貧相なドラゴンだとバカにされたが、実は最速でした。いまさら雇いたいと言われても、もう遅い。

執筆用bot E-021番 

犯人をつかまえた

 都市キリリカに荷物を運んだ。都市ブレイブンへの帰路――。


 白銀のドラゴンが飛んでいるのを見つけた。乗り手を確認してみると、それはまぎれもなく以前にレッカさんに煽り運転を仕掛けた人物だった。


「あいつですよ」


「また何か仕掛けてくるかもしれないから、気を付けて」


「仕掛けてきたら、やり返してやりますよ」


 白銀のドラゴンは、オレより低い高度で飛んでいた。オレのことに気づいたようで、速度をあげてきた。そして前方に飛びこんできた。


 あきらかにオレの飛行を邪魔する意図が感じられた。視界を遮られたせいで非常に飛びにくい。クロも苛立ちをおぼえたらしく、「ぐるる」と低くうなっていた。


 抜かそうとすると、オレを遮るような飛び方をしてくる。決してオレを前に出させないようにしていた。


「ちっ」
 と、オレはつい舌打ちを漏らした。


 前回と言い、今回と言い――どうしてこの男はこんな嫌がらせを仕掛けてくるんだろうか……。


 ロクサーナの指示なんだろうか。
 それともこの男の独断なんだろうか。


 どちらにせよ、ロクサーナ組合の仕事は順調なはずだ。組合は巨大で、ずいぶんと儲かっていることだろう。
 すこしは持ち直したとはいえ、ゴドルフィン組合を目の仇にする必要なんて、どこにもないはずなのだ。


 いや。
 きっと自信がないのだ。


 オレもつい最近、嫌がらせを受けた。
 ジオのことだ。
 ジオの進言によって、オレの竜騎手免許は剥奪されることになった。


 ジオがなぜ、そんな進言を国王陛下にしたのか。オレは見抜いている。オレとクロに負けることを、ジオは恐怖したのだ。だから正々堂々と勝負することを避けて、そんな卑怯な手口を使ったのだ。
 あれはあきらかにジオの自信のなさから現れた嫌がらせだった。


 ロクサーナ組合もそれと同じなのだ。ゴドルフィン組合が息を吹き返したら、ロクサーナ組合は潰されるとでも思っているのかもしれない。だからこんな下劣なやり方で、他人を潰そうとするのだ。


 そう思うとロクサーナ組合という巨人が、なんだかずいぶんとチッポケなものに感じた。


 ついにクロの怒りが頂点に達した。


「グラァァァ――ッ!」
 と、クロが吠えた。


 強烈な咆哮だった。


 そう言えばクロは、ホンスァに懸想していたんだったな――と思い出した。そのホンスァにチョッカイをかけたこの相手は、クロにとっては仇敵である。


 クロの咆哮に、白銀のドラゴンは縮みあがっていた。ドラゴンのパニックを上手く制御できなかったようで、乗り手はドラゴンをあわてて着陸させていた。


 都市ブレイブンが近いし、都合が良い。
 どうして襲ったりしたのか問い詰めてやろう。


 警吏隊に引き渡してやろう。煽り運転を仕掛けてきたという証拠はないが、こんな悪辣なやり方がまかり通っているのは危険だ。


 男が着陸して、白銀のドラゴンをなだめていた。


 オレはその隣に降り立った。
 男は一瞬ギョッとしたような顔をしたが、すぐにふて腐れたように唇を突き出していた。


「なんだよ」
 その乗り手が空を飛んでいるときは、オレより年上に見えていた。こうして改めて見ると、オレとそんなに変わらないようにも見えた。


「名は?」
 と、オレが問う。


「そっちから名乗れよ」
 と、言いかえしてきた。


「オレはアグバだ」
「チェインだよ」
 と、本名かどうかはわからないが、その青年はアッサリと名乗った。


 ブロンドの髪の青年で、こうして見ていると煽り運転なんかしそうにない風貌をしている。


「用件はわかってるだろ」


「わかんねェよ」


「ロクサーナの命令だったのか? それともお前が勝手にやっていたことなのか?」


「だからなんのことだから、わかんねェって」


「シラバくれやがって。今まで何人殺してきた?」


「こ、殺したりはしてねェよ」


「その言い分だと、前科があることは認めるわけか」


「カマをかけやがって」
 と、チェインは憎々しげにオレのことを見つめてきた。


 オレも口が上手くなったもんだ。
 レッカさんのおかげかもしれない。


 前科があるのだろうとは見抜いていた。ホンスァの尾に噛みついたり、オレの進路を邪魔したりするあのやり方には、手慣れたものがあった。


「カマをかけたのは悪いが、人が死んでもオカシクはないだろう。レッカさんなんてドラゴンから落っこちたんだから」


「……」
 と、チェインはダンマリを決め込んだようだ。


「どちらにせよ、警吏隊に突き出させてもらうからな。もし逃げようとしたら、クロに食い殺されると思え」


 都市ブレイブンの警吏隊はロクサーナ組合に傾いているので、訴えてもムダだと思うわ――とレッカさんが口をはさんだ。


「それでも訴えてみましょうよ。このままじゃ、やられっぱなしですし」
 と、オレはそう返した。


 レッカさんはあまり乗り気ではないようだが、泣き寝入りは厭だった。
 べつに正義感から、言ってるわけじゃない。


 何度襲われたって、オレは対処できる自信がある。レッカさんがまた襲われるような事態を避けたいのだ。
 ゴドルフィン組合だっていつまでもオレ1人じゃ限界がある。仲間が必要なのだ。煽り運転をされるからって理由で、仲間が入って来ないのは厭なのだった。


 都市ブレイブンまで歩いた。
 もうすぐ目の前に見えていたし、わざわざ飛んで行く距離ではなかった。


 チェインはしぶしぶといった調子で付いて来た。反省しているようには見えない。クロに怯えているのだろう。


 城門棟の衛兵に理由を話して、都市の警吏隊を連れて来てもらった。警吏を率いてやって来たのは、頼りのなさそうな壮年の男だった。とりとめのない顔をしていたが、口髭だけは立派だった。


「都市ブレイブンの警吏隊長のシギィよ」
 と、レッカさんが耳打ちで教えてくれた。


 シギィはオレの証言をもとに、双方のドラゴンを調べはじめた。


「なんとも言えませんな。お互いにケガがないようなので、なんとも」
 と、シギィは気怠そうにそう言った。


「そりゃケガをしてからじゃ遅いでしょう」


「だいたい空のことだなんて、警吏隊の出番じゃないでしょう。事故は都市の外で起こっているんですからねぇ」


「都市ブレイブンの運び屋の事故なんですから、警吏隊が調べてくれなくちゃ、誰が始末をつけてくれるんですか」


「そんなこと言われてもねぇ」
 と、シギィは目をそらした。
 この場は優勢と見たのか、ずっとダンマリだったチェインが口を開いた。


「そうだよ。全部こいつのデタラメなんだよ」
 と、オレのことを指差してきた。


 シギィをはじめとする警吏隊の連中も胡乱な表情を、オレに向けてきた。


 オレを疑っているといった表情ではない。メンドウなことを持ちこむなという顔をしていた。なるほど。ロクサーナ組合のチカラというのは、こんな場所にも及んでいるらしい。


 レッカさんが訴えることに乗り気でない理由がわかった。どうも旗色が悪い。悔しいが、ここはいったん退くべきかもしれない。


 そう思っていたときだ――。


「いやーっ。失敬、失敬。うちの若いヤツが失礼したみたいだなァ」
 と警吏隊をかきわけて、割り込んできた人物がいた。トラのようなドギツイ髪の色に、猛禽類のような瞳。

 ロクサーナである。

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