【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第三章 零士さんのお嫁さん候補とは仲良くなれますか?8

「……これで、いいですか?」

ゆっくりと目が開き、零士さんとレンズ越しに視線が合う。
彼は熱のこもった目で私を見ていた。

「……足りない」

零士さんの手が私の顔を掴む。
今度は彼の方から唇が重なった。
けれどそれはなかなか離れない。
これっていつ、息をしたらいいんだろう?
そろそろ、苦しい……。

「……補充、完了」

離れた零士さんは私と目を合わせ、口角を僅かに持ち上げた。
その顔に、全身がみるみる熱を持っていく。

「あ、……はい。
そうですか」

補充って、なんの?
よくわからないけど……零士さんがいいならいいか。

私を落とさないように支えながら、零士さんはソファーの傍らから紙袋を取りだした。

「清華にお土産」

「私に……?
開けてもいいですか」

「ああ」

がさがさと袋を開けて中身を取りだす。

「これは……布?」

中からはいくつも、布の束が出てきた。

「こういうのが清華の服作りに使えるのかわからないが、とりあえず見本?
気に入ったのがあったら、今度一緒に買いに行こう」

ぼりぼりと零士さんは照れくさそうに、首の後ろを掻いている。

「ありがとうございます!」

たぶん、50センチ幅くらいの布がこんなにたくさん。
見本はもちろんだが、この幅ならバッグとか小物が作れる。
なに作ろうかなー?
妄想がはかどっちゃう。

「そのー、清華?」

「はい?
……あ」

遠慮がちに声をかけられて零士さんに抱きついている自分に気づき、そろそろと離れる。
こんなの、恥ずかしすぎる。
それに、はしたないよね……?

「清華から抱きついてくれるとか、嬉しすぎる」

緩む顔を見られたくないのか、零士さんは口もとを手で隠して顔を逸らした。

「あ、えと。
……そう、ですか」

これくらいで喜んでくれるなら、……たまにはいいかな。

「あ、他にも入ってますね」

紙袋の底は小箱がひとつ、残っていた。
手に取って蓋を開けてみる。

「ピアス……?」

中には、赤い石のピアスが入っていた。

「バタバタして清華に誕生日プレゼント、渡すの忘れていたなと思って」

誕生石のルビー、遅れたからといって嬉しくないわけがない。
しかし。

「嬉しいんです、が。
……私、ピアスあけてないんです……」

「す、すまない!
確認すればよかったんだが……」

あっというまに零士さんが萎んでいく。
せっかく私のために買ってきてくれたのに、申し訳ない。

「あ、でも。
いい機会なので、これを機にあけようかな?」

別に、ピアスをあけたくない理由があるわけじゃない。
あえて言うなら怖いだけで。
それに、ピアスの方が安くて可愛いのがいっぱいあるから、あけたいなとは思っていた。

「別に無理しなくていいんだぞ?」

眼鏡の下で眉を僅かに寄せ、零士さんが聞いてくる。

「無理とかしてないですよ。
前からあけようかなーとは思っていましたが、思い切れなかっただけで」

そうだ、明日にでもピアッサーを買ってこよう。
それでもやっぱり怖かったら、病院であけてもいい。

「そうか。
なら……俺があけてやろうか?」

零士さんの指先が、場所を確認するかのように私の耳朶に触れる。

「あの、ひとりで大丈夫ですから……」

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