ボクとネコのはなし
第39話 立って、闘いなさい
「ウジウジ、ウジウジ。そうやって仕方無いだとか取り返しのつかないだとかばかり言って先生は、シンちゃんの思いとかさっちんの想いとかから逃げてるだけじゃないですか!」
樹下の言葉がボクの胸に突き刺さりそうだ。その部分には一週間前に優人に突き刺されたままの言葉が残っている。
深く深く、ボクの心を突き刺す。
「誰も先生を責めているんじゃないんですよ? 二人共、手を差し伸べてくれてるだけじゃないですか。何故、取ろうとしないんです? 何故、凶器みたいに警戒するんです?」
樹下はボクの考えを見透かしているのかもしれない。言われた言葉を、示された思いを、突き刺さったと感じたボクは怖がっているだけなのだろうか?
ボクに手を掴む権利があるのだろうかと、ただ怖がっているだけなのだろうか?
権利なんてアホらしい。優人は確かにそう言ったのに、ボクは手を掴めずにいた。
逃げている、そんなのわかっている。
怖がっている、そんなのわかっている。
「私の好きな格闘漫画にこういう時の為のセリフがあるんです。“立って、闘いなさい”。思いにも、想いにも精一杯立ち向かわなければならないんじゃないでしょうか? そうでしょ、先生」
樹下が腕を構えてボクシングスタイルをとる。ぐっと顔に近づけた拳で、泣いてる顔を隠しているのがよくわかる。
「そうやって誰も彼もの想いを無視してたら誰も幸せにならないじゃないですか? 先生だって幸せにならないじゃないですか?」
ボクが幸せになることを望んでいないのが、ボク自身だ。
でも、自棄になったり早恵にすがったり、そうやって不幸を拒み続けたのもボク自身だ。
優人との約束を胸にサッカーを続けていたのは、ボク自身が嬉しいのもあるし優人が笑うのが好きだったからのもある。
優人の夢を、優人の幸せを奪ったボクをボク自身心底憎んだ。
彼氏にフラれた早恵を支えたいと思った。泣いてる早恵の涙を止めたいと必死だった。早恵を傷つかせない様にボクは願った。
今、早恵を傷つけてるのは他ならないボク自身だ。
「そんなのわかっているんだ。だけど、ボクは……。君だって、さっきから好き勝手言ってるけどな、君だって!……」
君だって。
そう、樹下だってそうだ。
猿渡美里の想いや犬飼英雄の思いを無視して引きこもっているんだ。
ボクと変わらない。
だから。
ボクと変わらないから、か?
ボクと変わらないから、樹下はこんなにボクに対して怒っているのか?
「“君だって”? 何ですか? 私の事を棚に上げてるというならその通りです。先生があまりに私に似てるから。先生には私の様になってほしくないから!」
一段と声を大きくする樹下。ボクシングスタイルはそのままで、涙もずっと流れている。
きっとこれはボクを殴るためのスタイルなんじゃなくて、自分自身をガードする為のスタイル。
似ていると言われるぐらいだから、わかってしまう。誰かを傷つけない様に、自分を傷つけない様に、そうやって来た彼女の作り出した不器用なファイトスタイル。
樹下が本当に殴ってやりたいのが誰なのか。それが痛い程、よくわかる。
「ごめん、ボクは家庭教師なのにな。君に教えられてばっかりだ」
「いいえ、先生は立派に教師として私に教えてくれました」
「ここにきてお世辞を言われても嬉しくないよ」
樹下からのお世辞が珍しいとはいえ、無理な慰めは要らない。ボクの情けなさが地平線の彼方まで続いていそうだ。
最近は特にそう思う。
「お世辞じゃありません。先生は反面教師として立派に私に教えてくれました」
「ああ、確かにお世辞じゃないな。軽く馬鹿にしてるじゃないか」
「え、軽くないですけど?」
「本気で馬鹿にしてんのかよ!?」
思わずツッコミの手が出てしまった。
気づけば樹下はファイトスタイルの手を下げていて、ツッコミしやすい様に頭を差し出していた。
遠慮なく、脳天チョップ。
「痛いっ! ちょっ、先生ツッコミ下手すぎませんか?」
確かにツッコミの手としては下手な手だ。音がしないから地味で、地味なのに痛い。
樹下は頭を押さえながらこちらを見ている。頬には涙の跡がそのままなので、涙を流すほどのチョップを決めてやった様に見えるがそれほどでもない。
痛さも地味、その程度に抑えたつもりだ。
「君の代わりだよ」
「私はそんなにツッコミ下手じゃないですよ。ボケもツッコミもできるピン芸人としてやっていける有望株です」
時折、樹下は本気で大学よりお笑い学校を目指してるんじゃないだろうかと思う。ただ引きこもりなので、有望視してくれている人物なんて多分身内しかいないんじゃないだろうか? それを胸張って発表するあたり残念でしかない。
「君は君自身をひっぱたけないからね。ボクが代わりに叩いてあげたんだ」
「チョップだなんて、わかりづらいじゃないですか」
「女の子にビンタは気が引けるじゃないか」
だったらチョップはいいのかと、質問が来ても受け付けない。
いや、唯一応えれる答えがあるとするなら、普通はダメ、この場合はイイ。
樹下の言葉がボクの胸に突き刺さりそうだ。その部分には一週間前に優人に突き刺されたままの言葉が残っている。
深く深く、ボクの心を突き刺す。
「誰も先生を責めているんじゃないんですよ? 二人共、手を差し伸べてくれてるだけじゃないですか。何故、取ろうとしないんです? 何故、凶器みたいに警戒するんです?」
樹下はボクの考えを見透かしているのかもしれない。言われた言葉を、示された思いを、突き刺さったと感じたボクは怖がっているだけなのだろうか?
ボクに手を掴む権利があるのだろうかと、ただ怖がっているだけなのだろうか?
権利なんてアホらしい。優人は確かにそう言ったのに、ボクは手を掴めずにいた。
逃げている、そんなのわかっている。
怖がっている、そんなのわかっている。
「私の好きな格闘漫画にこういう時の為のセリフがあるんです。“立って、闘いなさい”。思いにも、想いにも精一杯立ち向かわなければならないんじゃないでしょうか? そうでしょ、先生」
樹下が腕を構えてボクシングスタイルをとる。ぐっと顔に近づけた拳で、泣いてる顔を隠しているのがよくわかる。
「そうやって誰も彼もの想いを無視してたら誰も幸せにならないじゃないですか? 先生だって幸せにならないじゃないですか?」
ボクが幸せになることを望んでいないのが、ボク自身だ。
でも、自棄になったり早恵にすがったり、そうやって不幸を拒み続けたのもボク自身だ。
優人との約束を胸にサッカーを続けていたのは、ボク自身が嬉しいのもあるし優人が笑うのが好きだったからのもある。
優人の夢を、優人の幸せを奪ったボクをボク自身心底憎んだ。
彼氏にフラれた早恵を支えたいと思った。泣いてる早恵の涙を止めたいと必死だった。早恵を傷つかせない様にボクは願った。
今、早恵を傷つけてるのは他ならないボク自身だ。
「そんなのわかっているんだ。だけど、ボクは……。君だって、さっきから好き勝手言ってるけどな、君だって!……」
君だって。
そう、樹下だってそうだ。
猿渡美里の想いや犬飼英雄の思いを無視して引きこもっているんだ。
ボクと変わらない。
だから。
ボクと変わらないから、か?
ボクと変わらないから、樹下はこんなにボクに対して怒っているのか?
「“君だって”? 何ですか? 私の事を棚に上げてるというならその通りです。先生があまりに私に似てるから。先生には私の様になってほしくないから!」
一段と声を大きくする樹下。ボクシングスタイルはそのままで、涙もずっと流れている。
きっとこれはボクを殴るためのスタイルなんじゃなくて、自分自身をガードする為のスタイル。
似ていると言われるぐらいだから、わかってしまう。誰かを傷つけない様に、自分を傷つけない様に、そうやって来た彼女の作り出した不器用なファイトスタイル。
樹下が本当に殴ってやりたいのが誰なのか。それが痛い程、よくわかる。
「ごめん、ボクは家庭教師なのにな。君に教えられてばっかりだ」
「いいえ、先生は立派に教師として私に教えてくれました」
「ここにきてお世辞を言われても嬉しくないよ」
樹下からのお世辞が珍しいとはいえ、無理な慰めは要らない。ボクの情けなさが地平線の彼方まで続いていそうだ。
最近は特にそう思う。
「お世辞じゃありません。先生は反面教師として立派に私に教えてくれました」
「ああ、確かにお世辞じゃないな。軽く馬鹿にしてるじゃないか」
「え、軽くないですけど?」
「本気で馬鹿にしてんのかよ!?」
思わずツッコミの手が出てしまった。
気づけば樹下はファイトスタイルの手を下げていて、ツッコミしやすい様に頭を差し出していた。
遠慮なく、脳天チョップ。
「痛いっ! ちょっ、先生ツッコミ下手すぎませんか?」
確かにツッコミの手としては下手な手だ。音がしないから地味で、地味なのに痛い。
樹下は頭を押さえながらこちらを見ている。頬には涙の跡がそのままなので、涙を流すほどのチョップを決めてやった様に見えるがそれほどでもない。
痛さも地味、その程度に抑えたつもりだ。
「君の代わりだよ」
「私はそんなにツッコミ下手じゃないですよ。ボケもツッコミもできるピン芸人としてやっていける有望株です」
時折、樹下は本気で大学よりお笑い学校を目指してるんじゃないだろうかと思う。ただ引きこもりなので、有望視してくれている人物なんて多分身内しかいないんじゃないだろうか? それを胸張って発表するあたり残念でしかない。
「君は君自身をひっぱたけないからね。ボクが代わりに叩いてあげたんだ」
「チョップだなんて、わかりづらいじゃないですか」
「女の子にビンタは気が引けるじゃないか」
だったらチョップはいいのかと、質問が来ても受け付けない。
いや、唯一応えれる答えがあるとするなら、普通はダメ、この場合はイイ。
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