【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第七章 最低な元上司の許せない事情3

「だから……」

ズルい。
そんな人、絶対に許せない。

「それで。
清華はその古手川を助けたいんだな?」

レンズの向こうから零士さんが私を真っ直ぐに見つめる。
零士さんはあの写真を見ているのだ。
私を陥れようとした人間を助けたいだなんて、甘いと言われるだろうか。
それとも……いい気味?

じっと零士さんの目を見て問う。
あなたはあれを見てなにを考えているんですか?
零士さんはきっと、私を信じてくれているはず。
私にあんな行為をした古手川さんを憎んでいても、死ねばいいとは思っていないはず。
私は――零士さんを信じる。

「はい。
私は古手川さんを助けたいです」

視線は絶対に逸らさずに強い意志を込めて答えると、零士さんは目尻を下げて満足げに頷いた。

「それでこそ、俺の清華だ」

ちゅっと軽く、彼の唇が重なる。

「清華のお願いだからな、俺が絶対に叶えてやる」

自分からお願いしておいてなんだが、本当に零士さんに甘えていいのかな。
少なくとも零士さんには、不快な思いをさせているのに。

「零士さん……」

――私に、なにか言いたいことはないですか?

そう言いかけた言葉は飲み込んだ。
零士さんの目が、あれは見なかったことにするよと語っていたから。

「あとは俺に任せて、清華は衣装作りとブランド立ち上げに集中したらいい」

「いいんですか……?」

私だけそんな、なにもしないだなんて。
目を合わせたまま零士さんが唇を重ねる。

「清華の心配事はすべて取り除いて、夢を追いかけることだけに集中できるようにするのが俺の務めだからな」

零士さんは当然だとばかり笑っているが、……そんなの。

「零士さん!」

突然、私から両頬を叩かれ、彼は眼鏡の下で目を丸くした。

「私の力でできることは自分でやります。
無理なときは今日みたいに頼りますから、そのときはお願いします。
私を……見くびらないで」

ギッと思いっきり零士さんを睨み上げる。
きっとこんなの、彼には効かないだろうけれど、私の意思が少しでも伝わればいい。

「そうだったな」

くつくつと面白そうに零士さんが笑う。

「俺の惚れた清華は、そういう女だった」

両手で私の頬に触れ、零士さんは私と額をつけた。

「見くびっていたわけではない、俺が清華のためになんだってしたいだけだ。
それが……過度な甘やかしになっていたんだな」

眼鏡の上の隙間から、零士さんが私をうかがっている。

「これからは気をつける。
……許して、くれるか」

そんな……怒られた子犬みたいな目で見られたら、許すしかないじゃない。

「わかってくれたんならいいです」

せっかくのこの距離なので、自分から唇を彼の唇に触れさせる。

「えっ、あっ、清華!?」

「これで仲直りです」

零士さんを真似て、右の頬を歪めて笑う。

「格好よくて惚れ直しそうだ」

今度は彼から、唇が重なった。

それでも古手川さんの件は私ではどうしようもできそうになかったので、零士さんにお願いした。

「んー、ちょっと気になることもあるしなー。
とりあえず一週間……いや四日でいいから時間をくれ。
明日からの上海行きもキャンセルできないからな」

夕食は、私が作れそうにないと気配を察知したのか、メイドさんが作ってくれていた。
本当に申し訳ない。

「それくらいは大丈夫……と思いたいです。
古手川さんにはなにかあったら連絡くれるようにお願いしておきます」

気になることって……私たちを離婚させたい理由だよね。
それは心当たりがありすぎて困る。
小さな理由なら、鞠子さんのようにただ単純に格好いい零士さんと結婚したい。
大きいのは零士さんと――神鷹家と婚姻関係になり、さらなる支配層になりたい。
そう考えている人間はたくさんいる。

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