天壌無窮の守人

兎月あぎ

第五幕 三話 胡蝶の輪舞

角から通路の最奥をのぞき込む、その奥では不死蝶が舞っておりこちらが様子をうかがっているとまた大量の銃弾が飛んでくる。そのたびに顔を引っ込めさらに奥へと避難しているのだが壁の弱い部分はもうすでにボロボロになってしまっている。あれをひとたび浴びればそこの壁と同じような状態になってしまっているだろう。
向こうがこちらに気づくまで多少の時間は産まれてはいるものの、その時間で最奥まで詰め寄ることはほぼ不可能であろう。しかし長時間様子を見ていただけではない、よくよく考えればわかる事なのだがこの長い通路、遮蔽物が無いのは向こうも同じことでりでかい攻撃を一発でも当てられようものなら、たとえ再生能力が非常に強いとしてもより長い隙が出来るだろう。
となるとノックの力を使ってもらうしかなくなるのだが、使いどころを間違えれば敗北への道を一直線に進むことになるだろう。どうしても慎重にならざるを得ない。
またノックが言っていたいつもより長い射撃、あれの正体も判明した。彼女の帯の部分にあるレール、あれはライトマシンガンを撃つときの補助とされるガイドレールだ。ガイドレールを使うことによってジャムる可能性が無くなり、その上スムーズに弾込めができるため連射速度も上昇し長時間撃つことが可能となる代物である。恐らくマガジンの扱いをしている振袖にある大量の弾をより効率的に扱うために用意したのだろう。

「埒が明かねぇな…」
『いったい誰のせいだろうな』
「……知らねぇ」
等と二人呑気に会話している様子だが状況を変えようとする気はあるのだろうか?。そんなノックを尻目に思考を巡らせるがいい案は一向に思いつかない。とここでノックが顔を近づけてきた。
「なぁ、今回は俺に任せてくれないか…?」
「それはいいが…どうする気だ?何か案があるのか?」
神妙な面持ちで話しかけてくる。
「あぁ、お前は援護射撃をしてくれるだけでいい、ただし場合によっては俺再起不能になっちまうかもな!タハハ…」
笑い事ではない
「あのなぁ…まぁ、頼むぞ」
ノスはため息をつきつつも了承することにした、このまま思考を巡らせていてもいい案が出てくる気配はない、それにノックのことは信頼している。ならばノックの作戦に乗ってみようというわけだ。




先ほどからあ奴らが出てくる気配が一切ない、感じ取れる範囲外にいるためこちらからは不用意に手を出せない。さっきまでちらちらと顔を出すことぐらいはしておったのに…降参するなら早く出てきて欲しいのやけど…
「うおおおおおおおおおおお!!」
ノックの声が聞こえる、どうやら馬鹿正直にまっすぐ突進してきているようだ。あの阿呆が、そんな方法でこの私と相対する気とは…ノックらしいと言えばそうやけど。けど向かって来るなら容赦せんよ。

ノックの方向へ腕を構え力を籠める、ガイドレールに弾が流れ始めるとともに心地いとも思える力の流れを感じる。足に力を籠め体全体を空中へ持って行きくるりと舞う。それと同時に大量の弾がばらまかれる。

終わりやねノック、残念やけどここまでや。
「どっせい!!」
ノックの掛け声とも分からぬ声と同時に衝撃波が飛んでくる。自身の周りで大量の弾が落ちる音がするとともにノックのものであろう足音が一層近くなる。

接近を許してもうた!はよ次の行動に移らな!
それでもまだ距離は相当開いている。すぐさまその場で踊り相手の位置、動きを把握する。すると遠くから立て続けに銃撃音がする、ノックの仲間のものであろう銃撃をひらりとかわすもののそのせいで銃撃の軌道を逸らさねばならなくなってしまい、ノックの接近をさらに許すこととなった。
「くッ!」
だがそれでもまだ距離は開いている。それにノックの力が使えるのは5発までと知っている。先ほどのでおそらく2発目、回数制限が少ないが故に慎重に使わざるを得ない。それにもう一度使われたとしてもこちらまでの距離はまだまだ開いている。

舞い続けながら大量の弾をばらまき始める、が次の瞬間。
「いくぞおおおおおおおおお!」
ノックの声が急速に近くなると同時に力が使われたのがはっきりわかる。

なんでや!?何でこんなに早いん?弾が落ちる音はしてない衝撃波もこちらに飛んできてない、じゃあ使った力は一体何に?まさか…自分自身を吹っ飛ばしてか!
そう、ノックは力を自分自身の後ろに出現させそこから発射し推進力として使っていたのである。もちろんその分のダメージは受けるし移動する際にかかるGも並大抵のものでは無い、だがこのおかげで一気に距離を詰めることが出来たのである。
「うおおおおおおおおおおお!」
「ッ!」
ノックと不死蝶ががっちり掴みあう。互いに一歩も譲ることない状況だがノックの方が馬力は上だ、じりじりと後ろに追い詰められてゆく。
「こんの阿呆が!大体何であんな得体のしれない奴と行動をしている!その少ない脳みそで多少は考えんかい!」
「てめぇが何言ってるか俺にはさっぱりだ!だがな、あいつは命を懸けてまで俺のやり遂げたいことを一緒にやってくれたんだ、ならその恩に報いるのが俺のやり方だ!」
「こんの分からずやッ!」
足を振り上げノックの顔へ向けて一撃入れようとするが片手で止められ足を掴まれる。しかし、振りほどくように掴まれた足を支点に回転することによって脱出し距離を取る。
するとすぐノックのパンチが飛んでくる、これはひらりと躱し反撃と言わんばかりに弾を軽くばらまく。残念ながら今の攻撃は当たらずそのまま流れるように再度回し蹴りを喰らわせる、それに対しノック後ろに飛んでよけようとするも判断が一瞬遅れていたためか重い一撃をもらってしまう。
「かッ…!」
体の半身に強力な衝撃が走る、壁に打ち付けられるもその反動を使い突進これもまた避けられることとなった。がノックもそれだけで終わるわけがなく裏拳が不死蝶に当たりダメージを与える。
「ぐぅッ!」
だがこのまま肉弾戦では決着はつかない、そうノックは悟った。そして三度繰り出された不死蝶の蹴りを今度は逃すまいと左腕でがっちりと掴み離さない、そして一気に力を収束し解き放とうとする。
「なっ!?ノック離せっ、このままやとあんたも…ッ!」
「上等よ!我慢比べ始めようや!」
閃光がほとばしり視界が真っ白に染まりあがる。




ノックと不死蝶が戦闘をはじめてからしばらくして閃光がほとばしり離れているノスまで目が眩むほどであった。視界が徐々に晴れていく通路最奥には下半身を失いあおむけに倒れている不死蝶と、左腕を失い右腕で不死蝶の首元を抑えているノックの姿があった。
銃を構え慎重にノックの元まで駆け寄る。
「降参や降参…あー、もう!負けてもうた!このままやりあってもキリないわ」
「はっはっは、今回は俺の勝ちだな!」
「何を言うとるん!引き分けやろ!」
どこかすがすがしい顔の不死蝶と満面の笑みを浮かべて勝利宣言をしているノックの元まで着く。そんな不死蝶の様子に少し不信感を抱きながらノックにお疲れさまと声をかけたのであった。こうして不死蝶との勝負はほぼノックと不死蝶の一騎打ち、我慢比べ?により決着となったのであった。


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