【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~

霧内杳

第三章 零士さんのお嫁さん候補とは仲良くなれますか?2

「そんな顔をするな。
すぐに帰ってくる」

私の顔を見た零士さんが、からかうように小さくふふっと笑う。

「べ、別に、淋しいだなんて思っていません!」

熱くなった顔で反論した。
淋しいなんてまったく……少し思っている、けど。
それよりも、もしかしたら新婚旅行で無理させたんじゃないかと気になった。

「そうか。
それは残念だ」

零士さんはさっきと同じように笑ったけれど、それはどこか淋しそうだった。

「あの。
……早く帰ってきてくださいね」

顔は見られなくて、俯いて彼のジャケットの袖口を摘まむ。

「そんな可愛いこと言われたら、張り切ってしまって仕事が早く片付きそうだ」

腰を落としてしゃがみ込み、私の顔をのぞき込んだ零士さんの唇が私の額に触れた。

「その。
無理はしなくていいので」

「清華は優しいな」

立ち上がった零士さんが私を抱き締める。
まるでマーキングするかのように私を包み込み、その香りを移した。

「……頑張れるようにキスさせてくれるか」

そっと私の顔に触れ、零士さんが私を見下ろす。
私を見つめる、艶やかなブラックダイヤモンドのような瞳。
あの目には逆らえない。

「……はい」

小さな声で了承の言葉を呟く。

「ありがとう」

膝を折り、零士さんが顔を近づけてくる。
目を閉じると同時に唇が重なった。

「いってくる」

「いってらっしゃいませ」

目の合った零士さんは、嬉しそうに笑った。

それからすぐに、零士さんは迎えに来た秘書に連れられて出ていった。
零士さんの私設秘書ふたりがどちらも男性と知って安心したのは……まあ。
いや、今は男性だからって安心できないけれど。

零士さんがいなくなって、作業部屋にこもった。
パリで見た、オートクチュールコレクションの熱が冷めてしまう前にデザイン画を描きたい。
それにしても。
……零士さんはどうして、私の夢を知っているんだろう?
あれかな、父からでも聞いたのかな。



零士さんが台湾に旅立った翌日は、彼の実家へ行った。

「でっかい家」

車は森のようなところを進んでいく。
森から……というよりも、この少し小高い丘全体が神鷹の敷地だ。

「これで離れだもんなー」

母屋ではなく、和建築の離れへと回る。
その離れだけで私の実家ほどありそうだ。
しかもこれが、お義母さまの趣味のためだけの建物……となると、私でも信じられない。

「ようこそ、清華さん」

わざわざ玄関で、お義母さまが出迎えてくれた。

「こんにちは、お義母さま。
本日はよろしくお願いいたします」

促されてお義母さまと一緒に中に入る。
今日、私がここに来たのは、お義母さまのお花のお稽古――という名のサロンに参加するためだ。

座敷には多くの人がいた。
男性もちらほらとはいるが、ほとんど女性だ。
年齢は私の祖母くらいから大学生くらいまで幅広いが、半数以上が二十代くらい。
ここが零士さんの、結婚相手選定の場だったという噂も納得だ。

中に入った途端、注目された。

「……あれが零士さんの」

「……あんなのが?」

「……どうせ、家柄だけでしょ」

こそこそと話されるのはいい気はしないが、苦笑いで済ませる。
神鷹との繋がりはどこだって喉から手が出るほど欲しい。
それに零士さんはあの容姿だ。
憧れている人間も少なくないだろう。

「清華さん」

「はい」

お義母さまに呼ばれ、前に立つ。

「今日からお稽古に参加する、零士の妻の清華さんです」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品