10年越しの君と……
2話
母の言葉が気になりながら、いよいよ見合いの当日を迎えた週末。ホテルの個室でランチを予約しているらしく、そこに仲人として大伯母夫婦も同席するそうだ。
待ち合わせのホテルへ向かうと、ロビーに両親と大伯母夫婦の四人が既に到着していた。
「すみません、遅くなりました」
「葵ちゃん、久しぶりー!
……あら、着物やなかったのねぇ」
典子は笑顔で立ち上がったかと思えば、あからさまに残念そうな目で葵のドレスを上から下、下から上へと見やる。
コットンパールのイヤリングに、小さなダイヤが三つ並んだネックレス、透け感のある黒のふんわりケープ、下にはマリーゴールド色の裾がふんわりとしたワンピースを着ていた。
大伯母の視線がやけに厭らしく見えたが、葵はなるべく顔に出さないように努めた。
「久しぶりに会ったのに、その言い方は失礼やろ」
すかさず大伯父が叱ったので、内心「べー」と舌を出してしまいたい気分である。
典子は昔から思ったことをそのまま口にするので、あまり好きではない。
おまけに、ほぼ強引に事を推し進める節もあるので、両親もあまり好意的ではないのだ。この見合い話も、そんな感じで進んだんだろうと想像する。
かと言って、決して悪い人ではない世話焼きタイプなのを知っているので、葵個人としてはそこまで嫌悪感を抱いていない。
「でも、お見合いって言うたら、やっぱり着物でしょう?
私、葵ちゃんの着物姿を楽しみにしてたのよ」
「時代錯誤って言われるだけやから、余計な事言わんでええんねん!
第一、思った事を何でもかんでも場を弁えんと言うなって言うてるやろ!
せやから、聡文にも愛想尽かされんねん」
「ちょ……っ、ここで余計なこと言わないでよ!」
典子は顔を真っ赤にして、夫に掴みかかる勢いで前のめりになった。
──え、ここで夫婦喧嘩?
てか、おばさん何やらかしたの~……。
突然始まった夫婦喧嘩に、ロビーで行き交う人達は何事かと注目している。スタッフも注意を向けているのがわかった。
「場所が和風ならともかく、ここはホテルなんやから、この子がなんの服着ようが、場を弁えた格好なら何でもええんや」
そこで見兼ねた葵の両親が「まあまあ……」と仲裁に入り、不服そうに眉を顰める典子と憤慨している大伯父を宥めにかかった。
しかし、典子自身に悪意があっての発言でない事は葵も知っているので、気を取り直す事にした。
葵自身、これまで何度か空気を読まない事を言われた心当たりがあるのだ。今更気にしたところで直るわけではないし、その都度相手にしたところで余計に拗れることは目に見えていた。余程の時は両親が後から苦情を付けた事も他で聞いたことがある。
典子が夫に向けて更に文句を言おうとした矢先、葵が前に出た。
「ごめんな、おばさん。着物持ってへんくて……。
レンタルでもそれなりの値段するし、揃えると結構高いくて親にも買わんでええって言うてんねん。
せやから、前に友達の結婚式で買ったこの服しか持ってないんよ」
果たしてこの行動で吉と出るか、凶と出るか定かではなかったが、典子は気を取り直してニコッと笑みを浮かべた。
「……それもそうね。そのドレスも似合っているわよ~」
「ありがとう!」
典子以外の全員が「やれやれ、どうせ心にも思っていないだろうに……」と思いながら内心で重い溜息を吐きつつ、腕時計に目をやった葵は、相手の待ち合わせの時間が十分前に迫っているのを確認した。
「そろそろやんね。場所はここの上なんやろ?」
「そうそう!
あたしも写真で見た事あるけど、なかなかの好青年よ~」
典子は機嫌が直って歩を進める。
「あはは……」
待ち合わせのホテルへ向かうと、ロビーに両親と大伯母夫婦の四人が既に到着していた。
「すみません、遅くなりました」
「葵ちゃん、久しぶりー!
……あら、着物やなかったのねぇ」
典子は笑顔で立ち上がったかと思えば、あからさまに残念そうな目で葵のドレスを上から下、下から上へと見やる。
コットンパールのイヤリングに、小さなダイヤが三つ並んだネックレス、透け感のある黒のふんわりケープ、下にはマリーゴールド色の裾がふんわりとしたワンピースを着ていた。
大伯母の視線がやけに厭らしく見えたが、葵はなるべく顔に出さないように努めた。
「久しぶりに会ったのに、その言い方は失礼やろ」
すかさず大伯父が叱ったので、内心「べー」と舌を出してしまいたい気分である。
典子は昔から思ったことをそのまま口にするので、あまり好きではない。
おまけに、ほぼ強引に事を推し進める節もあるので、両親もあまり好意的ではないのだ。この見合い話も、そんな感じで進んだんだろうと想像する。
かと言って、決して悪い人ではない世話焼きタイプなのを知っているので、葵個人としてはそこまで嫌悪感を抱いていない。
「でも、お見合いって言うたら、やっぱり着物でしょう?
私、葵ちゃんの着物姿を楽しみにしてたのよ」
「時代錯誤って言われるだけやから、余計な事言わんでええんねん!
第一、思った事を何でもかんでも場を弁えんと言うなって言うてるやろ!
せやから、聡文にも愛想尽かされんねん」
「ちょ……っ、ここで余計なこと言わないでよ!」
典子は顔を真っ赤にして、夫に掴みかかる勢いで前のめりになった。
──え、ここで夫婦喧嘩?
てか、おばさん何やらかしたの~……。
突然始まった夫婦喧嘩に、ロビーで行き交う人達は何事かと注目している。スタッフも注意を向けているのがわかった。
「場所が和風ならともかく、ここはホテルなんやから、この子がなんの服着ようが、場を弁えた格好なら何でもええんや」
そこで見兼ねた葵の両親が「まあまあ……」と仲裁に入り、不服そうに眉を顰める典子と憤慨している大伯父を宥めにかかった。
しかし、典子自身に悪意があっての発言でない事は葵も知っているので、気を取り直す事にした。
葵自身、これまで何度か空気を読まない事を言われた心当たりがあるのだ。今更気にしたところで直るわけではないし、その都度相手にしたところで余計に拗れることは目に見えていた。余程の時は両親が後から苦情を付けた事も他で聞いたことがある。
典子が夫に向けて更に文句を言おうとした矢先、葵が前に出た。
「ごめんな、おばさん。着物持ってへんくて……。
レンタルでもそれなりの値段するし、揃えると結構高いくて親にも買わんでええって言うてんねん。
せやから、前に友達の結婚式で買ったこの服しか持ってないんよ」
果たしてこの行動で吉と出るか、凶と出るか定かではなかったが、典子は気を取り直してニコッと笑みを浮かべた。
「……それもそうね。そのドレスも似合っているわよ~」
「ありがとう!」
典子以外の全員が「やれやれ、どうせ心にも思っていないだろうに……」と思いながら内心で重い溜息を吐きつつ、腕時計に目をやった葵は、相手の待ち合わせの時間が十分前に迫っているのを確認した。
「そろそろやんね。場所はここの上なんやろ?」
「そうそう!
あたしも写真で見た事あるけど、なかなかの好青年よ~」
典子は機嫌が直って歩を進める。
「あはは……」
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