【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第六章 デートはホテルで8

結局、梅酒を頼んだ。
零士さんは日本酒。

すぐに頼んだ料理とお酒が運ばれてきた。

「清華のブランド設立に」

「気が早いですよ」

笑って互いにグラスを上げる。

「零士さん、ありがとうございます」

改めて、彼へ頭を下げた。

「俺はなにもしていない」

嘯いて零士さんがグラスを口へ運ぶ。

「まあ、そのために会社を買ったのはあまり感心しませんが」

「清華のためじゃない、服を買うのが面倒くさかったんだ」

さらっと零士さんは言ってのけたが、なにを言っているのかさっぱり理解できない。

「私服を買うのが面倒くさくてな。
あの会社の服は気に入っていたし、これでもうわざわざ買う必要はない」

彼は淡々と先付けのカニの酢ものを食べているが、……そんな理由で?

「それに、他の会社の制服もあそこで作ればいいからな。
清華のためじゃない」

だから私のためじゃないと零士さんは強調してくるけれど、……そういうことにしておこう。

「そうだ、俺の服も清華が作ってくれたらいい」

零士さんはさもいい考えだといった顔をしているが。

「え、ええーっ?」

今日はウィメンズの話のみで、メンズの話はしていない。
しかし零士さんの結婚式の衣装は私が作っているし、メンズデザインができないわけではない。

「結婚式の衣装をブランドイメージで披露するのもいいよな」

零士さんは早速、携帯にメモしはじめたけれど、……ハイ?

「そのー、ドレスとかはブランドイメージに沿って作っているわけじゃないので……」

「あれをブランドイメージにして、それに沿って展開していけばいいだろ?」

零士さんの意見は一理ある。
あれは現在私の持てる技術のすべてをつぎ込んだ、現時点での最高傑作になるはずだ。
それをブランドイメージすれば、見栄えがいいだろう。
それにまだ、方向性についてはほとんど話していない。

「……ちょっと考えさせてください」

「わかった、その方向で動くように連絡しておく」

善は急げとばかりに零士さんは携帯に指を走らせているが、もうすでにメールかなにか送っているんだろうか。
話が完全に噛みあっていないが……課せられた課題だと思おう。

しゃぶしゃぶは……零士さんはお肉ばかり食べていた。

「お肉、好きなんですか?」

「好きだな」

もう何枚目かわからない牛肉が零士さんの口の中へと消えていく。

「追加頼むか」

「そうですね……」

返事をしつつ、傍らに置かれたお皿をちらり。
そこには手つかずの野菜が山盛りになっていた。
当然、鍋の中には出汁としゃぶしゃぶされる肉しかない。

「野菜も食べませんか……?」

「ん?
清華が食べたいのなら入れればいい。
俺は今日、肉が食べたい気分なんだ」

おずおずと申し出たものの、半ば却下された。
ここ数日、心配させたり喧嘩したりだったし、いいか。
それにこうやって彼がわがままするのは私の前だけだと知っているので、それはそれでちょっと嬉しい。

それでも野菜を少し入れてもらい、〆のおじやまで堪能して部屋に戻る。

「食べ過ぎました……」

零士さんが食べろ、もっと食べろと肉わんこそば状態でお皿に入れてくるから、お腹はパンパンだ。

「俺もひさしぶりに食べ過ぎた……」

行儀が悪いとわかっていながら、ふたりでごろんとベッドに寝転ぶ。

「零士さんはお肉が好きなんですか?」

「そうだな、肉は好きだが焼くより鍋がいいな」

今日の食べっぷりを見ていたらそれは納得だ。

「甘いものは?」

「嫌いじゃないな。
洋菓子より和菓子が好きだ」

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