝息を立てている。
「風邪、引きますよ」
苦労して身体の下からタオルケットを引き抜き、かけてやる。
「……ふふっ。
鹿乃子、さん……可愛い……」
幸せそうに笑いながら、三橋さんはぬいぐるみを私と思っているのか、ぎゅーっと抱き締めて眠っている。
そういうのが可愛くて、憎めないんだよね、この人。
「私も寝るか……」
電気を消してベッドへ潜り込んだ。
朝はいつもよりも早く起きた。
三橋さんを七時の新幹線に乗せなければいけない。
店の開店時間には間に合わないが、遅れると連絡を入れているので大丈夫だと言っていた。
「お風呂、ありがとうございました」
朝ごはんを作っていたら、三橋さんがお風呂から上がってきた。
今日はまだ、両親も祖父母も起きてきていない。
私がやるから寝ていていいよ、とも言ったしね。
「朝ごはんできてるんで、よかったら食べていってください」
テキパキとご飯や味噌汁をよそい、三橋さんの前へ並べていく。
「なにからなにまですみません……」
恐縮しつつ、三橋さんはダイニングの椅子に座った。
「鹿乃子さんが作ってくれたんですか」
「はい。
お口にあうかわかりませんが」
私もエプロンを外し、一緒にテーブルに着く。
「可愛い鹿乃子さんが作ってくれた食事が朝から食べられるなんて、幸せです」
なんだか噛みしめているが……たいしたものは作っていないけれどね?
「いただきます」
まるで拝むかのように手をあわせ、三橋さんは箸を取った。
そのままお椀を手に、ひとくち。
「美味しいです。
鹿乃子さんは可愛いだけじゃなく、料理も上手なんですね」
眼鏡の下で目尻を下げ、にっこりと笑われれば頬が熱くなっていく。
「……変なこと言ってないで、さっさと食べちゃってください。
間に合わなくなります」
「そうですね」
照れて、ありがとうと言えなかった。
いくら相手が三橋さんでも、そういう素直じゃない自分、嫌い。
食べ終わり、母の車で駅まで送る。
「じゃあ、次は明後日……もう、明日ですね。
来ますので」
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