Gear-Theater(ギア・シアター)

小本 由卯

8 監査

 第4工房には、久々にナヴィーが訪れていた。

「この街には慣れましたか?」
「はい、街の様子も大体覚えましたし、皆さんにも良くして頂いています」
「そうですか、それを聞いて安心しました」

 ナヴィーの問いに明るい表情で答えるアンベル。
 ナヴィーはその言葉に一度微笑むと、普段の真剣な表情で話を始める。

「今回私がここへ来たのは、ここの監査についてのお知らせをするためです」
「監査って……私達、何かしましたか?」
「いえ、これは街の全施設を対象とした定期監査で、この街の治安を
維持する上での役場の義務なのですよ」

「普通に運用しているだけだったら、問題は無いですよね?」
「はい、規約通りの運用をして頂けているなら大丈夫です」
「……例えば、秘密裏に兵器の製造などをしていなければ」

「それは、駄目ですよね……」
 アンベルの言葉に、ナヴィーは呆れた声で答えた。

「実は居たんですよ、過去にそういう事をして工房を吹き飛ばした大馬鹿者が」
「うわぁ……」
 ナヴィーの話に唖然とする3人。

 そしてアンベルが再び話を切り出す。
「……各自の部屋とかも見るんですか?」
「あくまで街の提供設備が正しく運用されているかの監査なので、生活の環境に
ついては触れませんので、そこはご安心下さい」

 ……。
 翌日、役場から女性と青年の2人組がやって来た。
「初めまして、今回こちらの監査をさせて頂く、ラベレッタ・レフレットと
申します、本日はよろしくお願い致します」
「同じく、リメルト・レフレットと申します、よろしくお願い致します」

 ラベレッタとリメルトの挨拶に対し、工房の3人も挨拶を交わすと
役場の2人は工房へと足を踏み入れた。
 
(あれ? この人達どこかで……?)
 資料を片手に、黙々と工房内を見渡すラベレッタとリメルトを見て
アンベルは考える。
 
 そして数分後、監査はすぐに完了した。
 予想よりも早い完了に少し驚く3人に、ラベレッタが口を開く。

「ご協力ありがとうございました、今後もこの工房をよろしくお願い致します」
 そして、役場の2人は頭を下げると、速やかに工房から立ち去った。
 
「あ、分かった!」
 突然、声を上げるアンベル。
 その声に驚いた青年2人に対し、アンベルは言葉を続ける。

「あの2人、私達が最初に街を見て回った時、ナヴィーさんと話していた
人達だよ!」
「よく覚えているな、そんな前の事」
「相変わらず凄い記憶力だね」

 ……。
 全工房を回り終えたラベレッタとリメルトは、中央区へ向かって歩いていた。
 中央区の広場に差し掛かったその時、2人を呼び止める声が聞こえてきた。

 声の方角に立っていたのは、ブライトルとシトローネ兄妹の姿だった。
 自分達を呼び止めたオリアンに対して、ラベレッタが尋ねる。

「皆さんお揃いで、何かありました?」
「いや、見回りから戻ってきた所に、偶然ブライトルと鉢合わせてね
そこに君達の姿まで見えたものだから、つい声を掛けたんだ」
「ちなみに私は、薬を届けに回っていたよ」

 各自の目的を答えるオリアンとブライトル。
 それに続けてラベレッタも答える。

「私達は工房の監査に行っていました」
 この言葉に、今度はオリアンがラベレッタに尋ねる。

「それなら第4工房にも?」
「ええ、第1工房から順番に回りましたからね、入ったのが清掃作業の時以来
でしたから、すっかり中が変わっていて驚きました」

「何か気になることでも?」
「いや、何でもない」

「あ、ナヴィーさんから聞いたと思いますが、守衛協会と医療施設の監査も
私達が担当することになりましたのでお願いしますね」

「了解、お菓子を用意して待っている」
「いや、遊びに行くわけ訳じゃないよ」

 ジャウネの無邪気な返事に、リメルトは冷静に言葉を返した。

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