狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海

突然の乱入者②

  美桜はそれを遠い意識の外側で感じていた。

 しばらくして、横並びに座していた、上機嫌な薫の一際明るい笑い声が響き渡り、驚いた美桜は思わず肩をビクッと跳ね上げてしまう。

 我に返った美桜は、自身の失態を薫に咎められやしないかと内心肝を冷やしていた。

 けれど薫には特に気にした様子は見受けられない。

 ようやく笑いを収めた薫が再び見合いの進行を始めたため、ホッと安堵の息を漏らしかけたところへ、薫から不意でもつくかのように。

「お互い趣味が合うのもわかったことですし。そろそろ、若いおふたりにお任せして、私たちは席を外しましょうか?」

 どこかで耳にしたことのあるような、見合いの席につきもののお決まりの台詞がとうとう投下されてしまっていた。

 その声に弾かれるようにして、美桜が反射的に相手方に意識を向けると同時。

「そうですなぁ。いやぁ、それにしてもお美しいお嬢さんだ。もっと若ければ息子ではなく私が結婚したいくらいですなぁ」

 薫の言葉に賛同した相手方の父親がお世辞と冗談を寄越してきたのだが、その口吻がやけにねっとりとした厭らしい響きを孕んでいるように聞こえてしまう。

 事前に見せられていた見合い写真より随分と老けて見える相手のことを視界に入れるのが嫌で、意識的に逸していた視線をゆっくりと向けてみる。

 するとそこには、脂ぎった息子よりもギラギラとして厭らしくニヤついた大物代議士の顔が待ち受けていた。

 そればかりか、意味深な視線で美桜の身体をねっとりと舐めるようにして逡巡する、大物代議士の視線と美桜の視線とがかち合ってしまう。

 その刹那、大物代議士は、僅かに脂ギッシュな顔を紅潮させ、鼻息まで荒くさせる。あたかも美桜を視姦でもしているような、あからさまにギラついた目をしているように、美桜の目には映ってしまうのだった。

 大物代議士の妻も、それに気づいてはいるようだが、見て見ぬ振りをしているようだ。

 もちろん、弦も薫も気づいている風だが、気づかない振りを決め込んでいる。

 その異様な光景を捉えた美桜の身体にゾクゾクッと身の毛がよだつような嫌な感覚が走り抜けていく。

 ーーヤダ。なんだろう? この感覚。気持ち悪い。

 直感的にそんなことを思ってしまった美桜の、肌の表面を鳥肌が覆い尽くしていく。

 美桜はそこ知れぬ嫌悪感と不快感を覚え、無意識に身体を強張らせた。


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