【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第六章 デートはホテルで2

「……その。
もっと……その、あの」

しかし私の口からはそのあのとしか出てこない。
軽くパニックになっていたら、零士さんが私の頭をぽんぽんした。

「ん、わかった。
清華、ありがとう」

顔が離れ、額に口付けが落とされる。
そっと私の顔を両手で挟んで眼鏡の奥からじっと見つめたあと、ゆっくりと彼が顔を近づけてきた。
私も目を閉じ、彼を待つ。
唇が重なり、ちろりと舐められて素直に口を開いた。
すぐにぬるりと彼が入ってくる。

「……ん……ふ……」

零士さんが私に触れるだけで喜びが全身を駆け巡っていく。
私の口からも零士さんの口からも、熱を帯びた甘い吐息が落ちた。
頭の芯が熱くなり、じんじんと痺れる。

……溺れる。

零士さん以外、なにも考えられない。
ただ、零士さんだけが……欲しい。

「……はぁーっ」

唇が離れ、黙って零士さんを見上げる。
これで、終わり?
私はもっと……。

「物欲しそうな顔をしているな」

頬に触れたまま零士さんの親指が、自身の濡らした唇をなぞる。
頭の中を見透かされたようで、一気に顔が火照った。

「あの、その」

「そんな目をするなんて、この先まであと少しかもな」

するりと頬を撫で、彼の手が離れる。

「……そのときが楽しみだ」

右の口端をふっと小さく上げ、零士さんが笑った。

「食事にしよう。
今日は昼が食べられなくて、腹が減ってるんだ」

「今日は私が作ったんですよ」

熱い顔を誤魔化すように笑い、零士さんに膝から降ろしてもらう。

「それは楽しみだ」

彼も笑って、ソファーを立った。

今日もご機嫌に、零士さんは私の作った料理を食べている。

「俺がいないあいだになにか……あったよな」

右頬を歪め、ニヤリと零士さんが笑う。

「……零士さんは意地悪です」

昨晩のあれは十二分に反省したし、もうすでに葬り去りたい黒歴史なので触れないでもらいたい。

「わるい、わるい。
他にはなかったか?」

「ないですよ。
あ、零士さんの衣装の仮縫いが終わったので、時間があるときに着てみてほしいんですが」

「できたのか!」

ぱーっと零士さんの顔が輝き、苦笑いしてしまう。

「仮縫い、なのでまだできあがりではないですよ」

「それでも楽しみだ」

零士さんが喜んでくれるのが嬉しい。
仮縫い衣装を見ても同じ反応だったらいいな。

「あ、そうだ。
古手川さんがお店を手伝ってくれないかって言われたんです、が……」

言葉は尻すぼみになって消えていく。
それほどまでに零士さんは冷たい目で私を見ていた。

「ダメだ」

すべて言い終えないうちに、却下された。

「なんでですか?
昨日、古手川さんと……」

「それとこれとは別問題だ」

かぶせ気味に零士さんが否定する。
しかし別問題と言われても、それが原因としか思えない。

「理由を教えてください。
じゃないと納得できません」

「とにかくダメだ!」

大きな声を出し、零士さんがテーブルを叩く。
おかげで身体が大きく震えたが、これくらいで私が怯むとか思わないでもらいたい。

「古手川さんとの仲を疑っているんですか?」

「違う」

否定しようとそれしか考えられない。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品