天壌無窮の守人

兎月あぎ

第四幕 三話 星々を裂く者

一昔前までは何度も戦場へと赴いては敵軍をこの体でなぎ倒し自陣の勝利へと貢献していた。敵軍からはサジタリウスだと恐れられ、仲間からはこの時代の王だともてはやされていた。
だが今はどうだ、まんまと敵軍に捕まり機会に繋がれ情報は入ってこれどこの静かな場所に閉じ込められたままだ。その上戦闘用AIにハッキングなどできるような能力など持ち合わせてなどいない、このまま無駄に時が経つのを見ていろと言うのか。

どれほど時間がたったのだろうか。かつての仲間は助けに来る様子もない、まぁそれもそうだろう、所詮は私は物だ。替えだって利く、ならば置かれた状況に身を委ね過ごすのか?いや違う。
暴れ足りない…こんな所で留まっているわけにはいかないのだ。

ドアが開く音が聞こえこちらに何者かが近づいてくる、こんなところに人が来るとはどうやら相当な変人だろう…すると体が持ち上げられる。どこかへ連れていかれるようだ。どこへ行こうと何が起ころうと私の信念は変わらない、いつか倒れ敗れるまでに王へと返り咲いてやろう。私は…




ノックが背中から倒れる、光の柱に貫かれた胸にはぽっかりと穴が開いている。
が、直後むくりと倒れたはずのノックは起きたのだ。
「だああああああ、いてええええええ!?」
胸に大穴が開いているにも関わらずである。ノスに関してはノックの様子を確認した後、左腕と口を使い無くなった右腕の付け根の部分の応急処置を施していた。
ノスにはノックが死なないということが分かっていたのである。それは以前の代理戦争兵器第3世代の説明を聞いていた時にあるとある内容が理由となっていた。その内容というのは第3世代はすべて核となる部分があるらしくそこを破壊しない限りは徐々に再生していくらしい、ただし核だけになると外部からエネルギー供給が無い限り戻れなくなってしまうそうだが。
ノックの核の部分に関しては首の部分にありノスは初対面時にその位置をどういうわけか見破っていた、双紅(ルビーコ・メット)に関してもそうだ。
その様子を見ていたサジタリウスは動じる様子もなく。
『これだから新世代は面倒だ…』
等と愚痴をこぼしている。

ノスはサジタリウスの方向へと向き直る、問題は一つも解決していない。現状打つ手がないままであるため状況が好転することもない。先ほどから観察している物の大きな隙もなく弱点らしき部位もない。あの巨体を制御するうえで足を潰せれば自重で動けなくなるだろうがそれも先ほどのように躱されてしまうだろう。だが、一つだけとある可能性に気づき、それを実行するべく動き出す。
バッグの中に片手で使えて尚且つ何か状況を変えれそうなもの…あるにはあった。以前使ったブレスレットとグラップラーだ。とりあえずブレスレットを着けグラップラーを腰に装着しすぐに取り出せるよう準備する。
「ノック!俺を担いで飛んでくれ!」
ノックは怪訝な顔をしながらもこちらに走って近づいた後ノスを担ぎ、力を使い高く高くへと跳躍する。サジタリウスは…着地地点に狙いを定めているのか、突進体制へと移行している。賭けに勝った、そうノスは確信した、ノックに作戦を伝え
「ノック!頼むぞ!」
グラップラーを左手に持ちサジタリウスの進路に狙いを付け、ノックから離れる。
「分かってらぁ!」
ノックは力を込め跳躍地点に思い切りエネルギーをぶち込んだ。すると着弾地点は巨大なクレーターができ、そこにサジタリウスが突っ込んでいく。そう、サジタリウスは突進の際大盾を構えるため前方が見えていない。そしてサジタリウスの足は破城槌のようになっておりその先端は鋭く尖っている、そして進路上に急に穴などが開こうものなら…ビンゴ!
『ぬうっ!?』
サジタリウスの両前足がクレーター部分に深々と突き刺さり埋まる、そして地面が自動修復により徐々に戻っていく。するとサジタリウスの前足が埋まったまま状態となった。続いてノックが2発目のエネルギー弾を撃ち込む。
「どらああああああ!」
しかしこの攻撃はすぐさま構えられた大盾により塞がれてしまったが時間は稼げた。グラップラーを使いサジタリウスの背中へと乗り移る。
『貴様何をする気だ!』
サジタリウスが必死に振り払わんと体を揺らす、遠心力で吹き飛ばされそうになるがなんとかグラップラーを巻き付け吹き飛ばされまいとしがみつく。そしてそのままブレスレットの力を最大出力で解き放つ、ブレスレットが不安定になりやすいこの場所で発動する、するとどうなるかというと暴走が起こるのである。
周囲にいくつもの次元の穴が開き裂け始める、そしてそれに触れたサジタリウスの装甲はひん曲がったりねじれ始め、弾け飛ぶ。
『ぬおぉっ!?小癪なぁ!!』
サジタリウスは再び右腕を上空へ向け光の流星群を起こそうとする。だが振り上げた右腕の先には次元の裂け目、次元の裂け目に触れた右腕はエネルギーを集めていた状態だったため爆発、右腕は粉々に砕け散り自らそのエネルギーの奔流受けることとなった。
『か”あ”ぁ”っ!?』
体の各所がボロボロになりながらも未だ暴れ続けるサジタリウス、場所によっては内部フレームがむき出しになっており機械といえど痛々しい見た目となってしまっている。そこへ追い打ちをかけるようにノックの攻撃が脚部に着弾、左脚は吹き飛びガクンと体勢を崩し地に伏せる。サジタリウスはもう動けない。ここでノスはブレスレットの力を抑え、徐々に暴走を収束させる。
「ノス!無事か?」
ノックがサジタリウスの背中に急いでよじ登ってくる、胸に空いた穴は治っているものの力を使った代償で体の一部は見るだけで痛々しい状態となっていた。
「あぁなんとかな、あと…見つけたぞ、ここを見てくれ」
ノスが指さす場所人間の部位としては肩甲骨同士の中央に当たる部分の装甲が剥がれている場所、恐らくコア部分に当たるであろう場所に光る端末が差し込んであった。
『………』
サジタリウスは沈黙している、その姿はどこか己の死期を悟ったかのようにも見える。
「おいノス何してるんだ?」
ノックがそう問いかけてくる、ノスは何かを考えるように顎に手を当てているのだ。
「…サジタリウス一緒に来る気は無いか?というか一緒に来てくれ」
と突然ノスがそんなことを言い出した。
『……一体どういう風の吹き回しだ、そもそもこの状態の私に拒否権などないだろう』
そうサジタリウスが諦めたかのような声で返してくる。
「そうだな…これから私が行っていく計画の中でおそらく必要になるからだ、そして大量の戦闘情報などを持ち合わせているお前を破壊するなど勿体ない。だから一緒に来てもらう」
そう言ってノスは有無を言わさず光る端末を引き抜いた。
『物使いの荒い奴め』
端末から声が響く
「うるさい」
「おいおい本気かよ…」
呆れるノックを尻目に背中のバックの横側にサジタリウスの端末を取り付けた。直後施設全体に響き渡るかのように警告音が鳴り響く。恐らくこの戦いをずっと見られていたのであろう、すぐに移動しなければさらに面倒なことになるであろうことは容易に想像できる。
「まずいぞさっさと海洋プラント側に移動しなければ…ノック案内頼めるか?」
「おう、問題ない。人が集まる前にさっさと行くぞ!」
そう言い二人と一基の端末は海上プラントのそびえ立つ方へと足早に駆けていった。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品