【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
序章 最低だけどちょっとだけよかった誕生日1
――その人と出会ったのは十年前、中学生のときだった。
「お父様なんて大っ嫌い!」
「こら、待ちなさい……!」
子供っぽい台詞を吐いて家を飛び出る。
いや、十五にもなってこんなことを言うから父は、私の希望など聞いてくれないのかもしれない。
家を出たが特に目的はない。
少し考えて、街へ行って買い物でもして、ほとぼりが冷めるのを待とうと決めた。
私の父は日本三大銀行のひとつ、『こうの銀行』の頭取だ。
母は元大臣の娘で、伯父は国会議員。
こんな家庭環境で自分の将来が私の思いどおりにいかないのなんてわかっていた。
それでも少しでいいから私の夢を叶えたくて高校の進路希望を正直に書いた結果、父と大喧嘩になったというわけだ。
街へは来たが、特に買いたいものがあるわけでもないのでふらふら見てまわる。
それでもお供なしで出歩くなんて滅多にないので、それだけで気分転換になった。
「あ、こういうのも可愛いー」
洋服店で最近の流行をチェックする。
私の趣味……というか夢は洋服のデザイナーで、いつか自分のブランドが立ち上げられたら、と思っていた。
日も暮れだし、そろそろ家に帰らなければ、とは思う。
しかし気晴らしはしたはずなのに、どんどん気持ちは重くなっていった。
「……はぁーっ」
ため息をついて道ばたで、タピオカいちごミルクのストローを咥える。
父はまだ怒っているだろうか。
それにもしそうだとしても、私には謝る気も進路を変える気もない。
「かのじょー、さっきからそこに立ってるけど、暇なの?」
「……え?」
声をかけられて俯いていた顔を上げたら金に近い茶髪の、若い男が立っていた。
「暇ならオレと、お茶しない?」
耳にいくつもピアスをつけている男は、馴れ馴れしく私の肩に手をのせてくる。
「あの、えっと。
……けっこう、です」
曖昧に笑い、その手から逃れるように一歩身体をずらす。
けれど男はさらに距離を詰めてきた。
「そんなこと言わないでさー。
お茶くらいいいじゃん?」
「その、大丈夫、なので」
こんなとき、女子校育ちで男性慣れしていない自分が憎い。
それにいつものようにボディガード連れなら、こんな人から声すらかけられなかったのに。
通り過ぎる人たちに視線を送るが、見て見ぬフリというよりもスルーされているようだった。
「なにが大丈夫なの?
なんか困ってるみたいじゃん。
あ、もしかして家に帰れない系?
ならオレんち、来ていいよ」
「えっ、あ……!」
男から強引に手を引っ張られ、足が竦む。
振り払おうとするものの、力が強くて離れない。
助けを呼ぼうとするが、恐怖で貼り付いた喉は呼吸すら阻んだ。
「……なに、やってるんだ?」
「……は?」
男の進路を阻むようにさらに背の高い、ビジネスマン風の男性が立ち塞がった。
「怖がっているじゃないか。
その手を離せ」
声を荒らげるでもなく、彼が私に絡んでいた男を見下ろす。
「ひぃっ!」
次の瞬間、男は小さく悲鳴を上げて私の手を離した。
「通報されたくなかったらさっさと去れ」
「く、くそっ!」
捨て台詞のように吐き捨て、男が転がるようにいなくなる。
その間、私がなにをしていたかと言えば……なにもできずにただガタガタ震えて突っ立っているだけだった。
「大丈夫か?」
助けてくれた男性が、私の前にしゃがんで視線を合わせてくれる。
それくらい、彼は背が高かった。
年は去年、大学を卒業した従兄と一緒くらいだろうか。
シルバースクエアの眼鏡の奥から見ている彼は、私を心配していた。
それで気持ちが少し、緩んだ。
「……だ、大丈夫、です。
ありがとう、ございました」
「ん」
立ち上がった男性――お兄さんは私の頭を軽くぽんぽんした。
「またあんなヤツに会わないうちに、早く家へ帰れ」
「お父様なんて大っ嫌い!」
「こら、待ちなさい……!」
子供っぽい台詞を吐いて家を飛び出る。
いや、十五にもなってこんなことを言うから父は、私の希望など聞いてくれないのかもしれない。
家を出たが特に目的はない。
少し考えて、街へ行って買い物でもして、ほとぼりが冷めるのを待とうと決めた。
私の父は日本三大銀行のひとつ、『こうの銀行』の頭取だ。
母は元大臣の娘で、伯父は国会議員。
こんな家庭環境で自分の将来が私の思いどおりにいかないのなんてわかっていた。
それでも少しでいいから私の夢を叶えたくて高校の進路希望を正直に書いた結果、父と大喧嘩になったというわけだ。
街へは来たが、特に買いたいものがあるわけでもないのでふらふら見てまわる。
それでもお供なしで出歩くなんて滅多にないので、それだけで気分転換になった。
「あ、こういうのも可愛いー」
洋服店で最近の流行をチェックする。
私の趣味……というか夢は洋服のデザイナーで、いつか自分のブランドが立ち上げられたら、と思っていた。
日も暮れだし、そろそろ家に帰らなければ、とは思う。
しかし気晴らしはしたはずなのに、どんどん気持ちは重くなっていった。
「……はぁーっ」
ため息をついて道ばたで、タピオカいちごミルクのストローを咥える。
父はまだ怒っているだろうか。
それにもしそうだとしても、私には謝る気も進路を変える気もない。
「かのじょー、さっきからそこに立ってるけど、暇なの?」
「……え?」
声をかけられて俯いていた顔を上げたら金に近い茶髪の、若い男が立っていた。
「暇ならオレと、お茶しない?」
耳にいくつもピアスをつけている男は、馴れ馴れしく私の肩に手をのせてくる。
「あの、えっと。
……けっこう、です」
曖昧に笑い、その手から逃れるように一歩身体をずらす。
けれど男はさらに距離を詰めてきた。
「そんなこと言わないでさー。
お茶くらいいいじゃん?」
「その、大丈夫、なので」
こんなとき、女子校育ちで男性慣れしていない自分が憎い。
それにいつものようにボディガード連れなら、こんな人から声すらかけられなかったのに。
通り過ぎる人たちに視線を送るが、見て見ぬフリというよりもスルーされているようだった。
「なにが大丈夫なの?
なんか困ってるみたいじゃん。
あ、もしかして家に帰れない系?
ならオレんち、来ていいよ」
「えっ、あ……!」
男から強引に手を引っ張られ、足が竦む。
振り払おうとするものの、力が強くて離れない。
助けを呼ぼうとするが、恐怖で貼り付いた喉は呼吸すら阻んだ。
「……なに、やってるんだ?」
「……は?」
男の進路を阻むようにさらに背の高い、ビジネスマン風の男性が立ち塞がった。
「怖がっているじゃないか。
その手を離せ」
声を荒らげるでもなく、彼が私に絡んでいた男を見下ろす。
「ひぃっ!」
次の瞬間、男は小さく悲鳴を上げて私の手を離した。
「通報されたくなかったらさっさと去れ」
「く、くそっ!」
捨て台詞のように吐き捨て、男が転がるようにいなくなる。
その間、私がなにをしていたかと言えば……なにもできずにただガタガタ震えて突っ立っているだけだった。
「大丈夫か?」
助けてくれた男性が、私の前にしゃがんで視線を合わせてくれる。
それくらい、彼は背が高かった。
年は去年、大学を卒業した従兄と一緒くらいだろうか。
シルバースクエアの眼鏡の奥から見ている彼は、私を心配していた。
それで気持ちが少し、緩んだ。
「……だ、大丈夫、です。
ありがとう、ございました」
「ん」
立ち上がった男性――お兄さんは私の頭を軽くぽんぽんした。
「またあんなヤツに会わないうちに、早く家へ帰れ」
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