狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
突然の乱入者①
三月初旬、美桜の元に縁談の話が舞い込んでから、早くも一月が経過しようとしている。
まだ朝夕の寒暖差こそあれど、四月を迎えた途端に、日中の気温は随分と暖かくなってきた。春の季節を一気に飛び越したように、汗ばむ日もあるくらいだ。
けれど今日はあいにくの曇り空が広がっているせいで、少し肌寒く感じられる。
あたかも憂鬱な心持ちでこの日に臨んだ、美桜の胸の内を表してでもいるかのような天候だ。
天澤家の風光明媚な和風庭園同様、高級料亭の荘厳な佇まいに見合った趣ある和風庭園には、立派なソメイヨシノが植えられており、ちょうど見頃を迎えていた。
可憐な薄桃色が特徴的な他の種類とは違い、白味を帯びた、仄かな薄桃色の花弁が時折雲の切れ間を縫って射し込む薄陽を浴びて、より淡く、白さが際立って見える様は、何とも儚げだ。
冬に咲くものや年に二度咲くものもあるらしいが、一般的に知られている桜は春の季節にしか花を咲かせない。それも短い期間だけ。
だからこそ、昔も今も変わらず、人々の心を惹きつけて止まないのだろう。
あれは確か、小学生の頃、自分の名前の由来について調べるという宿題が出された際に、弦に『美桜』という名前について尋ねたことがあった。
何でも、幼い頃亡くなった美桜の母親は、桜の花が好きだったそうだ。
そのなかでも、ソメイヨシノが特に好きだったらしい。
ソメイヨシノの花言葉には、『純潔』『清純』『優れた美人』があると知った母親が名付けた『美桜』という名前には、桜の花のように誰からも愛されるような、清らかで美しい心根の女の子に育って欲しいという願いが込められているのだそうだ。
それを聞いた時には、よく理解できなかったけれど、母親は自分のことを心から愛してくれていたからなのだと、今ならわかる。
誰かを好きになったことなどない自分には、想像することしかできないが。
たとえ祝福してもらえなくとも、愛する人との子供を授かったのだから、幸せだったに違いない。
今の美桜には、そんな母親のことが羨ましく思えてならない。
自分の名前の由来である、満開のソメイヨシノを眺めていたせいか、いつしか美桜は写真でしか知らない母親のことに思い耽ってしまっていた。
はらり、はらりと、淡い桜の花弁が舞い散る様を縁側に面した窓からぼんやりと見遣っている、美桜の周辺には、終始穏やかな愛想笑いを貼り付けている弦の隣で、先ほどから楽しそうに声を弾ませている薫と、美桜の見合い相手である男性とその両親との会話が絶え間なく飛び交っている。
「休日には読書をしたり、盆栽を弄ったりしています」
「まぁ、それは素敵な趣味ですわぁ。生け花好きが高じて、今では師範として家元のお手伝いをしている美桜さんともお話が合いそうですし。おふたりとも相性がピッタリで羨ましい限りですわぁ」
まだ朝夕の寒暖差こそあれど、四月を迎えた途端に、日中の気温は随分と暖かくなってきた。春の季節を一気に飛び越したように、汗ばむ日もあるくらいだ。
けれど今日はあいにくの曇り空が広がっているせいで、少し肌寒く感じられる。
あたかも憂鬱な心持ちでこの日に臨んだ、美桜の胸の内を表してでもいるかのような天候だ。
天澤家の風光明媚な和風庭園同様、高級料亭の荘厳な佇まいに見合った趣ある和風庭園には、立派なソメイヨシノが植えられており、ちょうど見頃を迎えていた。
可憐な薄桃色が特徴的な他の種類とは違い、白味を帯びた、仄かな薄桃色の花弁が時折雲の切れ間を縫って射し込む薄陽を浴びて、より淡く、白さが際立って見える様は、何とも儚げだ。
冬に咲くものや年に二度咲くものもあるらしいが、一般的に知られている桜は春の季節にしか花を咲かせない。それも短い期間だけ。
だからこそ、昔も今も変わらず、人々の心を惹きつけて止まないのだろう。
あれは確か、小学生の頃、自分の名前の由来について調べるという宿題が出された際に、弦に『美桜』という名前について尋ねたことがあった。
何でも、幼い頃亡くなった美桜の母親は、桜の花が好きだったそうだ。
そのなかでも、ソメイヨシノが特に好きだったらしい。
ソメイヨシノの花言葉には、『純潔』『清純』『優れた美人』があると知った母親が名付けた『美桜』という名前には、桜の花のように誰からも愛されるような、清らかで美しい心根の女の子に育って欲しいという願いが込められているのだそうだ。
それを聞いた時には、よく理解できなかったけれど、母親は自分のことを心から愛してくれていたからなのだと、今ならわかる。
誰かを好きになったことなどない自分には、想像することしかできないが。
たとえ祝福してもらえなくとも、愛する人との子供を授かったのだから、幸せだったに違いない。
今の美桜には、そんな母親のことが羨ましく思えてならない。
自分の名前の由来である、満開のソメイヨシノを眺めていたせいか、いつしか美桜は写真でしか知らない母親のことに思い耽ってしまっていた。
はらり、はらりと、淡い桜の花弁が舞い散る様を縁側に面した窓からぼんやりと見遣っている、美桜の周辺には、終始穏やかな愛想笑いを貼り付けている弦の隣で、先ほどから楽しそうに声を弾ませている薫と、美桜の見合い相手である男性とその両親との会話が絶え間なく飛び交っている。
「休日には読書をしたり、盆栽を弄ったりしています」
「まぁ、それは素敵な趣味ですわぁ。生け花好きが高じて、今では師範として家元のお手伝いをしている美桜さんともお話が合いそうですし。おふたりとも相性がピッタリで羨ましい限りですわぁ」
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