episode　１　入籍は突然に

途中から合流してくれた杏を前にしたら、少しは蒼空の態度も変わるんじゃないだろうか。

そう期待してみたけれど、蒼空の態度が変化することはなかった。

「ではお衣装の最終調整に入らせていただきますね。お二人をお願いします」

衣装部男女がそれぞれ二人をフィッティングルームに案内すると、私と杏は束の間の休息をとるために給湯室へと向かい、紙コップに熱いコーヒーを注いだ。

「由華がどうして私にサポートを頼んだのか、わかる気がする。あの新郎様、すごいわね」

猫舌な杏がコーヒーに息を吹きかけながら苦笑いして私を見た。

「元カレ？」

そんな的外れなことを聞かれて、私は思わず吹き出しそうになった。

「そんなんじゃないわよ。本当にただの小学生からの同級生ってだけ。確かに仲は良かったけど、恋愛関係になんてなったことはないわ」

恋愛なんてものを深く知る前に、私達は別々の道を選択してしまったのだから、そんな関係になるはずがないのだ。

あの甘酸っぱくて少しむず痒くなるような羞恥心に恋愛要素をこじつけるとなると、それは初恋と言えなくもないだろうけれど。

しかしそれも遥か昔の話で、特に拗らせることもなく思い出すこともなく、健やかに人生を送ってきたのだ。

「まぁ、由華がそう言うならそうなんだろうし、詮索するつもりもないけどさ。あの新郎様はどういうつもりなのか疑問だわ」

一口啜ったコーヒーに視線を落とし、杏は唇を尖らせた。

蒼空がどういうつもりで結婚間近の吉崎様を冷たくあしらいながらもここにいて、私に執拗に絡んでくるのか、それを一番知りたいのはほかの誰でもない私だ。