【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第六章 デートはホテルで4

「んー、今はまだ言えない。
すぐにわかるから楽しみにしておけ」

「楽しみに……?」

わけがわかっていない私を今度はおかしそうにふふっと笑い、零士さんは私の唇にキスを落とした。

「もっと清華を可愛がりたいが、まだ仕事があるんだ」

もう一度口付けし、零士さんが私を膝から降ろす。

「明日、予定外の休みを取ってデートなんて無理しないでください」

彼の袖をそっと引き、その顔を見上げる。

「んー?
もう休みにしたからな、いまさらスケジュールを変更するのも面倒くさい。
それにしばらく、清華と出掛けられていないからな」

あやすように零士さんの唇が重なる。

「一緒に出掛けられるのは嬉しいですが、零士さんが無理をするのは嫌です」

「清華は優しいな」

私の頭をぽんぽんし、彼は仕事モードに入ったのかパソコンと向き直った。

「清華は先に寝ていていいからな」

彼はすでに、キーを打ちはじめている。

「なるべく早く、寝てくださいね」

邪魔はできなくて、それだけ言って部屋を出た。
それから私も遅くまで作業をしていたが、それでも私が寝るときにはまだ書斎に電気がついていた。
大丈夫なのかな……?



翌日、デートだと言いながら零士さんが私を連れてきたのは……アパレルメーカーだった。

「零士さん?」

「最近、買ったんだ」

意味がわからなくて顔を見上げるが、彼は涼しい顔をしている。
まさか……とは思うが、私の勘違いでありますように。

通された会議室には、三十代半ばくらいの男女が待っていた。

「じゃあ、よろしく頼む」

彼らにそれだけ言って零士さんは部屋を出ていこうとするが、少しくらい説明が欲しいです!

「……ああ。
清華は自分のブランドを立ち上げたいと言っていただろ?」

私の縋るような視線に気づいたのか、ドアに向かいかけた足を止めて零士さんが説明してくれる。

「だから今日は面接だ」

彼はさらっと言ってのけたが、……予感的中です。
私のためなのはわかるが、これはまーったく嬉しくない。
私は実力でブランドを立ち上げたいのであって、お金で買うなんて論外だ。

「零士さん!」

思わず抗議の声を上げた、が。

「俺は妻だろうが、実力のないものを採用する気はない」

レンズの向こうで切れそうなほど彼の目が細くなり、ビシッと背筋が伸びた。

「それにこの会社には清華が俺の妻だからといって忖度するような、無能はいないと信じている」

零士さんの言葉で怯えるように先にいたふたりの背中がびくりと大きく震える。
これは私も、彼らも責任重大だ。

「じゃあ、あとは頼んだ」

もう用は済んだとばかりに零士さんはさっさと部屋を出ていく。
残された三人で微妙な空気になった。

「では……」

気まずそうに女性の方が口を開く。

「以前勤めていらっしゃった会社での実績を拝見させていただきました」

「はい」

背筋をただし、彼女の話を聞く。

「今までの作品やお仕事を聞いてもよろしいですか?」

「はい」

聞かれるがままに趣味で作っていた中学時代から、会社員時代までの話をする。
さらには現在、結婚式の衣装を自分で作っている話も。

「そのドレスは見てみたいですね」

興味深そうに彼らが頷く。
〝金持ち妻の優雅な趣味〟などと思われているんじゃないかと思ったが、彼らは真摯に私の話を聞いてくれた。
……バックに零士さんの影がちらついているのもあるかもしれないが。

「実力は申し分ないかと思います。
ただ、オリジナルも見てみないことには判断ができません」

「はい、わかっています」

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