天壌無窮の守人

兎月あぎ

第四幕 天射す王と笑う少女

フロリダ半島某研究所にて
ひんやりとした空気が流れるこの部屋には大量の機器が置かれており、時折電子音や軽くファンの回る音が聞こえてくるぐらいだ。そんな中、とある端末が置かれておりそれに近づく人物がいた。
「ちょーっと失礼するよ?いやぁやっぱこういうの良いよねぇ、わくわくしちゃう」
声色からして女性だろうか、くすくすと笑いながらひょいと端末をつまみ上げそれを部屋の外へ持って行ってしまった。残った部屋にはまた時折響く電子音やファンの音だけとなった。




「あっちぃ…」
鍛え上げられた赤銅色の上半身をさらけ出し大量の汗をかきながら猫背で街中を歩いている青年がいた。ノックである。異常気象ともいえるほどの熱気、燦々と照り付ける太陽光をその身に受け続けている。
「シャツぐらい用意したらどうだ…だらしないぞ?」
その隣にはこの異常気象ともいえる中、頭がおかしいのかとも言われてもしょうがないほど深くフードをかぶって歩いている人物がいた。ノスだ。二人があの研究所から離れて約1か月となる。
「お前こそその格好暑くないのか…?こんな温度してるのによぉ…だぁー!暑すぎるんだよ!」
この異常気象は3週間ほど前から始まっており世界全体にもその影響は及んでいるとのことらしい。暑い所はより暑く、寒い所はより寒くと相当極端な状況になっており現状原因は究明されていない。連日の報道はそのぐらいで研究所襲撃の件に関しては何も触れられてはいなかった。当たり前なのではあるが公にされるような機関であるのは重々承知していたが一切報道されないという事は相当なものであることが分かる。
「それに、今回はお前の目的地だろ?もうちょっとしゃんとしなよ…」
そうノックに問うと、
「それもそうだな!よっしゃ張り切っていくぞ!」
このようなやり取りを先ほどから何度も同じように繰り返しているのだ。正直飽きてはきている、因みに前回侵入した研究所からはいつの間にかノックが様々なものを拝借という名の強奪を行っていたため現状路銀に関しては問題ない、ちゃっかりしている。のだが無駄遣いできない状況でもある。

で、今回の目的地の話である。今回の目的地はここフロリダ半島に東沿岸部にある研究所である、ノックが脱走した研究所であり話を聞く限り今回も相当な広さであることが分かった。半分は海上プラントとなっており第3世代は主にそこが居住区とされていたらしいのだが、相当不満を吐いていたことから良い環境では無かったのだろう。また他国から兵器を鹵獲し保管しているエリアが大陸側にあるらしく兵器たちの実験場ともなっているため要注意とのことである。
今回も忍び込むのは夜で夜闇に紛れて侵入しようということである。前回の様な隠密特化型はいなかったとのことなので突如強襲されることは無いと思いたい。
そうこうしている内に時間は過ぎていき様々な身支度を整え食事を取りつつ目的の時間までゆっくりと過ごしていったのであった。




「ふんふふ~ん♪」
鼻歌を歌いながら巨大な何かに近づく一人の研究員の姿がそこにあった。女性が端末をそれに入れる。
「ではでは、お寝坊さんには働いてもらわなきゃいけないのです、わかった?」
楽しそうにそれに話しかけると同時にその巨大な何かの駆動音が徐々に大きくなり始め、そして天に吠えるかのような動きの後、活動を開始したのであった。

目覚めた王は戦場へと歩みだす。




深夜、人々が寝静まった頃ノックとノスの二人は行動を開始した、前回同様壁へと近づき侵入を試みるのだが今回は工場街が近いせいか鉄格子だけで済まされていたためニッパーで断ち切り簡単に侵入することが出来た。
こちら側が手薄なのは海上プラント側の方がよほど重要なのだろう。広い敷地内をゆっくりと進んでいく、しばらく進んでいくと非常に広い敷地の場所へと出た。その中央には巨大な何かが鎮座している。
「おいおいおいおい…なんであれが出てきてんだ?」
ノックが非常に狼狽している。
「知ってるのか?…そういやここの出だったな、知ってても不思議じゃないか」
そう話していると巨大な何かが動き出した、ライトが照らされ同時に女性の声がスピーカーから響き渡る。
「レディース&ジェントルメーン!侵入者君たちに特別なものを用意してあげたよ!私に感謝してね?私も見るのは初めてなんだけど王と呼ばれる彼と戦えるんだよ、わくわくするね~、それじゃ頑張ってね!ばいば~い♪」
そうして女性の声が聞こえなくなった瞬間、それは動き出した。
破城槌のような足先、まるでケンタウロスの様な体躯、そして片腕には大盾、もう片腕には肘先に主武装と思われるものが付いていた。
急いでこの場から移動すべく走り出した中、ノックが説明してくれた。

「あれの名前は『ザポトロン』第1世代の兵器で当時両手の指で数えられるほどの超兵器の一種として数えられていた奴だ。一撃一撃が非常に重く文字通りその巨体で多くの軍をなぎ倒してきた、本来は欧州連合で作られたものだったんだが…こちらの国が鹵獲に成功したんだ。超長距離狙撃が得意で敵軍により付いた異名は『サジタリウス』なんでこうも運が悪いんだッ!」
旧世代でありながらも猛威を振るったサジタリウスが今、咆哮を上げながら二人に襲い掛かるのであった。




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