【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第五章 新妻の朝帰りは許されません6

「私はー、鴇田さんの作る服、認めてたんだからねー」

「あー、はい。
ありがとうございます」

皆さん、一次会でほどよくお酒が回っているので、絡まれた。

「なのに家庭に入って埋もれるとか、有望なデザイナーの損失だよー!」

「ありがとうございます……」

苦笑いで注がれるお酒をグラスで受ける。
そうだった、皆さん普段はいい方なのだが、お酒が入るとよく言えばとても陽気になるのだ。

「飲んでる!?
鴇田さん!」

「はい、飲んでます」

新手に笑ってグラスを上げ、証明してみせる。

「私はー、鴇田さんの作る服がすごーく好きでさー」

「ありがとうございます」

褒めてくれるのは嬉しいが、……そろそろ帰りたい。
時計はすでに、十時を回っている。
隙を見て携帯を確認したら零士さんから、あれだったら迎えに行くから連絡しろとメッセージが入っていた。

「あのー、私そろそろ……」

おずおずと手を上げ、申し出てみる。
――しかし。

「えー、もう帰るのー!?」

「もしかして帰ってこいとか言われたとか?
旦那さん、厳しすぎなーい?」

すぐにブーイングの嵐が巻き起こった。

「あ、えと。
そういうわけじゃないんですが」

ううっ。
私だってもうちょっといたい。
でも零士さんが帰っているんだから早く帰りたいというのもある。

「その。
……じゃあ、あとちょっとだけ」

あと三十分だけ。
次、いつ会えるかわからないし、零士さん許してください……。

……なんて言い訳した私が目を覚ましたのは、古手川さんと一緒の毛布の中だった。

「へっ!?」

目を覚ました瞬間、一気に血の気が引いていった。
あれから断りきれずに飲んで、寝落ちたのまでは百歩……一万歩譲ってよしとする。
でも、古手川さんと一緒の毛布なんて……!

早く帰らなければと携帯を探しだす。
そこにはおびただしいほどの零士さんからのメッセージと着信履歴か表示されていた。
そのせいか、電池残量はレッドゾーンに突入している。
とりあえず、すぐに帰ると零士さんに連絡を入れようと、一番上の着歴をタップして折り返す。
しかし、ワンコールも鳴らないうちに携帯は沈黙した。

「嘘……」

もう日付も変わり、終電もとっくに終わった時間。
どうしていいかわからなくてパニックになっていたら、古手川さんが起きた。

「んー……。
鴇田、起きたのか……?」

「古手川さん!
すみません、タクシー呼んでもらえますか!?」

こんなの、零士さんに申し分けなさすぎる。

「んー?
このまま泊まっていけばいいだろ」

「そういうわけにはいきません!」

「はいはい、わかった……」

抗議すると、ふぁーっとあくびをして後ろ頭をぼりぼり掻きながら、まったく緊張感なく古手川さんはタクシーを呼んでくれた。
そのあいだに手早く帰る準備をする。
残っているのは私と彼だけで、他の人は全員帰ったようだ。
というか、せめて帰るときに起こしてほしい。

「五分くらいで来るってよ」

「ありがとうございます!」

五分の時間も待てなくて、店の前をうろうろした。

「そこまで焦る必要ないだろ」

「あります!」

古手川さんはのんびりとしているが、これは独身と既婚者の認識の違いだろうか。

そのうち、待ちわびていたタクシーが来た。

「すみません古手川さん。
また改めて」

「ああ、気をつけて帰れよ」

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