婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子

2.宰相

やられた!!!
ヘッセン公爵令嬢にしてやられた!!!

この段階で自決に及ぶとは!!!

……見事だ。
見事過ぎる。

迅速な行動力、その場における判断力と度胸。

全ての流れが変わった瞬間だった。

ヘッセン公爵令嬢がどこまで時勢を読んでいたのかは知らんが、計り知れない姫君だ。
フリッツ殿下よりも王家の細部を知り尽くしていた。
恐らく、今回の件も事前に知っていたのであろう。
もっとも殿下達がここまでやらかすということは把握していなかったとは思うが……。
王家のことを知り尽くしているヘッセン公爵令嬢が王太子妃にならないという選択はない。
そう、よほどのことが無いかぎりは。

息子が付いているからと、慢心していた。
もっと上手くやるとばかり思っていたのに、よりにもよって、ヘッセン公爵令嬢に逃げられるとは!!!
そのせいで我が国が一方的に誹りを受けているのだ!!!
いいや、全て事実なのだから致し方ない。


賢い息子だと思っていたが詰めが甘い。




私とて、あの男爵令嬢がまともな妃になるなど思ってはいない。人には資質というものがある。フリッツ殿下が選ばれた少女は王妃の器ではない。
人によってコロコロと言動を変えて相手に合わせて巧みに会話をする才能はあるがな。
ただし、男限定というものだが。
甘事を囁くことにかけては抜群のセンスを持っている。
男達のコンプレックスを理解して、如何にも自分は味方だと囁くのだから。男のツボを心得ている。

フリッツ殿下にとっては、無邪気な少女。
息子には、自由闊達な少女。
近衛騎士団団長の息子には、健気でか弱い少女。

実に上手く使い分けていた。
相手の望むように行動する。
そこに矛盾が無いように上手く調整しているのだ。
年若い息子達が盲目になるのも解るというものだ。男爵令嬢が意図的に行っていたかどうかは別として、男を手玉に取る才能は群を抜くだろう。
しかも、庇護欲を匂わせながらも、女のべったりとした色香も漂わせていた。あの豊満な肢体も男は喉を鳴らすだろう。
あと数年もすれば、抗いがたい色気を持つ美女になるに違いない。

だが、教育を施したところで大した成果は見込めないだろう。愛妾にはなれても妃にはなれない女だ。

それでもヘッセン公爵令嬢を追い詰めることはできる。

彼女は優秀だ。
立派な王妃になるだろう。
彼女に問題は無い。
だが、彼女の後ろ盾が大いに問題なのだ。





事の始まりは、先々代の国王からだった。
当時、西の隣国との小競り合いが原因で我が国の国境が脅かされつつあった。
戦争を回避するために、時の王太子先代国王に帝国皇女を娶らせたのだ。
要は、大国である帝国の後ろ盾を欲しての政略結婚であった。
帝国としても、地政学的に我が国を無視できなかった。

我が国に少々不利な条約を結んでの婚姻ではあったものの、当時はさして問題視していなかった。それよりも、目の前の危機を回避することの方が重要であったのだ。


それが、現在、平和を享受するようになった我が国が、今更、無かった事にして欲しいとは口が裂けても言えない。
それだけ我が国は危うい。
条約の事もそうだが、なによりも帝国人の流入が多いのだ。
勿論、不法滞在などではない。正式に王国の民として登録されている。だが、移民してきた帝国人は自分達のルーツを決して忘れない。『帝国人』としての誇りがあるのだ。しかも数が年々増えてきている。一部の地域では既に王国人よりも元帝国人の人数が上回っている処すらある。
このままでは、遠からず、帝国の影響下に置かれるのは目に見えていた。戦わずして占領される未来が……。

ヘッセン公爵令嬢の自死の報告が成されて数刻もしないうちに、帝国から矢のような催促だ。
帝国の外交官からも責任追及が日増しに酷くなっている。

この分では、恐らく、国境に帝国軍が配置されているだろう。


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