俺が【聖女】でほんとうにいいのか? 人は助けるが毛も生やすぞ?

さるナース

第003話、研修二日目、回復魔法と病を癒す魔法


冒険者ギルドにて研修 二日目

 今日もツッチーはみんなに向かって明るく挨拶をする。

「はい、みなさんこんにちは、ツッチーです! 本日もよろしくお願いします」

 とても良い笑顔だ。 研修生達もとても良い笑顔を返す。

「「よろしくお願いします!」」

(みんな笑顔は凄い良いよな、前の職場では腐ったような顔しか見てなかったし、この笑顔は真似できそうにないな、これが "治癒師は天使" と呼ばれる由縁なんだろうな)

 俺がみんなの笑顔に感心していると、ツッチーがこちらを見ている。

「では、、、」
(チラっ)

「……なんすか?」
 (こっち見んじゃねーよ、ツッチー)

 ツッチーはニコッと良い笑顔で俺に声をかけてきた。

「走ってきて」
ニコッ

「は?」
(やだよ、キツいもん)

「走ってきて」
ニコニコ

 ツッチーはニコニコとすばらしい笑顔を俺に向けてきた、二回目だある。

「えと…… 昨日の怪我が」

「走ってきて」
ニコ~っ

 ツッチーはニコ~っと威圧感を含めた笑顔をサルナスに向けてきた、三回目。

 俺は了承しながら、心で叫んだ。

「……はい」
(また俺かよーー!!)


***


 俺は走った、いつまで走らせるのか、止まろうとするとツッチーからは続けるように言われる、もう疲れた。

数十分後

「はー…!はー…! はひー! ふぅー…! う"ー!」

 俺はヘロヘロだ、息切れがひどく、声が出ない。 その間、研修生たちは応援してくれた、笑顔で。

ツッチーは昨日と同じくみんなへ向けて冷静に説明を始める。

「このように疲労困憊の人がいる」

 俺は声が出ないので心でツッコみ、ツッチーを睨む。

("人がいる" じゃねーよ、どんだけ走らせるんだよ! その辺の疲れたスタッフでも連れてこいよ! はぁーはぁー)

 ツッチーがこちらに顔を向けて、叫ぶ。

「ちょっと、はぁーはぁー、うるさい! みんなに声が届かないでしょ!」

(オメーのせいだろがっ!)
心でツッコミを返す、声は出ない。 ツッチーは説明を再開すし、俺の身体に触れてくる。

「このように疲労困憊の相手に両手で体に触れ、そして! ゲンキナーレ!」

 俺の身体が光りに包まれる、ツッチーは得意満面の笑顔。 だんだんと身体が楽になり俺は声を出せるようになる。

「おおっ! なんかフワフワする、体が軽くなった、スゲー! 楽になった!」

 俺は驚いていた、こんなに効果があるんだな、表情も穏やかになる、そんな俺に更にツッチーのひどい言葉が聞こえてきた。

「このように体力をあっという間に回復することができます、ではみなさんやってみましょう、サルナス君、腕立て伏せ、ヨロシク!」

 ツッチーは笑顔を俺に向けている、俺は信じられないという目をツッチーに返すが、有無を言わさない雰囲気だ。

「・・・」
(もうやだ、、、)

「サルナス君?」

 俺がだまっているとツッチーは背後に鬼神の宿ったオーラのある笑顔を向けてきた。 俺は無言で腕立て伏せを開始する。 腕立て伏せが終わると研修生が寄ってきて魔法をかける。

「よし、では回復魔法をかけて、、、成功!」

「じゃあ次はスクワット」

 ツッチーはステキな笑顔を俺に向けて飛ばしてきた。

「・・・」

 俺は無言でスクワットを開始する、表情がなくなってきている。


***


帰宅、今日は肉体的に疲れた。

「……これ治癒師の研修だよな、なんか俺だけ "○○○○ブートキャンプ" やらされてる気がすんだけど、筋トレと回復をしまくったせいか、なんとなく腕と足が太くなった気がすんだけど」

 俺は己の四肢を見ながら呟いた、みんなの笑顔がだんだんトラウマになりそうだ。

「笑顔を向ければいいってもんじゃないよ、どこが天使だ、ツッチーがだんだん悪魔に見えてきた」

 明日は研修の三日目にして最終日だ、三日間とは少ないと思ったが、後は仕事の中で学んでいくスタイルらしい。

「あ~、明日は最終日、たしか最後は病の治癒だったな、さすがに病になれとは言わないだろう、どうするんだろうか」


【治癒師入門! 基礎の基礎!】
『病の治癒を行うには慈愛の心を持ち、病に負けるな! と切に願う、その心に神が答えてくれる』

「なんか、どこかで聞いたことがあるようなフレーズだけど 気のせいか、そういや遠くの村が流行り病で滅びたって聞いたことがあるけど、治癒師はいなかったのかな、治せない病もあるのかな、、、」

 まだ治癒師について、勉強不足であり、どんなことができるのか未知の世界に少しワクワクもしている。

「明日でキツい研修も終わり、頑張るか~…… ぐ~」

 眠りにつく、眠っている間も俺の筋肉は再生をし、成長していく。


***


冒険者ギルドにて研修 最終日

 ツッチーが俺をジーッと見てくる。

「・・・サルナス君、なんか腕と足がムキっとしてない?」
「気のせいです、研修始めてください」

 ツッチーの質問に俺は無表情で、食いぎみに答える。

「そうか、ではみなさん、本日は最終日、病の治癒になります、今からここに病に侵された人が来ます、しっかりと治していきましょう」

 今回はきちんとした患者さんがいるようだ、やっとまともな研修だなと俺は感じた。

 扉から1人目の患者さんが入ってきた、息苦しそうだ、顔色も悪い、汗もかいている、目の下にクマもあり眠れてないようだ。 ツッチーが病状について説明しながら見本を見せる。

「呼吸の病だ、昼間だけでなく夜も呼吸が苦しいため、ろくに眠れていない、この場合は胸の辺りに手を当てて…」

「ヤマイサーレ!」

 患者さんの胸に光があつまり、呼吸が落ち着いていく、顔色も良くなってきた、研修生達も喜んでいる。

「治った 凄い!」
「いや、完全には治ってない」
「えっ?」

 研修生が喜んでいると、ツッチーが説明してくる、今の魔法では完全には治らないらしい、継続した治療が必要のようだ。

「これまでやってきた怪我の治療や体力の回復とは違い、病は一度の治癒魔法では治らない、何回も治癒魔法をかけていくことによって徐々に治していく、それも病によって回数も違ってくる、こればっかりは時間をかけて治すしかない」

 ツッチーは真剣な表情だ、場が引き締まっていく。

「正直とても根気がいる、治しても治しても、また症状が出てくる、それでも諦めず治癒を続けられる者だけが一人前になることができる」キリッ!
「「はいっ!」」キリッ!

 研修生達も真剣な表情になる。

「うん みんな良い顔だ!」

 ツッチーは満足そうな顔をしている、続けて指示がはいる、今度は複数の患者さんを中にいれて分担して治療を行うみたいだ。

「よし、それでは他の患者さんを連れてくる、それぞれ治癒にあたれ、わからないことはどんどん質問するように」

 みんな分担して病に治癒魔法をかけていく、症状が治まり穏やかになっていく患者さんをみるとこちらも嬉しくなる、そして研修は終了した。

「よし、みんな研修お疲れさま! いよいよ明日からは治癒院で実践となる! 実践ではここで学んだこと以上の修羅場が待っている、そこで挫折する者も多い、皆が一人前になるのを期待している!」

「「ありがとうございました!」」

 ツッチーの締めの言葉にみんな達成感を感じる、ツッチーは俺の方へやってきた。

「サルナス君、よく頑張ってくれた、ありがとう」
「ツッチー先生、、、」
ニゴッ

「……最後まで笑顔はぎごちなかったが、これからの活躍に期待するよ」

(やっぱり俺の笑顔はぎこちないのか、研修の始めに言ってほしかった、最後になって言うなんて)

 俺は少しショックをうけた。


***


帰宅、最終日を終えて、俺はスッキリしていた。

「いやーなんか、最後はかっこよかったなぁ! ツッチー珍しくキリッとした表情だったし、初めて尊敬できる雰囲気だったよ」

 今日は晴れやかな気分で帰宅できていた。 けれど不満もあった。

「けどなんでその中で俺の患者さんは水虫のオッサンなんだ? いや水虫も立派な病だけどさ、おかしくない? あんだけいい話してかっこいい~、みたいな雰囲気だったのにさ~」

 そう、なぜか俺の患者さんは水虫の治療だった。

「相手のオッサンも "天使じゃねーじゃん、なんでこんなムキっとした野郎が治癒師なん? おかしくね?" とか言ってくるし、俺だってオッサンの水虫を治癒するよりはさぁ、綺麗なお姉さんとかの治癒をしたいよ、それでお礼とか言われたいよ、なんか俺の扱いって雑だよなー! 珍しい存在なんだったらもう少し丁寧な扱いでも良くないかなぁ!」

 あの扱いにはかなり疑問を持った、もっと優しい扱いを期待したのに。 横になって明日の予定を考えてると眠くなってきた。

「あー 研修も終わったし、いよいよ明日から近くの治療院で実践かぁ、緊張するなぁ…… ちゃんとやれるかな、そこでは実験台にはなりたくな…いなぁ… ぐ~」

 今日も疲れて、眠りにつく。


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