狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
鳥籠から出るために⑩
美桜が呆然としていると、ふっと軽く笑った尊から笑み交じりの低い声音が降ってきた。
「呆けてる場合じゃないだろ。俺を愉しませてくれるんじゃなかったのか」
ハッとした美桜は、ようやく正気を取り戻す。
「////ーーあっ、は、はいッ!」
脳裏には、尊に言い渡された言葉が蘇ってくる。
『何でもすると言ったのはお前だ。だったら脱いで俺のことを愉しませてみろ』
途端に美桜は羞恥に見舞われるのだった。
けれども、何でもすると言ったのは自分だ。飽きるまで傍に置いて貰うには、精一杯励むしかない。
当然、その覚悟もとっくにできている。あとは、それを行動に移すのみ。
ゴクリと喉を鳴らした美桜は、おずおずと振袖の襟元へと手を添えた。そうしてゆっくりと寛げていく。
その様を無表情を決め込んだ尊の強い眼差しに、射貫くようにしっかりと見据えられている。
一部始終を尊に見られている。
そう思うと、どうにも恥ずかしくてしょうがない。顔どころか、身体が熱くて熱くてどうしようもない。火でも噴いてしまいそうだ。
手までがふるふると震えてしまう。それでもなんとかゆっくり引き下げかけた刹那。尊から不遜な声がかけられた。
「俺が怖いならやめてもいいんだぞ」
けれどどうしてだろう。その声がなぜだか悲しげに聞こえたような気がして。たちまち美桜の胸がキューッと締め付けられる。
ついさっきまであんなに恥ずかしいと思っていたのに、そんなものなどどこかに吹き飛んでいた。
自身の感情のままに突き動かされてしまっている美桜は、尊のことを引き留めたとき同様に、思ったままのことを吐露してしまう。
「さっきも言いましたけど。尊さんとは離れたくないって思っちゃうくらいです。怖いなんて思いません。ただ恥ずかしいだけです」
尊は、にわかに信じられないというような顔をしたが、すぐに元の無表情へと変化した。
そうして妖艶な微笑を微かに湛えた口元をゆっくりと引き上げる。
どこか怪しげで、どこか危うげで、けれども途轍もなく艶めいて見える。男性なのに色っぽいなんて思ってしまう。
その上、香水でもつけているのか、傍にいると、ふんわりと甘い香りが微かに漂ってくる。
くらくらとして今にも酔ってしまいそうだ。
それらにあてられた美桜は、思わず見蕩れてしまう。
「そうか。なら、遠慮は無用だな。俺の好きなようにさせて貰う。今からお前は、俺だけのものだ。いいな?」
そのせいか、尊からかけられた言葉は、とても傲慢なものだが、どこか優しい響きを孕んでいるように、美桜には聞こえてしまう。
ーー尊さんだけのものにしてくれるんだ。
そう思っただけで、どうしようもなく、嬉しいなんて思ってしまっている。
胸がいっぱいで、泣いてしまいそうだ。
これも、助けて貰ったからだろうか。
どこか懐かしさを感じてしまったからだろうか。
ーーううん。どれも違う気がする。もしかしてこれって……。
美桜が結論に辿り着きそうだったそのとき、尊から焦れたような声音が届いた。
「おい、聞こえなかったのか?」
慌てて頭を振った美桜は、今度こそ、尊にしっかりと応えてみせる。
「早く尊さんだけのものにしてください」
これは、尊に言われて仕方なくではない。自分の意思だ。
するとうっとりするほど妖艶な微笑を湛えた尊が、満足そうに美桜のことを見遣りつつ。
「いい返事だ。褒美にたっぷりと可愛がってやる」
美桜の頭をそうっと優しく撫でながら褒めると、そのまま組み敷いた美桜の唇に自身の唇をそうっと重ねあわせてくる。
尊と交わした初めてのキスは、とても甘くて、気を抜いてしまえば蕩けてしまいそうなほど極上なものだった。
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