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ショボい人生からの異世界転移〜チートスキルが10円玉召喚ってショボ過ぎでしょ!?〜

後藤権左ェ門

13.決着

「へ、『変則ビーチフラッグス』ぅー!? なんだよ、それは!」

 俺は説明のため、必要な道具をミカナさんに持ってきてもらう。

「ミカナさん。日本酒を飲む時に使う枡ってありますか?」

「ニホン酒がなにかはわかりませんが、サンコ酒を飲む時の枡ならあります!」

 そうかニホンじゃなくてサンコなのか。
 いや、今はそんなことはどうでもいい。

「それではその枡を貸してください」

「はい!」

 ミカナさんは先程までの震えはなくなったようだ。
 俺を信じてくれているんだろうか。
 負けられねーな!

 ミカナさんはすぐに枡を持って戻ってくる。

「これで大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません」

「おい、いつまで待たせるんだ! さっさと勝負の方法を説明しろ!」

 よし、これがあれば大丈夫だ。
 あとは相手が勝負に乗ってきてくれるのを祈るだけだ。

「それでは説明します。普通のビーチフラッグスは、走ってゴールにある旗つまりフラッグを先に取った方が勝ちになります」

「そんなこたぁわかってんだよ! 変則ってのはなんなんだ!」

 頭に血が上るほど冷静な判断ができなくなるからな。
 こっちはなるべく焦らして、相手を苛立たせたいところだ。

「まぁ、そう焦らないでください。男の器が知れますよ。順番に説明しますから。今回はゴールフラッグの代わりに、このミカナさんに持ってきてもらった枡をゴールに置きます」

「なんだ旗が枡に変わっただけじゃねーか! それのどこが変則なんだよ! 枡を取った方が勝ちなんだろ?」

「いいえ、取ったら勝ちではありません。……先に"コレ"を枡の中に入れた方の勝ちです!」

 俺は満を持して10円玉を取り出す。

「はっはっは! バカか! 取ろうが入れようが同じじゃねーか! 足の速い方の勝ちだ! 俺のこのカラダを見てみろよ。お前と違って恵まれてるんだ。神に愛されてるんだよ! 反射神経も足の速さも、お前みたいなモヤシに負けるはずがねぇ!」

 そうだ、頭に血を上らせろ。俺を侮れ。
 勝負に乗ってくれるなら俺は何を言われたって構わない。
 神はどうか知らないが、俺はあのちょっと残念だけど本物の女神様にチートスキル授けられてんだ。
 最後に笑うのはこの俺だ!

「それじゃあ、勝負成立ということでよろしいですか?」

「ああ、いいぜ。俺が勝ったらミカナちゃんをもらうってことでいいんだな?」

 俺はミカナさんを見る。

 ミカナさんは俺を見て頷く。

「信じてます」

「任せてください」

 俺は人生で一番の虚勢を張る。
 ミカナさんを少しでも不安にさせたらいけない。
 俺は……絶対に勝つ!!

「それでは、その条件で。約束は守ってくださいね」

「まだ俺に勝てるつもりでいるのか? 頭お花畑かよ。まぁ俺が負ける可能性は万に一つもないが、約束は守る男だ。ま、せいぜい頑張れよ、おっさん! ぎゃはは!」

 俺達は揃って店の外に出る。

 ゴールの枡を数十メートル先に設置する。

 お互い枡の中に10円玉が入っていないことを確認する。

 俺と男はスタート地点につく。

 スタートの合図はミカナさんだ。

 そうこう準備している間に、野次馬が集まってきた。
 地球に比べて娯楽の少ないこの世界で、こんな見世物見ないと損だわなぁ。

 俺は野次馬のざわめきに負けないように集中する。
 ミスは許されない。

「なんだ? 今更ビビってんのか? 今から降りてもいいんだぜ? その場合ミカナちゃんは俺がもらうけどな! ぎゃはははは!」

「あまり喚くと滑稽ですよ。この野次馬たちが勝負の証人ですからね。負けると恥ずかしいですよ?」

「なんだと!?」

「さ、始めますよ」

 俺はミカナさんに合図する。

 頷くミカナさん。
 ミカナさんも緊張しているみたいだ。

 最後に俺は野次馬を煽る。

「見物人の皆さん! これよりミカナさんを賭けて、私とこの男が勝負を行います! ルールは簡単、それぞれ持っている10円玉をゴールのあの枡に先に入れた方が勝ち。それだけです! どちらが勝ったか、皆さんが証人です! お見逃しなく!」

 ピュー!
「いいぞー!」
「やれやれー!」
「頑張れよ! 兄ちゃーん!」

 指笛の音や声援が響き、野次馬たちが盛り上がる。

 これでやれることはすべてやったと思う。
 もしダメだったら……いや、そんなことやる前から考えるな!

 俺と男はスタート位置に並び、ミカナさんの合図を待つ。
 こんなに野次馬が多いのに、辺りが静寂に包まれる。

「位置について……」

 ドクッ ドクッ

 あー、心臓がうるせぇ。
 耳が心臓になったみたいだ。

「よーい……」

 ドクッ ドクッ

 大丈夫、作戦は完璧だ。
 あとは俺がミスらなければ勝てる。
 落ち着け、落ち着け。

「どん!」

「うぉぉぉぉぉ!!」
「うおりゃぁぁぁぁ!!」

 スタートの合図と同時に2人は動き出す。

 片方は走り出し、片方は振りかぶる。

 俺は10円玉をゴールに向かって思いっきりぶん投げる! ……フリをする。

「いっけぇぇぇぇ!!!!」

「はっ! 勝てねぇとわかって自暴自棄になったか? そんな遠くから投げてあんな小せぇとこに入るわけねーだろ!」

 ふん、言ってろ。
 優越感に浸ってろよ……今だけな!!
 俺には女神様からもらったチートスキルがあるんだよ!!!!

 すぐさま俺は枡の上に出現する10円玉をイメージする。
 俺の勝ちだ!!

「10円玉召喚!」

 俺の10円玉が枡の中へ吸い込まれていく。

 少し遅れて男がゴールにたどり着く。

「よっしゃ、楽勝で俺の勝ちだぜ。はい、ゴール……って」

 愕然とする男。

「なんでもう10円玉が入ってやがるんだ!?」

 俺はゆっくり歩いて男に近付く。

「いやぁ、残念。俺の勝ちみたいだなぁ〜?」

 今までやられた分を上乗せして相手を煽る。

「あんなとこから投げた10円玉がこんな小せぇところに入るはずがねぇ! てめぇ、イカサマしやがったな!」

 詰め寄ってくる男。
 負けたくせに、残念な男だ。
 これぞ負け犬の遠吠えってやつだな。

「負け犬の遠吠えかぁ〜? 俺はイカサマなんてしていない。俺は俺の力で10円玉をゴールに入れた。約束は約束だ」

 そうだ、10円玉召喚スキルはチートスキルだが、俺の力に変わりはない。
 俺は俺の力を使ったに過ぎないんだ。

「こんな勝負無効だ! ノーカン! こいつはペテン師だ!」

 ダメか……
 こいつは約束なんて守らなくても痛くも痒くもないんだろう。
 ミカナさん、申し訳ない。俺にはこれが限界……

 俺が諦めかけた時、野次馬たちからヤジが飛ぶ。

「約束は守れ!」
「ズルいぞ!」
「カッコ悪い!」
「短小ー!」
「帰れー!」
「ミカナちゃんに近付くなー!」

 いや、明らかに勝負に関係ないただの悪口言ってるやついるじゃん。

「なっ……」

 男はヤジに驚いているようだ。

 多分、あいつは子供の頃から恵まれていたんだろう。
 かけっこでもケンカでもすぐに他の人より上になり、逆らうやつらはちょっと力を見せつければ言うことを聞かせられた。
 だから、こんな風に大勢から面と向かって敵意を受けたことがない。
 だから動揺しているのだろう。

「……くっそ、恥かかせやがってこの女! お前みたいなのはこっちから願い下げだ! ちょっとかわいいからって調子乗ってんじゃねーよ!」

 男は野次馬から逃げるようにそそくさとこの場をあとにした。

「「「わぁー!!!」」」

 野次馬から歓声があがる。

「兄ちゃん、よくやった!」
「あいつ、いつも素行が悪くてムカついてたんだよ!」
「いやぁスカッとしたぜ!」
「結婚おめでとう!」

 あいつ結構嫌われてたんだな……
 それにしても今までの人生で、こんなに人から注目されることも、こんなに称賛の声を浴びることもなかったから、なんだかむず痒いな……

 ん? てか今誰か結婚って言った?
 そんな予定は無いんだが……

「いや、俺は結婚する予定はないですよ……?」

「おや、そうなのかい? 勝負の前にミカナちゃんを賭けて勝負するっていうから、てっきりそういうことかと思ったわさ」

「いやいやいやいや! 全然そんなつもりで言った訳じゃなくて! あの男からミカナさんを守ることに必死だっただけで!」

 近所の人に変な勘違いをさせてしまって、ミカナさんに申し訳ない!
 あれ? そういえばミカナさんはどこに……?

 俺は辺りを見回す。
 あ、まだスタート位置で立ち尽くしている。
 野次馬をかき分け、ミカナさんに近付く。

「ミカナさん! なんか大変なことになっちゃってすみません。大丈夫でしたか?」

「えっ? あ、その、あの男に掴まれた時はすごく怖くて、でも、その後イヒトさんが勝負するって言ってくれて、怖かったけど不思議と大丈夫だって思えて、でも不安で。それでもイヒトさんは任せてくれって、それで、それで……なんかもう頭が混乱してるんですけど、これだけは言わせてください! 本当にありがとうございました!」

 ひぃっ!
 ミカナさんが俺の両手を持って、胸の高さでギュッと握っている!
 急にそんなことしたら危ないよ!
 おじさんの心臓が爆発しちゃうとこだったよ!

「ミカナさん、落ち着いてください! もう大丈夫ですから。それに、そんなにかしこまらないでください」

 俺はミカナさんを真っすぐ見据え、できる限りのキメ顔をつくる。

「冒険者っていうのは困っている人を助けるもんですから」


 ―◇◇◇―


「はい! これ今日の依頼達成証明です! 面倒事に巻き込んじゃったので、少しですけど色を付けさせていただきました! どうぞ、受け取ってください」

 俺はミカナさんから依頼達成証明を受け取る。
 あ、ちょっと手が触れた。
 わざとなのか、わざとじゃないのか。

「ありがとうございます。本当に被害がなくて良かったですよ」

 ミカナさんは手を後ろで組み、少しもじもじしながら俺のことを見上げてくる。

「イヒトさん……依頼でもお客さんでもいいので、絶対また来てくださいね!」

「はい! 絶対また来ます」

 俺は晴れやかな気持ちで店をあとにする。

 今日は多分俺の人生の中で一番大変な日だっただろう。
 充実感と達成感と疲労感でいっぱいだが、こういう日も悪くない、そう思える。
 またしばらくはショボい日々で十分だけどな。


 第1部 完……?


 ―◇◇◇―


 ――次の日

 食事処アズーマ小屋にて。

「冒険者ギルドから来ました、イヒトです」

「イヒトさん!?」

「報酬がいいので客足が落ち着くまで依頼受けることにしまして……」

「ふふっ、昨日あんなキメ顔して去っていったので、しばらく来てくれないのかと思ってました! 今日も頼りにしてますね、イヒトさん!」

 カッコつけたのに締まらねぇなぁ、と思わなくもないが、まぁそれが俺ってことで。


 ―◇◇◇―

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