婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子

22.公爵令嬢3

婚約破棄を宣言されるだけならいざ知らず、冤罪を被せて投獄しようとなさるんですもの。
ララが機転を利かせてくれなかったら、間違いなく地下牢行きは免れなかったことでしょう。
あの夜会は諸外国の外交官も多く参加していました。
ただの夜会ではなく、未来の国王であるフリッツ殿下主催の夜会でした。
もっとも、肝心のフリッツ殿下は恋人との逢瀬で忙しくされていましたから、開催の段取りから招待客リストや御持て成し方法まで全て私が手配し采配したのです。
陛下を始めとした王族の方々や宰相、お父様たちは、時間をずらして入場する予定でしたからね。恐らく、スタッフの中に内通者でもいたのでしょう。陛下方が来る前に私を断罪し終えるようにセッティングしていたようです。中々、良い考えですわ。大事になればなるほど私の立場が悪くなるのですから。
仮に冤罪だと分かっていても、国は、王家は、一介の貴族令嬢ではなく王太子をとる。
首謀者は誰かしら?
これはフリッツ殿下のお考えではない。
かといって陛下でもない。
宰相あたりかしら?
いいえ、あの宰相のこと、全てを知りながら見て見ぬフリを決め込むでしょうね。
少しばかりお膳立てをするぐらいかしら?
世の中、そう上手くはいきませんことよ。
だって、私は傷心で毒を呷るのですから。
直筆の遺書を残してね。





目が覚めた一ヶ月後に陛下の訪問がございました。
どうやらお忍びでいらしたようです。
例の遺書は陛下も御覧になったようで、しきりに私に謝ってくださいます。
ララの話では私の断罪劇と共に遺書の内容までも諸外国に知れ渡ったため、国と王家の信用は失墜してしまったようです。婚約者を蔑ろにし、罪を捏造し、死に至らしめようとする非常識な国と国交は結んでいられない、と各国から苦情と国交断絶の嵐が王城に降り注いでいるそうです。
道理で、宰相が草臥れていらっしゃったのですね。
私に何か言いたそうにしていますが、専属護衛に阻まれて話しかけることも出来ません。
そのような、もの言いたげな眼差しを向けないでくださいな。
今更どうにも出来ません。
宰相としては、私に取り成しを頼みたいのでしょうが、そうはいきません。
だいたい、貴殿も私からしたらフリッツ殿下派なのですからね。共犯、とまでは言いませんが、それに近しい者と捉えておりますので悪しからず。




あの後、帝国から、軍基地設立と軍の派遣が決まりました。
周辺諸国から無視されてしまっている状態では致し方ありません。
帝国の『保護認定国』に入り、庇護してもらわなければ国が立ち行かないのですから。
お陰で私も枕を高くして眠れるというもの。
帝国軍が亡き皇女の忘れ形見である私を守ってくださいます。
近衛騎士団長のお顔が真っ青になっていましたけれど大丈夫かしら?
息子の失態に巻き込まれる形になった可哀そうな団長さんですもの。宰相と違って真摯に私に謝っていましたわ。

流石に気の毒に思い、「帝国軍は外国人部隊もありますから志願なさいますか? 私、推薦状をお書きしますわ」と親切心から言いましたが、断られてしまいました。
残念ですね。
団長クラスならそこそこ出世すると思いますのに。
傀儡国の近衛騎士団にいるよりも、よほど有意義な時間を過ごせると思いましたが、いらぬお節介を焼いてしまったようです。
顔色が更に悪くなり、青白さが増していました。
そのうち寝込まれるのではないかしら?
心配だわ。
そんなに帝国の風下に立つのがお嫌なのかしら?
まともな軍隊がない王国にとっては、帝国の下にいた方がなにかと安全だと思いますのに。
まぁ、御自分たちの息子の犯した過ちと、私を守り切れなかったことがありますからね。
帝国から散々罵倒されたことでしょう。
言葉だけで終わらなかったのかもしれませんね。


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