Marvel-Hall(マーベル・ホール)

小本 由卯

1 人と獣と人形と

 人間と異人が混在する不思議な世界。

 その世界の中に、サンザムームという名の街があった。
 この街は数多くの異人たちと不思議で溢れており、異形の街とも呼ばれている
場所である。

 そして、この街を目指す人形師がいた。
 彼女の名はエウヘルピア。
 その特徴的な名前から『エウ』と呼ばれることが多かった。

 エウは今、街へと向かう魔導船に搭乗している。
 しかし、彼女の意識は夢の中であった。 

 そんなエウの意識を現実へと引き戻したのは、彼女の耳に響いた何者かの悲鳴
だった。
 エウのぼやけた視界に映るのは、腰を抜かして地面に座り込む少女とそれを威嚇
する2匹の獣の姿。
 その異様な光景に驚いたエウの意識は、すぐさま鮮明なものとなった。

「えっと……何事……?」
 エウは困惑した声で獣たちへと話しかける。

 低い唸り声を上げ、鋭い目付きで少女を見据える犬と猫の姿。
 この2匹はエウと共に暮らす仲間であり、犬にはトメスペド
猫にはピーレスという名が与えられていた。

「ご、ごめんなさい! 物取りとか危害を加えようとか……そんなつもりでは
無かったんです!」
 エウの言葉に答えるように少女が口を開いた。
 その様子を見て、少女に悪意は無いと感じたエウは彼女へと声を掛ける。

「あの……私に何かご用でしょうか?」
 その問いに対し、少女は震えた声で答える。
「そ、その私……ずっと自分の街から出たことがなくて……人間の方
なんて初めてだったからつい気になって……」

 この言葉を聞いたエウは少女の容姿を改めて確認する。
 人間にしては細身の身体と雪の様に白い肌は、彼女が自分とは別の存在であることを証明していた。
 
 そんな少女の悲しそうな表情を見たエウが言葉を詰まらせていると、突然
魔導船が小刻みに揺れる。
 エウが窓へと視線を向けると、魔導船が何処かの街へと降り立っていた。

 すると少女が勢いよく立ち上がり、慌てた声を上げる。
「ごめんなさい! 降ります! 本当に……本当にごめんなさい!」
 少女はエウたちに何度も頭を下げると、慌てて魔導船の出口を目指して駆け
出した。
 そして出口の前に立つと少女は再びエウ達へ深く頭を下げ、出口の影へと姿を
消した。
 
 エウが2匹の獣へ視線を向けると、獣たちも反省の表情でエウの顔を見つめて
いた。
 そんな彼女たちの硬直を破るように突然、エウが肩に掛けていた鞄が開くと
中から小さな人形が姿を現した。
 彼の名はオスランス、彼女に仕える魔導人形であった。

「ごめん、起こしちゃった?」
「初めから起きていたよ」
「……というより、寝ていたのはお前だけだ」

 オスランスの言葉に対して、ばつが悪そうな表情を浮かべるエウ。
 そんな彼女の様子を2匹の獣は静かに見つめていた。

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