青も虹も黒

先導ヒデ

授業終わりの部活 (3/73)


 キーンコーンカーンコーン。
「はい、それでは今日の授業を終わりにします。当番の方挨拶お願いします。」
 チャイムの途中で先生が言う。
「起立。」
 当番の声で席を立つ。
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
 今は5時間目の日本史の授業が終わったところで机の上の教科書類を手にもち四組の教室を出る。高校2年から文系と理系でごとに授業を受けるようになる。自分は文系だ。その中でも社会でどの科目を選ぶのかでさらに分かれ、自分は日本史と世界史を選んだ。
 自分のロッカーに日本史の教科書とノートと資料集をしまう。国数英の教科書とノート以外は基本的に持ち帰らない。ロッカーから空のお弁当を取り出し、鞄へ入れる。
 今は15時54分で部活は16時30分から始まる。これから競技場に自転車で向かう。
 競技場までは3kmで10分から15分でつく。
「お疲れー。」
「お疲れー。」
「お疲れー。」
 いつものように駐輪場に行くまでにすれ違う知り合い、駐輪場から高校の敷地を出るまでにすれ違う知り合いに挨拶をする。
 部活の荷物は部室に置いてあり、マネージャーと一年生が分担してもっていく。高校2年の自分は教室からそのまま競技場へ行く。
 今日も1人で自転車を漕いで競技場へ向かう。高校1年の最初の方は佐藤や鈴木と一緒に行っていたが2人は他のクラスメイトと五時間目終わりによく話をしている。自分も「普通の生徒A」を演じ、一緒にいて話に入っていたのだが、それよりも大幅に速く部活に行きたい思いの方が強かった。
 ある日、廊下で佐藤と鈴木と他のクラスメイトが話をしているところで「先に言っているねー。」と言った。その日から徐々に一緒に行ったり一人で行ったりという風になり、高校二年になって文系と理系で佐藤と鈴木とクラスが分かれ、荷物運びを無くなってからは、一緒に競技場へ行くことがほとんど減った。たまに一緒になって帰ることもあるが、ほとんどが1人でさっさと競技場に向かうようになった。
 自分の自転車はママチャリだが、そこそこ速く自転車を漕ぐので後ろから追い付かれることはほとんどない。前に同じ高校の部員はいなかったので、おそらく今日も一番だろう。競技場につき、自転車を止めて中に入る。
「こんにちは。」
 受付で事務員の人に声をかける。受付のところに自分の高校の名前がない。
「はーい。」
 中で座っていた事務員の人が来る。その間にいつものように用紙に高校名と人数と開始時間を用紙に記入する。一番にきた人が用紙に記入することになっており、自分が一番なので記入をしている。
「お疲れー。」
 同じクラスの佐藤と鈴木、そしてトシの三人が歩いてくる。トシは咲本敏也(さきもととしや)という名前でみんなトシと呼んでいる。監督はトシヤと呼んでいる。トシは四組の長距離ブロックで、佐藤と鈴木とトシの三人は理系で同じだ。いつも一緒にいる。
「あ、お疲れー。」
 書き終わったところで一応競技場の年間使用券を見せる。
「はい、大丈夫です。」
 もう顔を覚えられているので年間権を出す必要はないとも思うが、一応見せている。顔パスだとなんだか、偉そうな気がして嫌だった。
「お願いします。」
 挨拶をして競技場の中へ入る。トラックに挨拶をしてから、入り口から左に20mほどのところの壁際に佐藤と鈴木とトシの3人が荷物を置いて話をしている。なんとなく高校で場所が決まっていていつも自分たちはあそこだ。
「お疲れー。」
 挨拶をしてカバンを置く。
「お疲れー。」
 3人は勉強の話をしている。英語の話だ。理系科目は全く話に入れないが、英語は全員共通なので話についていける。
 しかし、自分はそこから離れ、軽いジョギングをやストレッチをする。いつも練習前から体を動かしている。はやめに体を温めたいという思いもあるが、少し自分が話には入れないので逃げるという意味もある。比率では8対2くらいだ。鈴木と佐藤とトシは同じ自分と同じ長距離ブロックだ。中学2年の冬までの自分ならばその3人に入れない自分に耐えられなかったと思うが、今はもう大丈夫だ。話すときは話すし、無理に近づこうとしない。「普通の生徒A」と「普通の部員A」として嫌われずに存在していればいい。それは他の長距離ブロックや陸上部員に対しても同じだ。
 特にトシには、嫌われたくない。
「お疲れー。」
「お疲れー。」
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
 時刻は4時22分で、どんどん部員が集まってくる。みんなジャージやウインドブレーカーになっている。自分は朝からずっとジャージとウィンドブレーカーだが、私服で学校に来る部員がほとんどだ。その場合は学校の更衣室か部室で着替えてからくる。監督からは競技場で着替えることを禁止されている。面倒くさいと最初は思ったが、確かに私服で競技場に入っていくのは他校の人たちや他の人達から見てあまりよくないと思った。自分は高二になってから、入学式で制服を着たのとあと二回くらいしか私服を着てきた記憶がない。なんとなく部活が休みの日に気分で私服できたのだ。佐藤や鈴木から珍しがられて嫌な思いをしたわけではなかったが、やはり動きにくくて嫌だった。
「お疲れー。」
「お疲れー。」
 西島(にしじま)と佐々木が来た。西島は一組の短距離ブロック、佐々木は三組の跳躍ブロックで主将でもある。二人の服装は学校でも着ていたジャージだ。陸上部では七割くらいが私服で来て、三割位がジャージで学校生活をしている。自分はジャージなので少数派だ。西島と佐々木という陸上部の「イケてる男子」二人と同じだ。「普通の生徒A」と「普通の部員A」としてもの行動としては違うかもしれない。しかし、自分が私服でくるかジャージで来るかによって、嫌われることに変化はほとんどない。
 それに、学校でジャージを着て生活しているのは、体育会系の部活の人達では四割くらいいる。陸上部は女子がいて、女子はあまりジャージできていないが、男子の体育会系の部活で見ればジャージは結構普通だ。
「はい、集合してください。」
 時刻は午後の4時30分。主将の佐々木が集合をかけ、主将の前に学年順に横向きになって並ぶ。
 いつものように練習が始まる。
 心が高ぶってくる。

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