狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海

鳥籠から出るために⑦


「姐さんは洋風よりも和風のほうが落ち着けるだろうから、っていう社長の計らいで、和風モダンな部屋をお取りしやした」

 というヤスの言葉通り、案内されたのは、高層階に位置する、雅な雰囲気が漂う和風のスイートルームだった。

 さすがは五つ星を誇るインペリアル東京。

 部屋に来るまでの内装には、西洋だけでなく東洋の要素も溶け込んだ、オリエンタルな装いのなかにも、日本の情緒も感じられた。けれど、どこか場違いな気がして落ち着かなかった。

 それが部屋に一歩足を踏み入れると雰囲気はガラリと一変する。

 天澤家の母屋を思わせる、数寄屋造りに障子や畳といった、純和風なインテリアで彩られた、和風でモダンなとても落ち着いた趣ある空間が広がっていた。

「わぁ、凄い」

 思わず美桜は感嘆の声を漏らしてしまう。

 そんな美桜の素直な反応に、ヤスもなんだか嬉しそうだ。

 そんなふたりを尻目に、兵藤は黙々とショップバックを運び込んでいた。

 ここに来る前、高級そうなショップに立ち寄り購入した、美桜の衣服や身の回りのものだ。

 なんでも尊からクレジットカードを預かっていたらしいヤスにより、ショップへと連行されたものの、持ち合わせなどあるはずもなく恐縮しきりだった。

 しかし美桜が店に入るなり、遠慮する隙も与えられぬまま、数分前に尊から連絡を受けていたという女性店員に引き渡され、見る間に採寸され、別室で美味しいお茶を味わっている間に、ラッピングも支払いも完了されてしまっていたのである。

 尊に礼を返すつもりが、これでは世話になりっぱなしだ。

 とはいえ、尊に身ひとつで着いてきてしまっているので、黙って従うしかなかった。

 ーーせめて、少しでも恩返しするためにも、身を粉にして精一杯励まなきゃ。

 今一度、ひっそりと心に決めた美桜は、気持ちも新たに、部屋のなかへと視線を移してみた。

 まず目に飛び込んできたのは、大きな液晶テレビだ。

 そこからゆっくりと部屋全体に視線を彷徨わせていく。

 リビングと横続きになった寝室は襖で仕切られているようだ。寝室の窓際には障子で仕切られたスペースがあり、テーブルセットが置かれている。

 同じく障子で覆われた大きな窓からは、もうすっかり暮れかけた夕陽が茜色に滲んでいてとても綺麗だ。

 ーーさぞかし綺麗な夜景が望めるんだろうなぁ。

 呑気にそんなことを思っていた美桜は視界の隅に、ある物体を捉えた瞬間、頬が瞬く間に朱色に染まっていく。

 なぜなら、窓際のスペースの隣にある寝室に、とても大きなベッドがドンと設えられていたからだ。

 羞恥に耐えかけた美桜は、咄嗟に目を逸らしてしまう。

 ちょうどそこに、ヤスから声がかかり。

「じゃあ、姐さん。自分達はこれで失礼するんで、何かあったらすぐに呼んでくださいね。ルームサービスも七時には届くように手配するんで、どうぞごゆっくり~」

 美桜は慌ててふたりに向き直った。そして腰を折り頭を深々と下げる。

「……あっ、はい。何から何までありがとうございました」

「いえいえ、これも仕事っすから。それじゃあ」

「失礼します」

 恐縮して何度も頭を下げ続ける美桜に、相変わらずニコニコと笑顔を湛えたヤスと言葉少なな兵藤は、極心会の若頭としての尊の名刺だけを手渡すと、そのまま帰ってしまうのだった。

 広い部屋にひとり取り残されてしまった美桜は、色々あったせいか、ルームサービスが届いてからも食べる気にならず、尊の名刺を手にしたまま、窓際のソファに腰掛け煌めく都会の夜景をただぼんやりと眺めていた。

 どれほどの時間そうしていただろうか。

 不意に物音がして、ゆっくり振り返った先には、襖の傍で佇む尊の姿があって、途端に鼓動が大きく拍動するのだった。


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