【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳

第2章 可愛い鹿乃子さん10

「もらおうかな」

「わかった」

もうひとつグラスを出して麦茶を注ぎ、ボトルを冷蔵庫へ戻す。
母は茶の間へ置きっぱなしだった携帯を取りに来たようだ。

「おじいちゃん、鹿乃子が帰ってこないってずっと、うろうろして待ってたのよ」

台所へ来た母が、ダイニングチェアーへ座るので、私も座った。

「ふーん、そうなんだ」

麦茶を三口ほど飲み、グラスをテーブルの上に置く。
連絡はちゃんと入れたのだ、三橋さんと夕食を食べて帰るから遅くなる、って。

「あたまごなしに反対しちゃいけない、ってわかってるけど、おじいちゃん、爺バカだから」

「……だよね」

母が小さく笑い、私もつられて笑う。
小さい頃からそれこそ、目の中に入れても痛くないほど可愛がられた。
悪いことでない限り、私のすることはなんでも喜んでくれた。
そんな孫の求婚相手など、認められないのはわかる。

「明日、じいちゃんの好きな麩まんじゅう、買ってくるよ。
それでご機嫌、治らないかな」

「鹿乃子が買ってきてくれたんなら、一発よ。
……じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」

麦茶を飲み終わった母が先に椅子を立つ。
グラスを洗って私も、部屋に戻った。

「……あ。
そういえば、メッセ、届いているんだった」

放置してあった携帯を見たら予想どおり、三橋さんからメッセージが届いていた。

【あんなことって、なんですか?
私、なにかしましたっけ?】

「なにかしましたっけ、ってさ……」

とぼけるのか、あれを!?

【今日は抱き締めた可愛い鹿乃子さんの感触を思いだしながら寝ます】

【次、会えるのを楽しみにしています】

【おやすみなさい】

分身のつもりなのか、同じ眼鏡男子のスタンプが混ぜて貼ってある。
しかも、言うことがなんだか恥ずかしい。

「いますぐお試し期間終了、とか言いたい……」

いや、今日一日で彼のすべてがわかったわけじゃない。
ただ、私はあの人の、TL小説ヒーローぶりが非常に恥ずかしいだけで。
ええ、三橋さんは少女まんがでは鉄板、なんて言っていたが、同じくその設定が鉄板のTL小説が愛読書ですが、なにか!?

「年末までってけっこうある……」

まだお試し期間ははじまったばかりなのだ。
これから先が……不安。

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