婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子

17.宰相の長男1

「何を考えて男爵家の庶子如きを王太子妃にしようと画策していたかは知らんが失敗したな」

無機質な父上の声。

「あの男爵令嬢を上手く操り、王太子殿下を傀儡にするつもりだったのか?いや、違うな。それならもっと上手くやっているか。どちらにせよ、やり方がまずかった。いや、迅速な判断ができなかった時点でお前達の負けは確定していたな。何故、あの場でヘッセン公爵令嬢に逃げられるヘマを犯したのだ。いや、何も言うな。お前ならもっと上手くやれると思っていたのだが見込み違いであったか」

どこまでも落ち着いた声には怒りも悲しみも感じられない。
己の息子が失態を犯したというのに。

「お前や王太子殿下の学園での行動は逐一報告が入っている」
「え……?」
「何を驚くことがある?王族が通う学園に何もしていないと本気で思っていたのか?」

思っていた。
父上は初めから知っていた?

「安心しろ、この事を知っているのは私と一部の官僚だけだ。陛下もご存知ではない」
「な…なぜ?」
「お前の目から見てもフリッツ殿下とアレクサンドラ様が上手くいっていたように見えたか?」
「それは……」
「それが答えだ。フリッツ殿下は幼少の頃よりアレクサンドラ様を毛嫌いなさっていた。陛下は、互いを知ればよくなると考えていたようだが、フリッツ殿下がその交流を拒否されるのだからどうしようもない」

え?
交流拒否?
殿下はそのようなことは一度も仰らなかった。「アレクサンドラは冷たい女だ」と常々仰っていた。

「時間が経てば経つほど、フリッツ殿下は頑なにアレクサンドラ様を忌避きひなさる。かといって、年の離れた第二王子殿下の婚約者にする訳にもいかず、仕方なしにフリッツ殿下をアレクサンドラ様の婚約者にしていたのだ。学園に入ればフリッツ殿下も変わるかと期待もしたのだがな。環境の変化によって気持ちも変化する事はままある。アレクサンドラ様に歩み寄るかと様子を窺ってみれば、将来の愛人を見初める始末だ。本来、お止めせねばならない立場のお前も一緒になって馬鹿げた振る舞いをしているのだからな」
「父上……」
「アレクサンドラ様はな、あの男爵令嬢をフリッツ殿下の『愛妾』に推挙なさっていたんだ」
「な!? 愛妾???」

なんて非道な!!!
ヘッセン公爵令嬢には人の心がないのか?
なぜ、『側妃』ではなく『愛妾』なのだ!!!

「はぁ~~~~~~。驚いているのか?何故だ。相手は男爵家の出身なのだぞ?側妃になるには身分が足りない。精々、愛妾止まりだ」
「身分など、高位貴族の養女になれば問題ないではありませんか!侯爵家以上の家柄になれば、正妃にだってなれます!」

元々、そういう話で事は進んでいたのだ!
ミリーが公爵令嬢になれば問題ないと!

「あの男爵令嬢では無理だな。妃は勿論、愛妾にすらなれない存在だ」
「なぜ!?」
「お前、王家の血を引かない王族が生まれても良いと言うのか?数多の男と噂になる女が妃になれると本気で思っているのか?誰の子を孕むかわからん女など愛妾にもできないぞ」

父上の言葉に血の気が引くのがわかる。

「女を上手く利用することもできなかったのか?あの男爵令嬢を惚れ込ませて操る事を目的にしていたのでは無かったのか?誰にでも足を開く売春婦に入れあげるとは、情けない」

違う…ミリーはそんなんじゃない。
清らかな存在なんだ。

「密室で男と二人きりになるだけでなく、複数の男たちと何時間も部屋から出てこない女を、世間では淫乱というんだ」
「ご、誤解です! 私たちはミリーとそんな関係は持っていません!!!」

とんでもない勘違いをなさっている。
彼女とは清い関係だ。

「気軽に男と腕を組む女が?必要以上に男に愛想を振りまき、誘うような仕草が目立つ女だぞ? 第三者の目から見ても以外のなにものでもない」

冷たい眼差しで、父上は私を見つめる。

「た、たしかにミリーは人との距離が近しいですが、誓って、私達は不純な関係ではありません」
「誓いなどなんの役にも立たん。お前それでも私の息子か?神に誓いを立てれば誰もが信じるとでも?法律を知らんのか?」
「そんな……彼女は身持ちの堅い女性です。断じて父上が想像しているような事は一切ありません」
「それがお前にとっての真実でも、世間はそう見ない。特に貴族社会はな。いい加減、理解しろ。お前達は揃いも揃って女狐に誑かされた無能者の烙印を押されたのだ」

無能者?
私が?

「アレクサンドラ様に、婚約破棄を宣言して冤罪をきせた場所だが、何故、あの夜会だった? 他の日ではいけなかったのか?あの場には他国の外交官が大勢いたんだ。その席で、派手に失態を見せたお陰で、我が国は笑いものだ」
「……大勢いる前で罪を暴けば大事になると。罪をなかった事にはできなくなるから」
「ああ、そうだな。お前は悪知恵だけはよく働くな。それを別の事で活かせばよかったものを。いや、お前をまともに教育できなかった私の落ち度か」
「ち、父上……」
「お前を廃嫡にはせん。だが勘違いするな、後継者からは外れる。お前は領内から決して出るな」
「……はい」

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