人間の物語

猫狐冬夜

異なりの異なり

紀元前200万年前 今は亡き地下国家アリシア。その国は膨大な量のマントルを
エネルギーに、地下に流れ込む膨大な量の海水の塩をエネルギーにして文明の灯がその国
を照らす。地下500㎞に、ある海、いや、巨大で長いというよりは広い川。
その流れる海、流れる川の上の大半を覆いつくす軽石などでできた浮き島。その島の上に
いると、島に細い川が流れている様に見えるが、そうではない。その上に住む彼ら、
騙幸カタサ人は、その地面を島々というよりかは、一つの陸地として考えている、
それほどまでに、島は海を覆いつくし、島と島の距離が、海が、川の様に見える程、短い
のだ。その浮き島は流れない。浮き島は浮き島から25m低い海底に鎖でつながれている
からだ。騙幸人は囚われている、心も体も。それは人類種の一つとして、当然であるの
かもしれない。この世界には我々が見慣れた動物はいない。品種改良を通り越した、
遺伝子編集でもなく、生物ををデザインした、アレンジではなく創造で生まれた、その
生物はDNAすら持っていない物もある。この世界は暗い。海からはパステルブルーの光が
漏れる。水深5mに点々と漂う、直径5cmのピケァルム。ピケァルムは海の塩で発電
する。そして、青白い、神聖で儚い、幻想的な光を放つ。彼らはこの世界を暗いと思って
いないだろう。彼らは目がいい、彼らは、獣耳が生えた人種と兄弟だ。獣耳が生えたその
人種ほどではないが、彼らは愛らしく、いつも笑顔だ。そんな1000年、続いた世界、
アリシアに一人の男がいた。中肉中背というよりは、低身長で、細い体だ。先に言って
おくがこの書の、客観的な部分の文章は現在の人類種から見た話だ。話を戻そう。
彼の名はトウァ、そんな彼とアリシアとアリシアの物語だ。

目が覚めた。ふと、ぼやけた意識でそう思った。いつから起きていたかなんて、そんな
境界線なんてない。青白い光が家の窓を通過して、赤白い、パステルレッドに変わり、
家の中に降り注ぐ。なぜかその綺麗さが、無性に神経を逆撫でする。何故だろう。何故、
この世界はこの世界なんだ?白く細い腕が「何か」を求め、空くうに伸びる。無意味
な思考をするのをやめ、起き上がる。いつものように朝食に目を向ける。
いつも、決まった時間に、何処からか、流れてくる、料理。料理が流れてくる穴は深い闇
でしかない。朝食に目を向ける。黒と白の葉で彩られたサラダと骨に薄く張り付く酷く
白い肉。いつのまにか完食していた。まだ、食べたい。だけど、これは錯覚で、実際に
食べたら気持ち悪くなり吐いてしまうのだ。そうなはずなのだ。
「さて、今日も学校だ。」何かを振り切るように一人、無意味な言葉を呟く。干してある
服に着替えて、家の外に出る。目に入る、ゆったり流れる海。あの海は、この世界を延々
と回っているのだ。本当にそうなのだろうか。人々が歩いている。青白い光に満たされた
世界は、そんな光に満たされた人々は、皆、白い肌が、青に染まっていた。何かに恐怖を
覚えた。老若男女、問わず、誰もが笑いながら「学校」に向かう。自分も学校に向かって
いると聞こえる、人々の話声。「学校で勉強できるなんて、嬉しいよ。毎日、この身分に
生まれた事に、感謝してるよ。」若い男の声だ。「もうすぐ、高人こうとになれると思うと
嬉しくてな、筆が弾むんだ。」老人の声だ。皆、笑ってる、たった一人、自分を除いて。
幸せなんだろうな、幸せなんだよな、自分も他の人と同じように、自分も幸せなんだ。
なのに、どうして、自分は笑っていないんだろう。そんな事をボーっと思いながら歩いて
いると、学校に着いた。大きい建物だ、まぁ、7000人も収容しているのだから
当然か。この世界はどの学校に通うかが地区の境界となっている。別の学校は見たことが
ない、このまま一生、見ないかもしれない。別の学校に通っている人も見たことがない、
まあ、それも当たり前だ。この学校から隣の学校まで10kmは離れているし、それに...行く
理由なんてないし、「人」はそんなことをしないのだから。学校に行き、帰って、働いて
寝て、学校に行く、そうでない人など、日などないのだから。この学校には校門が4個
ある、縦横に、一つずつあるのだ。門ごとには年齢が決められていて、10~19歳、
20~29歳といった具合に分かれている。そして、40~49歳で「最後」だ。また、
門ごとに校舎は分かれていて、実質、4つの建物が綺麗にくっついた集合体といった感じ
で、校舎内で別の校舎に行く道はない。そういえば、今日は14歳の誕生日だ。忘れて
いた。なんだかどうでもよかったのだ。年齢が一つ上がるごとに教室は変わる。
昨日、教師に教えられた次の教室の位置のメモをポケットから出す。
[5階 17-8]、階段を上るのがつらそうだ。~門を潜り抜け延々と螺旋階段を上り、
きょろきょろと教室を探し、教室に着いた。扉を開けると新しい20人の顔があった。
教室が変わる度に、クラスメイトも変わるのだ、自分より先に教室が変わった
クラスメイトがいるわけではない。空いている席に座り、また、ボーっと思う。
一年という単位は、どのようにして決められたのだろうか。いつか、学校で教えて
もらえる日はあるのだろうか?「おはよう」不意にあいさつされた。声の方を向くと
明るい好青年がいた。トウァ「あぁ、おはよう」「僕の名前はロリセクロ、よろしく。
今日は身体測定とかしかないから、勉強ができなくて残念だね。」
トウァ「そうだな、よろしく」身体測定や病菌検査などが行われる日は毎年のこの日だ。
自分はたまたま誕生日にかぶっているのだ。ガラガラガラッ、教師が教室に入ってきた。
みんなの目が輝く。幼人ようとでも大人おうとでも老人ろうとでもない高人。
そうではない自分達からしたら憧れだ。高い身長、紫色の瞳、憧れるに決まっている、
そんな心の声がどこか、客観的に聞こえた。高人、まだ二年前に大人になったばかりの
自分には縁のない話だ。教師「今日は新入生がいるらしいな、私の名前を紹介する」
そういって教師は黒板にチョークで名前を書きだす。
カタカタ...「...、アラロシア・リベラクルだ。」今日は一時限目に身体測定、三時限目に
病菌検査、五時限目に世界機構、六時限目に代謝変換だ。生徒達「おぉ!」この世界の
仕組みが学べる世界機構は最も生徒に好評の授業だ。
リベラクル「点呼をとる」......「ルネルシルト・トウァ」自分だ。トウァ「はい。」
......リベラクル「全員確認、授業は十分後に開始される。」...ポンッ、肩を軽く
叩かれた。ロリセクロ「いやぁ、嬉しいよ、今日、まさか、授業があったとわね、
しかも、世界機構だ、一か月に一回あるかないかのが今日だ。」
トウァ「あぁ、良かったな」するとロリセクロは少し訝しげで不思議そうな表情をした。
ロリセクロ「君は嬉しくないのかい?」少し息が止まる、1秒という変に長い間ま
を空けて返事をする。トウァ「ん?いや、嬉しいよ。そりゃあ」その言葉が笑顔と共に
出てくる。その言葉も表情も白々しく演技的で気持ち悪くなる。こんなときだけ、
笑顔なのだ。ロリセクロ「そういえば、君の表情は面白いね、高人みたいだ。かっこいい
と思うよ。」確かに、高人は自分と似た無表情をしている。トウァ「あぁ、ありがとう」
......ふと、教師が言う。リベラクル「これから、身体測定を行う。オスは身体測定室Aに、
メスは身体測定室Bに行くように」生徒がぞろぞろと、誰かしらとにぎやかに話しながら
移動する。身体測定室に入り、まず、体重計に乗る。高人に職員が、それを記録する。
43kg、普通だな。続いて身長を測定する162cm、去年からあまり伸びてない。
成長期は終わったのだろう。特に面白い事もない、平均、普通だ。それから、淡々と
体脂肪率検査、視力検査を行う。体脂肪率は10%、静止視力は2.4、暗視視力は
2.7だ。去年と特に変わりはない。~三時限目、全員の視力検査が終わり、病菌検査が
始まった。これは一人一人の検査の時間が長いため待ち時間が長い。
ロリセクロ「病気があるといいね。」ロリセクロが話しかけてくる。何故かその言葉に
違和感を覚える。何故だろう、自分は何処かずれている。そのずれがぼやけてて、
はっきり、「こう、ずれている」と知れないのがもどかしい。少し遅れて返事をする。
トウァ「あぁ、そうだな」自分はいつも口数が少ない。他の人とは違って喋りたいことが
ないのだ。ロリセクロは話し続ける。ロリセクロ「胃が発達した胃がん、性機能の発達
したHIV、色々あるけど、何か引っかかるといいなぁ。君もそう思うでしょ?」
「あ、あぁ、勿論だ。」理性でいけば、情報でいけば、そうなのだろう。でも、直感が
激しい違和感を発している。今の言葉は嘘なのだろうか?「どうしたんだい?面白い表情
をしているよ、君は本当に高人に似ているね。」この表情は、この感情は何なの
だろうか。人の表情は真顔か笑顔しかないはずだ、人の感情は普通か幸福化しかない
はずだ、0と+しかない筈なんだ。そう、今まで、学校で...。~30分程経ち、今は自分
の前に並んでいたロリセクロが検査を受けている。そろそろ、ロリセクロの検査も
そろそろ終わるかと思った時、聞こえた。
「やったー、病気だぁ、HIVだ、高人になれる!」嬉しそうなロリセクロの声が
聞こえた。その声を聴くと何故か、心臓が嫌に強く打って、息がしずらくて、喜ばしい
ことのはずなのに、ただただ強烈なまでに明確な違和感を覚える。その思いから
逃げたくて、胸の苦しみを消したくて、この世界を現実だと思いたくて、皆に交じって
叫んだ、「おめでとう!」それは酷く白々しい誰かの声だった。~五時限目、ロリセクロ
はもうすぐ高人になるのだろうから、高人の住む世界に行ったのだろう。その心の声は
自分に嘘をついているような気もした。自分は誰も疑っていない事実を疑っている、
この世界を疑っている、この世界が夢なのではないかと疑っている。
~ガラガラガラ...女性の教師が入ってきた。世界機構教師「遅れました。えっと、新入生
がいるんでしたね、私はナマハメラメ・ナカダシです。今日は今まで習ったことを復習
します。」何故、高人は自分達と違って、何というか静かで、暗い感じなのだろうか。
普通の人は笑顔でない表情でいる事はあまりない、常に軽く微笑んでいる。
~ナカダシ「えー、我々は上民ジャンミンで、とても恵まれています。この世界の中心
でないところにいる中民チャンミン小民シャンミンは我々、上民の様に大人おうとより先に
成長できません。何故かというと高人に成長する際は急激な成長であり、その急激
な変化に体が耐えられないのです。それが故に中民、小民は寿命を持ちます。」
~「配られる食事は、皆さんが満腹になる量です。それ以上、食べたら吐いてしまう
ので、それ以上の量の食料は与えられないのです。」~「我々はとても幸せです。人の
感情は0と+の一次元で表せます。」~「病気と言って、体のある部分が先天的な素質で
突如、高人並みの力を有し、そこから体全体が高人に変化することがあります。その際、
体に今まで感じたことのないような感覚を感じますので、その際は教師などの高人に
言ってください。」~「病気は主に、老衰、HIV、がん、この3つです。このうち、
老衰は高齢になると必ず起こるので、上民は元来、必ず高人になれます。」この話を
聞いていると心臓が痛くなる。感情があふれてどうにかなってしまいそうだ。
何故、そうなのかはわからない。何かが違う、違うんだ。
幼い頃、「決まった寝る時間より早くは寝れない」と教わった。でも、寝れた。
でも、他の人は、そうらしい。他の人が、そうであった体験を語っていたのは何回も
聞いている。あの頃から、自分は世界とずれはじめた。世界が正しくて自分が偽りなの
だろうか?世界が現実で私が夢なのだろうか?また、手が空に伸びて、落ちた。
......そして、ふと、視界の端に何か、違和感を感じた。少し離れた左の席に座る一人の
女性。謎の突起ががついているフードを被り。服の中に、顔を隠して、目だけを出して
いる。何処か陰りのある目をしている。無表情だ、自分の様に、同種、同類、仲間、
そんなのを感じた。そして、何故だか見入ってしまう。彼女の瞳はパステルブルーとも
パステルグリーンとも言えない中間色で、綺麗だ。そして、どこか、不満気で悲しげな
彼女は美しかった。~ガラガラガラ、教師が入ってきた。代謝変換教師「今日は新入生が
いるみたいだな、ラメヤメ・ナカハダメだ。これから一年間、よろしく。今日は公域Sに
行って植物採集を行い、好きな植物を持ち帰る。では、早速、公域Sついてきなさい。」
五時限目も終わり、六時限目の今日、最後の授業が始まった。
~公域S~ ナカハダメ「では、自由行動をしてよいが、その前にいくつか注意して
おく。ここはスモールといっても、10^2㎢ある。木々に目印が括り付けられているし、
地図もあるから迷いはしないと思うが、帰るのにどれくらいの時間がかかるか考え
ながら、奥へと向かうように。」特に植物を飼育したくないので、適当に歩く。植物の
子育ができるようになったのは、高人に許可されたのは、8歳くらいの頃だったか、
それまで禁止されていたから興味はあった。でも、禁止されていた事ができるように
なったからと言って、禁止されていた事、自体の価値は変わらない。周りの同年代の人
たちが、喜び、楽しそうに植物を飼っているのを見て、仕組まれているような気がした。
何で楽しいと感じているのだろう、と思った。楽しいに理由なんてないのかもしれない
けど。ただ、一度求めてしまったらもう元には戻れないみたいだ。12歳では動物も
飼えるようにけど、動物は気持ち悪い。柱肉柱なんか特にそうだ。
何故、あれを「可愛い」などと思うのか?何故、自分は...そう思えないのか。呆然と、
ただただ延々と歩いていると、遠くに白い何かが見えた。近づいていくと、それは、
さっき、教室で見つめていた女性だった、彼女は体育座りで顔を足に顔を埋めている。
何をしているのだろうか?トウァ「ねぇ、何してるの?」すると、フードについている、
あの三角形の何かが、ピクリと動いた。幻覚か?そして、彼女が顔を上げた。
息が止まる。訝しげに、不機嫌な表情で、自分の事をじっと無言で見つめている、目を
合わせて見上げている。何かが込み上げてきた。激しく緊張して、何か激情を感じて、
ただ、ひたすらに思った。「可愛い...」口から出た、その言葉、人が人を好きになる、
何だろう。この愛おしさは、何なのだろう。そして、彼女は自分の言葉を聞いて、目を
見開いて、口がゆっくり開いて、また、三角形の何かがピクピク動いて、そして、顔が
赤くなって下を向いた。ドキドキと心臓が苦しいくらいに、強く打つ。静寂の時間。
とても長く感じたけど10秒くらいだったかもしれない。彼女は顔を赤らめたまま顔を
上げ、ペンと紙を取り出して、何か書いて自分に手渡してきた。
[東西12342 南北77890]「今日の23時に、ここに来て。」「......」声が
出ない。「バイバイ、またね。」彼女は笑顔で綺麗で可愛い声でそう言って、軽やかな
足取りで何処かに行ってしまった。
そこからはただ、呆然として、今の出来事を何度も思い出して、噛みしめて、自分はただ、彼女に夢中になった。




コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品