【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第七章 最低な元上司の許せない事情7

「仲良くだなんて、そんな……」

零士さんがにっこりと笑い、鞠子さんはぽっと顔を赤らめる。
しかしあれは完全に営業スマイルだ。

「これからもよろしくお願いしますね。
皆さんも」

これ以上ない笑顔で零士さんが周囲に微笑みかける。
さすがに黄色い声こそ上がらなかったが、それでも額に手の甲を当て、よろめいている人はいた。

今日のお稽古は零士さんのおかげで、落ち着きがなかった。
アイドルが現れたようなものだから、そうなるのも仕方ない。

「私が零士さんとご一緒に」

「あなたの家格で零士さんとご一緒できるとでも?
私が」

繰り広げられる争奪戦を、呆れてみていた。
お義母さまは笑っているが、それしかできないのだろう。
単純に零士さんの取り合いならまだ微笑ましく見られるが、家や社会的地位とかで競うなんて私は理解したくない。

そんな中で早々に鞠子さんは零士さんの隣を勝ち取って……譲られていた。
私と結婚してもなお彼女の、零士さんのお嫁さん候補ナンバーワンの地位は揺るがないらしい。

醜い争いの末、ようやく決まった人間が妬み恨みの視線に見送られて茶室に入る。

「清華は来ないのか?」

私がいないのに気づき、零士さんが外まで迎えに来た。

「あ、私は遠慮しておきます」

私の返事で、一気に零士さんが不満げになっていく。

「清華と一緒じゃないなら俺もあとでいい」

彼が外れ、茶室の中が大きくざわめいた。
零士さんがいないなら私も、なんて声も聞こえる。

「皆さん!
お稽古中ですよ!」

とうとう耐えかねたお義母さまが、ぱんぱんと大きく手を打ち鳴らす。
それでその場は静かになった。

「お稽古を再開します。
皆さん、お座りになって」

静かだが確実に怒りのこもったお義母さまの声で、茶室にいた人間が渋々ながら腰を下ろす。

「母上。
俺がいると皆が落ち着かないみたいなので、清華共々今日はお暇させていただきます。
父上によろしくお伝えください」

零士さんの手が、私の肩を抱き寄せる。

「そうね。
そうしてちょうだい」

しっしと邪険に追い払うように手を振り、お義母さまは襖を閉めた。
その際、鞠子さんが憎しみを込めた目でこちらを睨んでいるのが見えた。

「さ、帰ろう、清華」

零士さんに促されてお稽古場を出、車に乗る。

「よかったんですか……?」

「いいんだ、目的は果たしたし」

秘書が運転する車の中、零士さんはドアに肘をついて外を見ている。
目的って……やっぱり、そうなんだ。
零士さんが皆に、釘を刺しに来たのだというのは直感していた。
でも、なんで?
私はひと言も、お稽古での嫌がらせで困っているだなんて漏らしていない。
まだ私の知らないなにかがあるんだろうか……?

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品