狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海

それぞれの覚悟②


***


「……そう。なら、しょうがないわね。検査結果が出たらすぐに連絡するわ。それじゃあ」

 意識の遠くで誰かの話し声がする。美桜はその声で目を覚ました。

 パチパチと目を瞬きぼんやりとした視線を彷徨わせてみる。

 すると真っ白な四角い天井が視界いっぱいに映し出された。次に見えたのは、左側に置かれたスタンドに吊された透明な液体の入った点滴の袋だった。それはチューブにより美桜の左腕に繋がれている。

 どうやらここは病院のようだ。

 美桜が寝かされているベッドから少し離れた窓側には、こちらに背を向けて誰かと通話中の樹里の姿があった。

 おそらく美桜が倒れてしまったために、その対応に追われているのだろう。

 きっとヤスやヒサも今頃動いてくれているに違いない。

 そう思うと、申し訳ない気持ちで一杯になる。

 ーーただの夏バテで倒れて迷惑かけちゃうなんて情けない。早く起きなくちゃ。

 慌てて起き上がろうにも、身体が怠くてうまく力が入らない。

 美桜がもたついていると、ちょうど電話対応を終えたらしい樹里が振り返ってきた。

 その瞬間、美桜が詫びを入れるも。

「あの、すみません。ご迷惑おかけして」
「あっ、こら。美桜ちゃん。急に起き上がったら駄目じゃない。病人は大人しく寝てなさい。今先生呼ぶから。いいわね?」
「……は、はい」

 慌てて駆け寄ってきた樹里によって制されてしまい、美桜はベッドに横になったまま医師からの診察と説明を受けることとなった。

 ちなみに尊は、極心会の幹部会に出席しているためすぐには来られないようで、先程の電話はそのことでヤスと話していたらしい。

 数分後に病室に現れた、ここ光石総合病院・総合内科医の窪塚鈴くぼづかりんの話によると。

 美桜が救急車で搬入された際。樹里からの聞き取りで、最近夏バテ気味だったことと、仕事による疲労が原因だろうということで、健康診断などで実施されている一般的な血液検査を実施したらしい。

 その結果、搬送されてまだ二時間ほどなのですべての結果が出たわけではないが、『腫瘍マーカー』の数値が高いことから。

「女性の場合、月経中や妊娠中にエストロゲンの影響を受けやすく、高値になることがあります。美桜さんは結婚されてまだ間もないということで、尿検査したところ、妊娠が発覚しました。ですので、今後は産婦人科の方でーー」

 見たところ、四十代前半ほどの髪の長い綺麗な女医の窪塚から思いもよらないことを聞かされ、美桜は驚愕しつつも、自分のまだなんの変化も見られない平らな腹にそっと手を添え聞き返すことしかできない。

「え、それって、ここに、赤ちゃんがいるってことですか?」
「ええ、そうですよ。おめでとうございます」
「……っ」

 けれどすぐにふっと柔らかな微笑を浮かべた窪塚にお祝いの言葉をもらった美桜は、感極まり目に涙を貯めたまま言葉を詰まらせる。

 ーーうわぁ。ここに私と尊さんとの赤ちゃんがいるんだ。どうしよう。メチャクチャ嬉しい。


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