狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海

極道の妻として⑫


 尊が美桜と同じような境遇に置かれていたことにも驚いたが、だからこそ、気にかけてくれていたのかもしれない。

 そうだとしたら少々複雑だが、弦一郎の話だとそういう訳でもなさそうだった。

 弦一郎曰く、『昔から美桜のことをなにかと気にかけてくれていて、よく可愛がってくれていたね。でも、こうして見ている限り、美桜のことを心底好いてくれているようで安心したよ』ということであるらしい。

 だからといって、尊本人から聞いた訳ではないので、手放しでは喜べないと思いながらも、美桜は不謹慎にも歓喜し頬が緩みっぱなしだった。

 その後、弦一郎から『これからもどうか美桜のことを末永くよろしく頼みます』そう言って頭を下げられた尊は、即座に『こちらこそ、よろしくお願いします』と同じように改まって応えてくれていたので、余計だ。

 また自分と同じように、周囲の大人の都合に振り回されてきた尊の心情を思うと、なんともいたたまれない心持ちになってくる。

 弦一郎もまさか尊が極道者だとまでは知らないようで、そういう話には至らなかったが。もしかしたら極道の世界に身を投じることになったのも、そういう反発心からだったのかもしれない。

 ーーだとしたら尚更に、極道者である尊の妻としてしっかりと支えていってあげたい。そしてあたたかな家庭を一緒に築いていきたい。

 弦一郎と尊のことを見遣っているうち感極まってしまった美桜がポロポロと嬉し涙を零すのを目にしたふたりがぎょっとし大慌てで美桜のご機嫌を取ってくれていた。

 夜になって、箱根の高級な佇まいの旅館へと赴き、瞬く星々の煌めく夜空を窓辺のソファから眺めていた美桜は祖父宅でのことを思い返していた。

 するとそこに、内風呂から上がったばかりの尊が藍染めの特注だという、縞柄のシックな浴衣姿で現れ、たただならぬ色香を纏った艶やかな尊に美桜の視線も心も惹きつけられてしまう。

 尊の色気に当てられ見惚れてしまっている美桜の胸は高鳴りとくとくと甘い音色を奏で始めた。

 もちろんこれから繰り広げられるであろう尊との甘やかな夜への期待感からだが、その前に尊本人に確かめておきたいことがある。

 これからは政略結婚ではなく尊と正真正銘の夫婦となるためにーー。


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