Gear-Theater(ギア・シアター)

小本 由卯

過去編1 惨劇

 ある日突然、小さな街に鋭い光が差し込んだ。
 その光は微かながらも、触れたものを滅ぼすには十分なエネルギーを持ち
街へ甚大な被害を与えた。

 この出来事は、後に工学技術の在り方に対し大きな影響を与えることになる。

 ……。
 崩壊した街の中に深刻な表情で立つ男性の姿があった。
 彼の名はビエーゲ・ローセ。
 機械の街として知られるオーロプラータの役員であり、突然に起きた街の
人々の惨劇を聞いて救護に駆けつけていた。
 そしてその傍には、彼によって救護された少女の姿があった。

「もう大丈夫だ、すぐに運んでやるからな」
 その声を聞いた少女は虚ろな目でビエーゲの姿を捉えると、震える腕を上げながら
掠れた声を出した。
 言葉の内容は聞き取れなかったものの、その赤く染まった指先が何かを指していることをビエーゲは理解した。

「……あの瓦礫に何かあるのか?」
 ビエーゲの返事を聞いた少女はすがるような視線を向けると、糸が切れた
人形の様に彼へと寄りかかった。

「……お、おい!」
 ビエーゲが慌てて声を掛けると、横から重なるように聞き覚えのある声が
聞こえてきた。
 声の方へ視線を向けると、そこには彼の妹であるナヴィー・ローセの姿があった。

「お兄様、何をしているのです! 彼女を早く!」
「悪いナヴィー、この子を頼む!」
 ビエーゲは少女をナヴィーへ託すと、少女が指していた瓦礫の元へと駆け寄った。

 少女が瓦礫を指した理由について、彼には予想が付いていた。
 ビエーゲが急いで瓦礫を取り払うと、彼の予想通りの状況が起きていたので
あった。

 姿を現したのは、傷だらけで気を失っている少年。
 瓦礫の破片による外傷は多く見られるものの、幸いにも致命傷を
負ってはいなかった。
(でも、あの子が教えてくれなかったら危なかったかもしれないな……)
 
 ……。
 その後、それぞれの役目を終えたビエーゲ達はオーロプラータへと戻ってきた。
 そして彼が救出した少女と少年は、一旦この街の医療施設で治療を受けることと
なった。

 様子が気になったビエーゲは、2人の治療が終わるとすぐに医療施設へと
赴いていた。
 そんな彼を迎えたのは、2人に治療を施した医師の男性だった。

「怪我の方はもう大丈夫だけど、心配なのは精神面の方だね」
(あれだけの事があったんだ、平気な訳がないよな……)
 表情を曇らせるビエーゲに対し、医師はある予想を彼に伝える。

「それと恐らく、この子達は弟妹だね」
「なぜ分かる?」
「何となく顔立ちというか雰囲気が似ているし、それに虹彩の色も同じだったから
可能性は高い……というか正解だと思うよ」

 医師の言葉を聞いたビエーゲは、救出した際の少女の行動を思い出した。
(ならあれは、弟妹ゆえの行動か……)

 考え込むビエーゲを見て、医師は話を続ける。
「この子達が目を覚ましたら、直接聞いてみるといい」
「ああ、俺からもこの子達に答えなければいけないことがある」

 ビエーゲは辛い表情を浮かべながら、寝台で眠る2人の顔を交互に見つめていた。

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