Gear-Theater(ギア・シアター)

小本 由卯

4 医師と少女

 一方、ノワルフもまた別件で街を歩いていた。

「うわぁ!?」
 ノワルフの背後から、人の驚く声がした。
 振り返ると、少女が手を付いて座り込んでいる。
 状況から察して、出てきた建物の階段を踏み外した様であった。

「大丈夫か?」
 ノワルフは少女に駆け寄り、声を掛ける。
「当然だ、この程度……大したこと……」
 勇ましい口調で話す少女は、辛そうな表情を浮かべながら立ち上がり
ふらふらと歩きだした。
 しかし、数歩歩いた所で再び地面に座りこんだ。

 ノワルフは呆れた表情で、少女を軽々と抱え上げた。
「医療施設まで運んでやる」
「余計なお世話だ! 離せ! 下ろせ!」 
「大人しくしてろ」
(嫌がる子を抱えて街中を歩くのは、色々と勘違いされそうだが……まぁ、分かってもらえるか)
 ノワルフは騒ぐ少女を抱えながら、医療施設へと向かった。
 ……。

「もういい、下ろしてくれ……」
 医療施設へ着いた頃には、少女は落ち着きを取り戻していた。
 ノワルフが抱えていた少女を下ろして少し経った頃、事情を聞きつけた医師がやって来た。
 医師へ少女を引き渡すと、少女は施設の奥へと運ばれていく。
 その時、少女はノワルフに何かを言いたげな表情だったが、ノワルフは静かに
見送った。

 すると、少女が運ばれた方向から入れ替わるように、別の医師がノワルフの前に
姿を現した。
 クチバシ状のマスクを被った、医師の男性。
 男性は陽気な口調でノワルフに声を掛ける。

「ありがとう、彼女に代わって礼を言うよ」
「彼女とは顔なじみでね、運んで来る時も元気で大変だっただろう?」
「はい」
 ノワルフの簡潔な返事に対して、静かに笑う男性。
 そして男性は、何かを思い出したように言葉を続ける。

「失礼、挨拶が遅れた、ブライトル・ケルレアンだ」
「ノワルフ・カーラッテです」
「顔を隠しているのは許して欲しい、私の顔は昔にあった事故でぐちゃぐちゃに
なってしまってね」
「それでも見たいという事であれば……」
「いいです!」
 マスクに手を掛けながら話すブライトルに対して、ノワルフは慌てて言葉を
返した。

「申し訳ない、こういう話は苦手だったかな」
「いえ……そういう意味では……」

 その後、少女の件をブライトルに任せ、ノワルフは医療施設を後にした。
 歩きながらノワルフは、ブライトルの言葉を思い出していた。
(多分、あの人も同じだ、俺やブランと……)

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