Marvel-Hall(マーベル・ホール)

小本 由卯

4 住処

 ついに自身たちの拠点となる場所へと辿り着いたエウ一同。
 エウの視界の先に広がるのは、様々な彩色や形状の住居とその道を
行き交う異人たちの姿だった。

 エウは初めて見る光景をしばらく眺めていると、彼女の中にある
疑問が浮かんだ。
(変わった家が多いけど、私たちの家もこんな感じなのかな……?)

 そんなことを考えていた直後、奥へと続く道から勢いよく迫って来る
人型の影がエウの視界に映り込む。
 その影は遠目からでも分かるほどの大きな身体を持つ存在であった。

「来てくれたね、待っていたよ!」
 そう言いながらエウたちの前で立ち止まった1人の異人。
 エウやラーデュラの倍以上を誇るであろうその大きな姿は、異人という
存在も相まって力強い威圧感を放っている。

 しかしその表情は穏やかなものであり、まるで子供のように目を
輝かせながらエウたちを見つめていた。
 先ほど以上に見慣れない光景に出くわしたエウは目を丸くしたまま
その姿を見上げていると、異人の傍へと立ったラーデュラが口を開く。

「この方はオリーバ様、ここ居住区の管理をされている方です」
「ずっと会うのを楽しみにしていたよ、よろしくね!」
 その言葉を聞いて普段の態度を取り戻したエウは慌てて挨拶を
返すと、オリーバが再び声を掛ける。

「早く君たちの家が見たいだろう? 案内するからついておいで」
「はい! よろしくお願いします!」

 エウの返事を聞いたオリーバは、存在感のあるその身体を軽快に揺らしながら
居住区の道を進んでいく。
 そんな彼の元気な態度にエウが圧倒されていると、ラーデュラが静かに
駆け寄り声を掛ける。

「すみませんエウヘルピア様、オリーバ様は本当にこの日を楽しみに
していたのです」
「それは……ありがたいことですね……」
 エウがそう答えると、一同はオリーバの大きな背中を追いかけた。

 ……。
 一同がしばらく居住区を道なりに歩いていると、オリーバが突然その足を止める。
「さぁ着いた、あれだよ」

 エウがオリーバの指す方角へと視線を向けると、そこに建っていたのは
エウたちが以前住んていたものとさほど変わらない、落ち着いた雰囲気の
小さな家であった。
 
 一同が家へ近づくと、エウはその家を見上げる。
 先ほど居住区の入口で見た家の様な派手さは無いものの、これから自身たちの家をなるそれは、エウたちの目に一際輝いて映っていた。

「普通の家でがっかりしたかな?」
「そんなことはありません、つい見惚れてしまって……」
 慌てて言葉を返すエウに、オリーバは嬉しそうな表情を浮かべる。

「中も見てよろしいですか?」
「もちろんだよ、入ってくれたまえ」

 エウは家の扉を開くと、そこには外見と同じく物静かな内部の光景が
広がっていた。
「長旅で疲れているだろうから、今日はこのままゆっくり休むといいよ」
「あと、あの向こうに見えるのが私の家だから、何かあったら気軽に呼んでね」

 そう言ってオリーバが指した方角をエウたちが確認すると、その向こうには
オリーバの体格によく似合った大きな家がそびえ立っていた。
 しかしその外見は、家というよりも要塞を思わせる非常に堅固な見た目を
したものであった。

「それでは、ごゆっくり」
「はい、ありがとうございました!」
 
 エウの言葉を聞いたオリーバは満足そうな笑みを浮かべると、指した家の
方角へと歩いて行く。
 すると、それを見たラーデュラはエウたちへと向き直り口を開く。

「私もこれで失礼致します、改めてどうぞよろしくお願い致しますね」
「はい! ラーデュラさんも今日はありがとうございました!」

 お互いに深く頭を下げる2人の女性。
 ラーデュラは最後にエウに明るい顔を向けると、館の方角へと歩いて行った。

 2人の異人が去った後、エウとオスランスは2匹の獣に見つめられながら
話を始める。
「それじゃあ、中に入ろうか」
「ああ、今後のことも決めねばならないからな」
「そうだ、お仕事も探さないと……」

 ……。
 その後、領主の館へと戻ってきたラーデュラ。
 館の中へと足を踏み入れた彼女の目の前にいたのは、深緑色の光沢を放つ水晶の
ような身体を持つ異人であった。

 彼の名はリメラス。
 ラーデュラと共に領主シオサギアに仕える従者である。

「そちらも終わったのね」
「ああ、終わったよ」
「この街に人間の方がお二人もいらっしゃるなんて……何か不思議なことでも
起こるのでしょうか」

 興味を示すような態度で話すラーデュラに対し、リメラスは疑問の表情で
彼女へと問い掛ける。
「ところでラーデュラ、その姿は……?」
「……? あっ!」

(エウヘルピア様とのお話が面白くて、つい戻るのを忘れていましたわ)
 ラーデュラはその身体から光を放つと、自身を本来あるべき姿へと変化させた。

「失礼、では行きましょうか」
 ラーデュラの言葉にリメラスが静かに頷くと、2人の異人は館の奥へと
進んでいった。

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