社会人1年目、犬系彼女と同棲する。

りゅう

新しい生活





 「1人暮らし怖いよぅ……」

 大学4年生の夏、デート中に彼女に言われた。ベンチに並んで座って、僕の肩にちょこんと頭を当てて来る甘えん坊な彼女が愛おしくてたまらなかった。この子とずっと一緒にいたい。この子と幸せになりたい。付き合った時からずっとそう思っていた。だから、これからもずっと一緒にいるために…これからも幸せでいるために……

 「あのさ…来年から、い、一緒に暮らさない?」

 告白した時と同じくらい緊張しながら、彼女に言う。沈黙が少し続いた後、彼女は目をウルウルさせながら、喜んで。と、一言、返事をしてくれた。

 それから月日はあっという間に流れる。僕も彼女も就職先が無事決まり、お互いの就職先に通いやすい場所でアパートを探して、2人で家具を揃えたりして、卒業式の少し前から荷物を運び込んだりして、いよいよ今日から同棲生活が始まる。

 お昼の3時、リビングに置かれているソファーでうずうずしながら彼女の到着を待つ。

 大学の卒業式も終わり、1週間後には初出勤の日を控えている今日、彼女との同棲が始まる。

 引っ越しなどの都合上、彼女よりも3日前からこのアパートで生活していた僕は、これから始まる新しい生活への期待でとても正常な状態でいられなかった。1時間ほど前に今から家出るね。と彼女から連絡をもらってからずっと心臓がバクバクしている。

 そして、インターホンのベルがなると僕は急いで玄関に向かう。

 「「……………」」

 玄関の扉を開けると彼女と目が合う。すごく細い身体で、今年から社会人だから。と言って最近まで茶色だった髪はまだ、茶色っぽさが残った感じの黒髪になっていて、頭の後ろでポニーテールで結んでいる。すごく小さな瞳を僕に真っ直ぐ向けて、綺麗な笑顔を見せてくれるめちゃくちゃかわいい彼女。

 「え、えっと…こういう時、なんて言えばいいのかな?え、えっと、ただいま…は、まだ変だよね。えっと…今日から、よろしくお願いします。でいいかな?」
 「こ、こちらこそ。よろしくお願いします」

 なんかすっごく改まった感じの挨拶をしてしまい緊張が滲み出ていることが自分でもはっきりわかる。

 「と、とりあえず、中、入ってよ…」

 荷物を預かり、そう言って玄関の扉を開いたまま押さえているとギュッと腕を掴まれた。

 「ま、まゆ?どうしたの?」
 「まゆたち今日から一緒に暮らすじゃん。だから、最初はりゅうちゃんと一緒がいい」

 僕の腕をギュッと掴んでお願いをしてくる彼女のかわいさに悶えながら、玄関から出て一度扉を閉めて、大切な彼女の手をそっと握り、少しだけ玄関先から離れる。

 「今日からよろしくね」
 「まゆの方こそ、よろしくお願いします。いっぱい迷惑かけちゃうと思うけど、ずっと隣にいてね…」
 「もちろんだよ。ずっと、一緒にいよう」

 そんなやり取りをしながら一歩ずつゆっくりと進んで少しずつ玄関の扉に近づいて行く。玄関先の表札に書かれた2人の苗字、石川と岩田が並んでいるのを見て、本当にこれからずっと一緒にいられるんだ。と改めて認識して、ゆっくりと玄関の扉を開ける。

 そして、僕とまゆは2人で手を繋ぎながらゆっくりアパートの中に入った。こうして、僕とまゆの新しい生活が始まった。







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