【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第八章 零士さんを愛してる9

私は気にしていないから彼女を責めないであげてと言いたいが、もうその気力はない。

「おやおや。
私どもはそのお嬢様に命じられてやっただけですが」

「はっ、シラを切るのか。
キサマが鞠子を唆し、ことを企んだのは調べがついているんだぞ」

「はて、なんのことですか?」

男はどこまでもとぼけていて、最初の胡散臭いキツネというイメージはあっていたようだ。

「……土蜘蛛つちぐも組」

零士さんの口からその名が出た途端、空気が緊張した。

「フロント企業が摘発されて大変らしいな」

「……さて。
なんのことやら」

「関係ないならいいけどな。
今頃、組に家宅捜索が入っているはずだ」

「なっ!?」

男が慌てると同時に証明するかのように携帯が鳴る。
落ち着かず話す男の声と共に、足音が遠ざかっていった。

「鞠子。
この話はすでに、君の父親の耳に入っている。
早く帰れ」

私を抱え直し、零士さんは歩きだす。
待たせてあった車に乗り、私の腫れた頬にそっと触れた。

「遅くなってすまない」

彼の声は後悔に沈んでいる。
ただ黙って首を振ったところで意識は途切れている。



目を開けたら、酷く心配そうな零士さんの顔が見えた。

「れい、じ、……さん」

頬が痺れて、唇が動かしにくい。

「しゃべらなくていい。
痛くないか?」

無言でそれに首を振る。
熱を持ち、じんじんとする頬は痛みすら感じなかった。

「れい、じ、さん」

……ここは、どこ?
家ではないみたいだけれど。
あれから、私は……。

「ここは病院だ」

黙ってわかったと頷く。

「幸い、頬の腫れと軽い脳震盪以外、異常はないそうだ」

触れた両頬には湿布が貼られていた。
零士さんの手が伸びてきて、私を抱き締める。
その手は、カタカタと心細そうに震えていた。

「遅くなってすまなかった」

零士さんは助けに来てくれたのに、どうして詫びるんだろう。
また黙ってううんと首を振る。

「清華はこんな目に遭わせた俺を、許してくれるんだな」

眼鏡の向こうで目が泣きだしそうに歪む。
手を伸ばし、その頬に触れた。

「れいじさん、は、わるくない、……ので」

彼の手が私の手に重なる。
甘えるようにその頬が手に擦りつけられた。

「清華……」

「それより、も。
どういうこと、……か、おしえて、くれ、……ます、か?」

古手川さんを陥れたのが、あのキツネ男だというのは話からわかった。
でもなんで、鞠子さんを利用してまで零士さんと私を別れさせたいのかわからない。
それに、土蜘蛛組って?

「清華は知らなくて……というのはダメだよな。
俺が惚れた清華はそういう女だ」

じっと見つめる私に困ったように笑い、額に口付けを落として零士さんが手が軽く髪を撫でる。

「そうだな、俺が知りうる限りのことを話そう」

私が頷くと、彼はゆっくりと口を開いた。

零士さんに聞いた内容によると。
指定暴力団土蜘蛛組は最大手のフロント企業を詐欺と脱税で摘発され、資金繰りに困っていた。
それで鞠子さんに近づいたのがあのキツネ男だ。
彼にすれば私と零士さんが別れようと別れまいと問題はなく、重要なのは鞠子さんが彼らと関わりを持ったという事実だけだ。
娘が暴力団関係者と繋がりがあるとなれば、父親を強請れる。

結局、彼の企みは零士さんによって潰えた。
零士さんは古手川さんの件から土蜘蛛組に当たりをつけ、秘密裏に動きを探っていたみたいだ。
それを警察へ流したおかげで家宅捜索となり、しばらくはバタバタしそうだからこの件はうやむやになるだろうって、零士さんは笑っていた。

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