婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
20.公爵令嬢1
「お嬢さま!気が付かれたのですね!!!」
朦朧とする中、目の前に飛び出してきた見慣れた女性。
私の専属侍女のララ。
彼女は大粒の涙を次々と流して可愛いお顔がくしゃくしゃになってしまっているわ。
もう泣き止んで欲しいのに声が出ないの。何故かしら?
「お嬢様?声が出ないのですか?十日ほど眠っていたんですよ…もうもう、目が覚めないのかと思って……私、私…。あああ!先生を呼んでまいります!!!」
ララが走り去っていく足音を聞きながら、過去を思い出していたの。
どうしてこんな事になってしまったのかを。
私の名前はアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
この国の筆頭公爵家の一人娘として生まれ、それは大切に育てられてきました。
生まれた時からの婚約者であるフリッツ王太子殿下とは従兄妹同士で幼馴染でもあったのです。
ただ、相性というものもあり、私とフリッツ王太子殿下との仲はお世辞にも良いとは申せませんでした。
私とこの国の第一王子であるフリッツ殿下との婚約が決定したのは生まれてすぐの事だったと聞き及んでおります。
一国の王子と筆頭公爵家の令嬢との婚約が誕生当時に決まったと聞けば、王家と公爵家との政略結婚。王子のために選ばれた令嬢だと思う者は多いでしょう。
実際、そのように考えていた王国の貴族は多かったのです。中には後ろ盾の乏しい第一王子を立太子させるための婚約と思った者もいたでしょう。
勿論、全てが間違いという訳ではありません。
しかし、私とフリッツ殿下との婚約に関しては“第一王子のための婚約”ではなく“筆頭公爵令嬢のための婚約”だったのです。
私のため、というのは少々大袈裟でしょうか?
正確には“王国のための婚約”でした。
王国がこれから先も平和を享受するための必要な措置でした。
生まれた瞬間から将来は決まっていたのです。
私は国母となり、私の血を引き継いだ子供が王国の主になる。これは決定事項と言っても過言ではないでしょう。幼い頃から定められた役割に対して思うところがなかったといえば嘘になりますが、これも国のため、と思い受け入れました。
マナーは勿論の事、勉学に励み、厳しい王妃教育に耐えてきたのは偏に国のためです。
私という存在を無くせば瞬く間に滅び去ってしまう脆弱な国。
お母様やおばあ様が守ってきた国を私も守りたいと思ったからこその努力だったのです。
その甲斐あって、私以外に王妃に相応しい令嬢はいない、とまで囁かれるようになりました。
諸外国の外交官や使節団の方々とも親しくなり、彼らを通じて私の評価は他国でも鰻登りだと聞きます。私の評価は、王国の評価でもあります。
外交をスムーズに進ませる事も王妃としての役割です。
私が活躍すればするほど、お父様も国王陛下も大層お喜びになりました。
「「流石、私の娘(姪)だ」」
褒めてくださるのは良いのですが…まるで自分の手柄のようにお褒めになるのは如何なものかと思ったものです。「それだけ誇らしいのでしょう」とララが笑いながら言うので私は苦笑して返すしかありませんでした。
ただ何故か第一王子であるフリッツ殿下だけが私に批判的でした。
「アレクサンドラは優秀だ。だが優秀過ぎるのも考えものだな。兎角、優秀な女性は傲慢さが鼻につく」
「男を立てることが出来ない女性というのは、気配りが出来ていない証拠だ。そんなことで果たして王妃として私の隣にいて大丈夫なのだろうか?」
「完璧な存在ほど胡散臭い物はない。彼女も裏では何を考えているか分かったものではない。他の高位貴族同様に格下の者を蔑んでいるに違いない」
事ある毎に非難なさるのです。
もっとも、私個人に言うのではなく、自身の付き人であったり、メイドであったり、侍従であったりと、極身近な人物に話すのです。
文句があるのなら私に直接言えばよろしいのに。
何度そう思ったかしれませんが、フリッツ殿下の話す内容は愚痴レベルのもの。王族に仕える者達はさほど本気にせず、フリッツ殿下の愚痴を聞き流しておりました。宮仕えの極意を心得た者達ばかりです。
フリッツ殿下にも困ったものです。
私を非難する暇があるのなら御自身でもっと努力して成果を出せば宜しいのに。
まさか、あの王子は私が生まれながらにして“才ある者”だとでも思ってらっしゃるのかしら?
睡眠時間を削って勉学に励んでいるからこそ殿下よりも教育課程が早いのですよ?
私は殿下よりも何倍も努力しているのです!
それこそ血の滲むような努力あっての成果なのです!
まったく!
あの王子は私の何がそんなに気に入らないというのでしょう!
私も万人に愛されようなど思ってはいませんが、いずれ夫婦になる殿下とはそれなりの関係を築いていきたいと思っているのです。
だって、そうでしょう?
家族になるのですよ?
男女の愛はなくとも、家族としての情は育てたいと考えるのは当然です。
国のトップに立つ夫婦なのですよ?
王太子夫妻の仲が良くないというのも外聞も悪いといいますのに。
フリッツ殿下はどう考えているのでしょう?
外聞を気にしないのでしょうか?
ここは表向きだけでも仲の良いフリ位はして欲しいものです。
御自分の立場を理解していないのでしょうか?
その時の私は気が付いていませんでした。
私が優秀である事が、フリッツ殿下を刺激していた事に。
フリッツ殿下が婚約者である私に対して劣等感を抱いていた事を。
幼い頃から知った仲です。
従兄妹同士でもある婚約者なのです。幼い頃から知っていますが、フリッツ殿下は優秀な方です。
勉学もスポーツも飛びぬけておりました。殿下が何を思って引け目を感じていたのかが理解出来ません。
いいえ、本当は気付いていました。
父親である国王陛下が、実の息子よりも姪である私を重要視し、期待していた事に対して、フリッツ殿下が腹立たしく感じるようになってしまった事を。
妬みともいえる感情を向けられていました。
それも仕方ありません。
実の息子以上に愛されていたのですから。
もっとも、その愛情は私自身にというよりも、恩人である王太后と異母姉に対してのものですけれど。
フリッツ殿下が反抗期の子供のように私に反発していた理由は多種多様にあるのでしょうが、その一番の理由は親の愛情を奪い取られた事にありました。
まあ、私がその事に気付いたのは随分と後になってからでした。
私もまだ子供だったのです。
察しろ、といわれても無理というもの。
気付いた時には、既に取り返しがつかない程、私たちの関係は悪化していました。
フリッツ殿下の私に対する憎悪に近い感情を拭うのは不可能に近いものでした。
朦朧とする中、目の前に飛び出してきた見慣れた女性。
私の専属侍女のララ。
彼女は大粒の涙を次々と流して可愛いお顔がくしゃくしゃになってしまっているわ。
もう泣き止んで欲しいのに声が出ないの。何故かしら?
「お嬢様?声が出ないのですか?十日ほど眠っていたんですよ…もうもう、目が覚めないのかと思って……私、私…。あああ!先生を呼んでまいります!!!」
ララが走り去っていく足音を聞きながら、過去を思い出していたの。
どうしてこんな事になってしまったのかを。
私の名前はアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
この国の筆頭公爵家の一人娘として生まれ、それは大切に育てられてきました。
生まれた時からの婚約者であるフリッツ王太子殿下とは従兄妹同士で幼馴染でもあったのです。
ただ、相性というものもあり、私とフリッツ王太子殿下との仲はお世辞にも良いとは申せませんでした。
私とこの国の第一王子であるフリッツ殿下との婚約が決定したのは生まれてすぐの事だったと聞き及んでおります。
一国の王子と筆頭公爵家の令嬢との婚約が誕生当時に決まったと聞けば、王家と公爵家との政略結婚。王子のために選ばれた令嬢だと思う者は多いでしょう。
実際、そのように考えていた王国の貴族は多かったのです。中には後ろ盾の乏しい第一王子を立太子させるための婚約と思った者もいたでしょう。
勿論、全てが間違いという訳ではありません。
しかし、私とフリッツ殿下との婚約に関しては“第一王子のための婚約”ではなく“筆頭公爵令嬢のための婚約”だったのです。
私のため、というのは少々大袈裟でしょうか?
正確には“王国のための婚約”でした。
王国がこれから先も平和を享受するための必要な措置でした。
生まれた瞬間から将来は決まっていたのです。
私は国母となり、私の血を引き継いだ子供が王国の主になる。これは決定事項と言っても過言ではないでしょう。幼い頃から定められた役割に対して思うところがなかったといえば嘘になりますが、これも国のため、と思い受け入れました。
マナーは勿論の事、勉学に励み、厳しい王妃教育に耐えてきたのは偏に国のためです。
私という存在を無くせば瞬く間に滅び去ってしまう脆弱な国。
お母様やおばあ様が守ってきた国を私も守りたいと思ったからこその努力だったのです。
その甲斐あって、私以外に王妃に相応しい令嬢はいない、とまで囁かれるようになりました。
諸外国の外交官や使節団の方々とも親しくなり、彼らを通じて私の評価は他国でも鰻登りだと聞きます。私の評価は、王国の評価でもあります。
外交をスムーズに進ませる事も王妃としての役割です。
私が活躍すればするほど、お父様も国王陛下も大層お喜びになりました。
「「流石、私の娘(姪)だ」」
褒めてくださるのは良いのですが…まるで自分の手柄のようにお褒めになるのは如何なものかと思ったものです。「それだけ誇らしいのでしょう」とララが笑いながら言うので私は苦笑して返すしかありませんでした。
ただ何故か第一王子であるフリッツ殿下だけが私に批判的でした。
「アレクサンドラは優秀だ。だが優秀過ぎるのも考えものだな。兎角、優秀な女性は傲慢さが鼻につく」
「男を立てることが出来ない女性というのは、気配りが出来ていない証拠だ。そんなことで果たして王妃として私の隣にいて大丈夫なのだろうか?」
「完璧な存在ほど胡散臭い物はない。彼女も裏では何を考えているか分かったものではない。他の高位貴族同様に格下の者を蔑んでいるに違いない」
事ある毎に非難なさるのです。
もっとも、私個人に言うのではなく、自身の付き人であったり、メイドであったり、侍従であったりと、極身近な人物に話すのです。
文句があるのなら私に直接言えばよろしいのに。
何度そう思ったかしれませんが、フリッツ殿下の話す内容は愚痴レベルのもの。王族に仕える者達はさほど本気にせず、フリッツ殿下の愚痴を聞き流しておりました。宮仕えの極意を心得た者達ばかりです。
フリッツ殿下にも困ったものです。
私を非難する暇があるのなら御自身でもっと努力して成果を出せば宜しいのに。
まさか、あの王子は私が生まれながらにして“才ある者”だとでも思ってらっしゃるのかしら?
睡眠時間を削って勉学に励んでいるからこそ殿下よりも教育課程が早いのですよ?
私は殿下よりも何倍も努力しているのです!
それこそ血の滲むような努力あっての成果なのです!
まったく!
あの王子は私の何がそんなに気に入らないというのでしょう!
私も万人に愛されようなど思ってはいませんが、いずれ夫婦になる殿下とはそれなりの関係を築いていきたいと思っているのです。
だって、そうでしょう?
家族になるのですよ?
男女の愛はなくとも、家族としての情は育てたいと考えるのは当然です。
国のトップに立つ夫婦なのですよ?
王太子夫妻の仲が良くないというのも外聞も悪いといいますのに。
フリッツ殿下はどう考えているのでしょう?
外聞を気にしないのでしょうか?
ここは表向きだけでも仲の良いフリ位はして欲しいものです。
御自分の立場を理解していないのでしょうか?
その時の私は気が付いていませんでした。
私が優秀である事が、フリッツ殿下を刺激していた事に。
フリッツ殿下が婚約者である私に対して劣等感を抱いていた事を。
幼い頃から知った仲です。
従兄妹同士でもある婚約者なのです。幼い頃から知っていますが、フリッツ殿下は優秀な方です。
勉学もスポーツも飛びぬけておりました。殿下が何を思って引け目を感じていたのかが理解出来ません。
いいえ、本当は気付いていました。
父親である国王陛下が、実の息子よりも姪である私を重要視し、期待していた事に対して、フリッツ殿下が腹立たしく感じるようになってしまった事を。
妬みともいえる感情を向けられていました。
それも仕方ありません。
実の息子以上に愛されていたのですから。
もっとも、その愛情は私自身にというよりも、恩人である王太后と異母姉に対してのものですけれど。
フリッツ殿下が反抗期の子供のように私に反発していた理由は多種多様にあるのでしょうが、その一番の理由は親の愛情を奪い取られた事にありました。
まあ、私がその事に気付いたのは随分と後になってからでした。
私もまだ子供だったのです。
察しろ、といわれても無理というもの。
気付いた時には、既に取り返しがつかない程、私たちの関係は悪化していました。
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