【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第七章 最低な元上司の許せない事情6

「本当は自分の気持ちは鴇田に伝えないつもりだったんだ」

隣を歩く古手川さんは、憑きものでも落ちたかのように晴れ晴れとした顔をしている。

「でもこれが、後ろ盾になる神鷹さんの条件だったから」

なんでそれが条件なのか私にはわからないが、古手川さんは納得しているようだ。

「神鷹さんと幸せにな。
僕にできることがあったら、なんでも言ってくれ」

「はい、ありがとうございます。
そのときはよろしくお願いします」

今日は笑顔で彼と別れる。
きっとなにかあっても、古手川さんを頼らないだろう。
もう彼とは元の関係には戻れない。
変わってしまった関係が、酷く淋しかった。

今日は零士さんが帰ってきた。

「古手川と会ってきたんだろ?」

私をソファーに導きながら、どことなくそわそわとしているのはなんでだろう……?

「はい、零士さんにお礼を言っておいてくれと言われました」

「他には?」

他には、とは?
少し考えて口を開く。

「……好きだったと言われました」

「うん、それで?」

それで、とは?
零士さんは落ち着かずに私の返事を待っているが、なにを求められているかまったくわからない。

「えっと……?」

「うん、それならいいんだ」

なんだかわからないが零士さんがひとり、納得するという形でこの話は終わった。
本当になんだったんだろう?
あ、これが条件とやらになにか関係している?

「私に気持ちを伝えるのが後ろ盾になる条件って、なんでですか?」

「えっ、……うん」

私から視線を逸らした零士さんは、眼鏡の奥で目をきょときょと忙しなく動かしている。

「その、……ちょっとした嫌がらせ?」

ちらっと零士さんが、私の反応をうかがう。

「アイツが俺の清華に手を出したせいで、俺がどんな思いをしたと思う?
これくらい嫌がらせしてもいいだろ」

零士さんは拗ねているようだが、私にはやはりこれがどうして嫌がらせになるのかわからない。
しかし。

「零士さんの気が済んだのならいいです」

古手川さんを殴った彼は私のためだとは言ったが、自分の気持ちはぶつけなかった。
その彼がこれが嫌がらせだと言うのだ。
なら、それでいいと思う。

「清華は本当に可愛いな」

私を抱き締め、零士さんが口付けの雨を降らしてくる。

「零士さん、くすぐったいです」

「もっと清華を可愛がりたいが……それはすべてが片付くまで取っておくよ」

気が済んだのか零士さんが離れる。
〝すべて〟ってなんなんだろう?
あれで終わりじゃないのかな……?



翌日のお茶のお稽古に、零士さんは着いてきた。

「今日はどうしたんですが?」

今まで一度も、零士さんはお稽古どころか義実家へすら行かなかった。

「んー、たまには母に顔を見せとかないとな。
あまり顔を出さないと、生きているか心配されるんだ」

それは……ちょっとわかる、かも。
あの忙しさだ、連絡がなければ私だって過労死していないか心配になる。

「零士さんよ」

お稽古場に零士さんが着いた途端、その場が色めきだった。

……だよね。

零士さんの動きに視線が着いていく。
私もスーツ姿の零士さんは見慣れたが、今日の零士さんは着物姿。
私でも目のやり場に困るくらいだから、他の人はさらにだろう。

「零士さん、おひさしぶりです」

人並みが割れ、そこから鞠子さんが零士さんの前に出てきた。

「ひさしぶりですね、鞠子さん。
いつも私の妻と仲良くしてくださっているみたいで、ありがとうございます」

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