天壌無窮の守人

兎月あぎ

第六幕 二話 鋼臨、龍少女

テレビから聞こえるニュースの音が店内に響く料理音に混じって聞こえてくる、どうやら海面の低下現象が止まっていないらしい、おかげで半年ほど前から始まっている異常気象を含め世界滅亡では無いかなどと騒がれている。いやそんなものを聞いている場合ではないのだが。
本来研究所内で待ち構えているであろう代理戦争用兵器である龍少女ドラゴンガール、それが何の変哲もない店舗で遭遇したともなれば呆気にとられる。胸を張ったままノックの紹介を受ける龍少女、ノックもノックだが色々と二人とも抜けている気がする。
ノックが言っていた馬鹿だから大丈夫と言っていたが非常に納得がいく。気を取り直しつつバッグの中に手を伸ばしいつでも戦闘態勢に移れるよう身構え、龍少女に色々と聞くことにした。
「ここでいったい何をしているんだ…?」
「見ればわかるアル、店の営業をしてるアル。」
それはそう、見ればわかる事である。
「いやそうじゃなくてだな…まぁいい、普通研究所にいるもんだと思ってたんだが」
「あんまりにも問題起こすからお前は修繕費もろもろ稼いで来いって言われたアル」
『えぇ…』
あまりの理由にあのサジタリウスですら呆れるほどである、いったい何をすれば修繕費などを稼ぐように言われるのか見当もつかない。すると次は向こうがノックに対して質問をしてきた。
「それでノックは何しに来たアル?また殺り合うアルカ?」
物騒すぎる。
「いやそれなんだがなちょっとお前の所に用があってよ、中に入りたくてそれで近くまで来たんだが腹が減ってこの店に入ったわけよ」
「おい馬鹿!?」
わざわざ敵に何しに来たかの情報を流す奴がいるかと思うが時すでに遅し、早く臨戦態勢に移ろうとした瞬間。
「そうアルカ!よく来たアル、案内するアルヨ!」
何故か了承を得てしまった。なんとなくだがどうして修繕費を払う羽目になっているのかが分かってきた気がするノスであった。しかしながら戦闘無しで敵地に侵入しその上案内までしてくれるという。隙を見て目的の場所まで行きつくことが出来れば簡単に目標を達成できる、こんな好条件などそうそう無い。
一応罠かもしれないのでいつでも脱出できるよう例のブレスレットを装着し龍少女についていくことにした。




場所は万里の長城、中央からすこし左に進んだ塔の真下。そこに3人はいた。
「ここアル」
そう龍少女が壁の一部を押すとガコンと奥に入り込み徐々に石壁が開いていく、そして数秒もすればそこには人が数人入れそうな大きさの空間が出来たのだ。中に入り内側についているボタンを押すと再び石壁が動き出しその空間に閉じ込められる、その後軽い浮遊感がすると同時に上部に備えられたライトが点灯。どうやらここはエレベーターとなっており内ガラスから中の様子をうかがい知ることが出来た、今回の侵入箇所は兵器工場の生産ラインらしい。親切丁寧に龍少女が説明してくれた、工場見学かのように。
現状他の研究員とすれ違う様子もない、どうやら龍少女の生活区域が設定されているらしく主にそこを通ってきているらしい。監視カメラなどもあったが一部はすでに壊れていたため何かやらかしていたんだろう、生きている監視カメラもあったためそこは気づかれないよう壊させてもらった。
ノックに関しては龍少女と親しげに話しており全く緊張感が無い、以前も殺り合ったことがあると言っていたのでここにも来たことがあるのかは分からないが余りにも緩みすぎではないだろうか。
しばらく歩いているととある一室に通された。どうやら生活スペースらしいのだが真っ白な部屋に飾り気のない家具が置かれている。女子らしくない部屋だなと思いつつも周りを見渡していると後ろからガチャと鍵がかけられる音がする。
「で?本当の目的は何アルカ?」
そう聞かれた。油断していたわけでは無いが突然のことであったため判断が遅れた。すぐさまハンドガンを取り出し距離を取る、ノックは頭に?を浮かべているため使い物にならない。
「戦うつもりはないアル、本当は何しに来たかだけを聞いてるアル。それにここにはマイクもカメラもないアル」
しかし信用は出来ない、ハンドガンを構えたままじりじりと近寄る。
「そっちこそ何の用があって私たちをここまで招き入れた。ここで仕留めるためか?」
そう聞くとあっけらかんとした様子で答えが返ってきた。
「ここ以外で話すと何聞かれてるか分からないアル、それに本心で話し合った方が言いアル。違うアルカ?」
どうやら本当に敵意は無いようなのだが…どうにも引っかかる、何故こちらの最終目標を知りたいのか。一切分からない、読めない。
「もう私ここにいるのうんざりアル、ずっとこんな場所に閉じ込められてお金を稼いで研究を手伝って…だから外に出ていきたいアル。二人が何かするっていうのなら協力したいアル!」
そう目を輝かせながら言ってきたのだ。純粋無垢な、恐れなど知らないともいえるほどの顔つきと声音で。
「なぁノス、こう言ってるんだからいいんじゃないか?」
今まで頭に?を浮かべていたノックがそう進言してくる。ノックのことはそれなりに信頼している、だが龍少女のことは信じきれない。だが、どうにかしなければここから出られそうもない。
「分かった…だが信用しきったわけでは無いからな」
そういいノスはハンドガンを降ろす。そこからは龍少女に話を聞いていく、ここの研究所の構造に目的物の場所そしてそこに至るまでの障害があるかどうかなど。そんな中目標のものに面倒ごとが一つ増えてしまった。
「数日前にノスの目的物の点検と言って入ってきた研究員がいるアル、その研究員はずっとそこで作業し続けているアル。名前はCat Cheeseらしいアル」
そう、目標物を操れるような研究員が常駐していることであった。

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