男だけど魔法少女になれちゃった話。
魔力の枯渇
「魔力を使い果たした…って」
え、でも…だって、
「さっきまでは使えていたじゃないか」
そう、少なくとも血みどろになった親指が完治する程度には。
「だから言ってるだろう、魔力を"使い果たした"…ってね」
まさか…あれで使い果たした?不幸を…。
僕の不幸はその程度のものだったのか?
というかそれって…。
「結局お前のせいじゃん!」
「いや違うね。あれは正当防衛さ」
ウァラクは平然とそう宣う。
僕、こいつに指を噛み砕かれる様なレベルの危害を加えたっけ…?
覚えはないな。
やっぱ殴った事に罪悪感なんか懐かなきゃ良かったかもしれない。
「君、ボクの体を撫で回していたじゃないか。あれを人間にやっていたと置き換えてみてもくれよ─犯罪も犯罪、立派な性犯罪さ」
「置き換えればな?お前は猫だろう、愛玩動物を可愛がって何が悪い」
僕がお前にどんな犯罪を無自覚に犯していようと、所詮人に置き換えればの話だ。
猫も人間の手足が欲しいのかもしれないけれど、それは無い物ねだりというものである。
よって、僕は何も悪くない!
「例の如く滅茶苦茶な理論だけれど、話が進まないからそういうことにしておいてあげよう…ボクは大人だからね」
大人アピールをこれ見よがしにしてくる辺り大人ではないんだと思うが…。
「大人だよボクは。もう君なんかより随分年上さ」
「なんかとはなんだ、なんかとは」
そして年上って…猫はそんなに長生き出来るものだっただろうか。
何故かよく下に見られるが、僕はこう見えて十六だぞ。
それより"随分"年上…猫の寿命は基本的に十二から十八年の筈なのだが。
「さっきから言ってるけど、ボクはその辺の家畜とは違うんだって。細かい事を気にしすぎると寿命縮むよ?」
まあ…そうだろうな。
何か…人語喋ってるし…。
細かい事を気にしても寿命は縮まないと思うがな。
「…そういえばお前、魔法少女についてやけに詳しいけど…お前も魔法少女だったりして」
猫なのに喋るのも思考を読めるのも魔法だったりしてね。
…そんな訳ないか、魔法"少女"って言うくらいだし。
「まあそうだよ」
あっさりとした肯定。
もう何でもありだな、魔法少女!?
少女じゃないじゃんか…七歳から十八歳前後の女の子じゃないじゃんか!
僕が成ってる時点でもう大幅に違うけれど、それでも人間から外れちゃ駄目だろう!
「そうは言ってもねえ…今この瞬間も魔法、遣ってるよ─ボクが猫なのに喋るのも思考を読めるのも、完璧に魔法なんだよね」
「成る程…?」
確かにそれだと納得が出来ない事はない。
冷静に考えて、猫の口の形で人語を発音するのは少々高難易度である。
…いや?
こいつの場合、発音するのに口すら使っていない様に見えるな…。
というか思考を読むのはそれこそ魔法でもないと無理だ。
断言さえ出来てしまう気もする。
「断言するのは良くないと思うなあ。どこかに居る可能性は否めないよ」
こんな風にはっきりと、それどころか正確無比に読める人は流石に居ないだろう。
居たら見てみたい…単純な好奇心。
未だかつて見たことも聞いたこともないからな、そんな奴。
そもそも、現在文献やら何やらに乗っていない現象はないというのが僕の持論だ。
勿論その範囲は人間に関するものと限定されてしまうとは思うが─規模が大きい事こそ顕著に現れる。
それこそ…思考が読める、とか。
そんな能力を持っていたら、先天性だとすれば幼少期にでも周囲に知れ渡ってしまうであろうことは最早火を見るより明らかだし、後天性だとしても─恐らく即病院行きだろう。
何せ、先天性の場合は当たり前に思考を読んでいるのだから。
皆も自分と同じだと─自分が特別ではないのだと、思い込む。
能力を隠すことさえ出来ないだろう。
後天性だったとしても、それは先ず間違いなく幻聴だと─精神病か何かだと診断されると容易に予想出来る…。
とまあ、どちらにしろ噂程度には広まることは疑う余地もない。多分。
「凄く長めな演説だったけど、」
「まとめようとする前に読むからだろ」
「要するにボクがそんじょそこらの家畜とは格段に違うってことをやっと理解してくれたってことかい?」
「うんまあ…そうだな」
相も変わらず癪に障る言い方だけれど…。
にしてもこいつが魔法少女…かあ…。
「そういう君は相も変わらず失礼極まりない視線を送ってくれるけど、魔法少女は"種族"であって"名称"ではないんだよね」
…?
……え?
…つまりどういうこと…?
「つまり、君はとうに人間という種族を卒業しているんだ」
僕は驚いた。
それはもう驚いた。
開いた口が閉じられないくらい驚いた。
驚愕である。
「…何してくれてんだお前…」
僕はやっとの事でその言葉を絞り出した。
それは最初に説明しとけよ、とか。
お前はいつだって説明不足だよな、とか。
僕は人間という種族に結構思い入れがあるんだが、とか。
当然もっと言いたい事はあるけれど。
「そうは言ってもねえ…だって君、姉さんを救いたいんだろう?」
「だとしても先に説明ぐらいはしておくべきだと思うぞ…?僕にも心の準備というものがだな…」
「それに、」
ウァラクはそう続けて─首を傾げながら、そう続けて言った。
「種族が変わっても精神まで入れ替わる訳ではないんだから、そう大して変わらないよ」
なんにも、変わることはないよ─と。
何時もの如く半ば馬鹿にした様な眼で。
人間は常にくだらない事ばかり執着するんだね─と。
まるで人間より上位の存在がそうする様に、何時もそうしている様に。
僕を、人間を、見下した。
様に見えた。
え、でも…だって、
「さっきまでは使えていたじゃないか」
そう、少なくとも血みどろになった親指が完治する程度には。
「だから言ってるだろう、魔力を"使い果たした"…ってね」
まさか…あれで使い果たした?不幸を…。
僕の不幸はその程度のものだったのか?
というかそれって…。
「結局お前のせいじゃん!」
「いや違うね。あれは正当防衛さ」
ウァラクは平然とそう宣う。
僕、こいつに指を噛み砕かれる様なレベルの危害を加えたっけ…?
覚えはないな。
やっぱ殴った事に罪悪感なんか懐かなきゃ良かったかもしれない。
「君、ボクの体を撫で回していたじゃないか。あれを人間にやっていたと置き換えてみてもくれよ─犯罪も犯罪、立派な性犯罪さ」
「置き換えればな?お前は猫だろう、愛玩動物を可愛がって何が悪い」
僕がお前にどんな犯罪を無自覚に犯していようと、所詮人に置き換えればの話だ。
猫も人間の手足が欲しいのかもしれないけれど、それは無い物ねだりというものである。
よって、僕は何も悪くない!
「例の如く滅茶苦茶な理論だけれど、話が進まないからそういうことにしておいてあげよう…ボクは大人だからね」
大人アピールをこれ見よがしにしてくる辺り大人ではないんだと思うが…。
「大人だよボクは。もう君なんかより随分年上さ」
「なんかとはなんだ、なんかとは」
そして年上って…猫はそんなに長生き出来るものだっただろうか。
何故かよく下に見られるが、僕はこう見えて十六だぞ。
それより"随分"年上…猫の寿命は基本的に十二から十八年の筈なのだが。
「さっきから言ってるけど、ボクはその辺の家畜とは違うんだって。細かい事を気にしすぎると寿命縮むよ?」
まあ…そうだろうな。
何か…人語喋ってるし…。
細かい事を気にしても寿命は縮まないと思うがな。
「…そういえばお前、魔法少女についてやけに詳しいけど…お前も魔法少女だったりして」
猫なのに喋るのも思考を読めるのも魔法だったりしてね。
…そんな訳ないか、魔法"少女"って言うくらいだし。
「まあそうだよ」
あっさりとした肯定。
もう何でもありだな、魔法少女!?
少女じゃないじゃんか…七歳から十八歳前後の女の子じゃないじゃんか!
僕が成ってる時点でもう大幅に違うけれど、それでも人間から外れちゃ駄目だろう!
「そうは言ってもねえ…今この瞬間も魔法、遣ってるよ─ボクが猫なのに喋るのも思考を読めるのも、完璧に魔法なんだよね」
「成る程…?」
確かにそれだと納得が出来ない事はない。
冷静に考えて、猫の口の形で人語を発音するのは少々高難易度である。
…いや?
こいつの場合、発音するのに口すら使っていない様に見えるな…。
というか思考を読むのはそれこそ魔法でもないと無理だ。
断言さえ出来てしまう気もする。
「断言するのは良くないと思うなあ。どこかに居る可能性は否めないよ」
こんな風にはっきりと、それどころか正確無比に読める人は流石に居ないだろう。
居たら見てみたい…単純な好奇心。
未だかつて見たことも聞いたこともないからな、そんな奴。
そもそも、現在文献やら何やらに乗っていない現象はないというのが僕の持論だ。
勿論その範囲は人間に関するものと限定されてしまうとは思うが─規模が大きい事こそ顕著に現れる。
それこそ…思考が読める、とか。
そんな能力を持っていたら、先天性だとすれば幼少期にでも周囲に知れ渡ってしまうであろうことは最早火を見るより明らかだし、後天性だとしても─恐らく即病院行きだろう。
何せ、先天性の場合は当たり前に思考を読んでいるのだから。
皆も自分と同じだと─自分が特別ではないのだと、思い込む。
能力を隠すことさえ出来ないだろう。
後天性だったとしても、それは先ず間違いなく幻聴だと─精神病か何かだと診断されると容易に予想出来る…。
とまあ、どちらにしろ噂程度には広まることは疑う余地もない。多分。
「凄く長めな演説だったけど、」
「まとめようとする前に読むからだろ」
「要するにボクがそんじょそこらの家畜とは格段に違うってことをやっと理解してくれたってことかい?」
「うんまあ…そうだな」
相も変わらず癪に障る言い方だけれど…。
にしてもこいつが魔法少女…かあ…。
「そういう君は相も変わらず失礼極まりない視線を送ってくれるけど、魔法少女は"種族"であって"名称"ではないんだよね」
…?
……え?
…つまりどういうこと…?
「つまり、君はとうに人間という種族を卒業しているんだ」
僕は驚いた。
それはもう驚いた。
開いた口が閉じられないくらい驚いた。
驚愕である。
「…何してくれてんだお前…」
僕はやっとの事でその言葉を絞り出した。
それは最初に説明しとけよ、とか。
お前はいつだって説明不足だよな、とか。
僕は人間という種族に結構思い入れがあるんだが、とか。
当然もっと言いたい事はあるけれど。
「そうは言ってもねえ…だって君、姉さんを救いたいんだろう?」
「だとしても先に説明ぐらいはしておくべきだと思うぞ…?僕にも心の準備というものがだな…」
「それに、」
ウァラクはそう続けて─首を傾げながら、そう続けて言った。
「種族が変わっても精神まで入れ替わる訳ではないんだから、そう大して変わらないよ」
なんにも、変わることはないよ─と。
何時もの如く半ば馬鹿にした様な眼で。
人間は常にくだらない事ばかり執着するんだね─と。
まるで人間より上位の存在がそうする様に、何時もそうしている様に。
僕を、人間を、見下した。
様に見えた。
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