狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海

突然の乱入者④

 一見すると優男風の目つきの悪い男の言葉に、思い当たる節でもあったのか、一瞬だけ優太郎のすべての動きが停止した。

 けれどすぐにまったく身に覚えがないと言った表情に切り替えた優太郎の口からは、白々しい言葉が飛び出してくる。

「何のことだ?」

 優太郎の言動に、事情を知らない美桜が白々しく感じてしまったぐらいだ。

 当事者である、ダークスーツの三人の男らにしてみれば、甚だしいことこの上ないことだったに違いない。

 案の定、優太郎の出方を窺っていた優男が忌々しげに顔を歪め、より低く鋭い怒声を炸裂させる。

「しらばっくれんなッ! 堅気のクセに極道使って、散々甘い汁吸いやがってッ。ネタはあがってんだよッ!」

 それでもまだ怒りがおさまらないようで、唾をまき散らしながら優男は優太郎の胸倉を引っ掴んで、今まさに殴りかからんばかりの勢いだ。

 優太郎から襲われそうになったのは回避できたものの、突然の出来事に頭が追いついていかない。

 眼前で繰り広げられている、任侠映画さながらの光景を前に、美桜は大きな衝撃を受けながらも、とても現実世界の出来事とは思えないでいた。

 為す術なく非現実的な光景をただただ固唾を呑んで見守っていることしかできないでいる。

 そんな美桜のことをやけに整った顔をした長身の男が一瞥したかと思えば、優男の元にゆったりとした動作で歩み寄ってくる。

 目つきは悪いが、落ち着いて見える物腰と、顔が恐ろしく整っているせいか、どこか気品が漂っていて、知らず目が惹きつけられる。

 美桜が長身の男の姿にほうっと見惚れていると。

「もうよせ。堅気には手を出すな。話し合えば済むことだ」

 落ち着いた物腰とは裏腹の、腹の底にずっしりと響くような、鋭い重低音を響かせた。

 どうやらこの男は、優男と大柄の男のボス的ポジションであるらしい。

 ボスらしき男の指示に従った優男が、あっさりと優太郎から手を引いたところを見計らったように、長身の男が優太郎の肩にポンと手を置く。

 そうして眼光鋭い切れ長の双眸で冷ややかに見据えつつ、口元に微かな冷笑を湛え、スーツの懐から一枚の名刺らしき白い紙片を取り出し、優太郎の眼前にぴらっと放った刹那。

 先刻優男を制したときよりもゆったりとした口吻で重低音を響かせた。

「なあ、佐久間先生」

 途端に、辺りには重苦しい緊張感が張り詰めたような気さえしてくる。

 優太郎の背後に位置する美桜から見ても、長身の男から放たれる威圧感たるや凄まじいものだった。

 ーー凄い迫力。きっと、カリスマっていう言葉は、こういう人のためにあるんだろうなぁ。

 長身の男の迫力に圧倒されてしまった美桜は、この場にそぐわないことを思ってしまっていた。

 優太郎はその場でへたり込み、少し前までの白々しい態度は何だったのかと思ってしまうほどに、名刺を手にしたまま、血の気の引いた蒼白い顔で呆然としてしまっている。


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