【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第八章 零士さんを愛してる11

「その。
……零士さんは昔、私を助けてくれた人ですか?」

じっと、零士さんの顔を見上げる。
そうだと思いたい、いやきっとそうに違いない。

「思い出したのか」

目尻を下げ、うっとりと彼の手が私の髪のひと束を取る。

「……はい」

零士さんが中学生のとき、私を助けてくれたお兄さん。

お見合いの日、機嫌が悪かったのはきっと、私が忘れていてはじめましてなんて挨拶したから。
初夜、私は拒んだのにも関わらず怒らず雰囲気が変わったのは、好きな人として語られたのが自分だったからに違いない。

「ずっと、清華と結婚できる日を待っていたんだ」

くるくると零士さんの指先が、私の髪を弄ぶ。

「あのあとから清華の父上に、清華の様子をときどき尋ねていた。
清華が夢を実現させるのが、楽しみだったんだ。
でも話を聞いているうちにだんだん、清華に惹かれていって……好きに、なっていた」

ちゅっと口付けしされ、離された髪がさらさらと落ちていく。

「清華を俺のものにしたい。
それで清華の自由が終わる直前に、父上に結婚を申し出たんだ。
……なのに清華が俺を、忘れているとはな」

ははっと嘲笑するように零士さんは笑いを落とした。

「ごめんなさい。
でも、零士さんも早く言ってくれればよかったのに」

「覚えているのが俺だけとか、悲しすぎるだろ」

拗ねているのか、零士さんは小さく口を尖らせた。

「それで。
俺は清華が好きだ。
愛している」

零士さんが熱い瞳で私を見つめる。
予想が確信に変わり、喜びが身体中を駆け巡っていった。
これほどまでの幸せがあっていいんだろうか。

「零士さん……」

好き。
零士さんが好き。
愛している。
こんなにも気持ちは溢れているのに、感情が昂ぶりすぎて言葉になって出てこない。
自然と両手が零士さんの顔を掴み、唇を重ねていた。
自分から彼の中に侵入し、舌を絡める。
一瞬、驚いたように固まった彼だったが、すぐに彼の方からも求めてきた。

「……ん……ふっ……」

熱のこもった甘い吐息が、息継ぎするたびに私の口からも零士さんの口からも零れる。
後ろ頭に回った彼の手が、私の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した。

「……」

唇が離れ、黙って見つめあう。
欲に濡れた瞳が、レンズの向こうから私を見ていた。

「……清華」

「……はい」

期待で胸が高鳴る。
ああ、私はこれで……。

「続きはまだおあずけだ」

「へ?」

わけがわかっていない私の髪を手ぐしで直し、零士さんが軽く唇を触れさせる。

「怪我に響くからな」

「……零士さんの意地悪」

こんなに盛り上がっていたのに、おあずけだなんてあんまりだよ……。

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