アンドロイドに恋をして

文戸玲

陰鬱な気持ち


 気味が悪いと自覚していながらも,おれは車の中にいた。
 プレミアムリビングから,道路を挟んだ向かいにあるコンビニに車を止めて,時間が経つのを待っている。
 どれくらい待っただろう,空腹感を感じたころ,社内のラジオが十時になったことを知らせた。

 頭に入ってこないラジオパーソナリティの声を聞きながら,プレミアムリビングの窓を見る。営業時間はとっくに終わっているにもかかわらず,来た時と同じように外を照らしていた。

 明日も朝一番に,契約を目前にした打ち合わせが待っている。目をこすりながら仕事をするわけにはいかないとエンジンをかけようとしたとき,変化が起きた。

 人通りの少ない夜道を華やかに照らしていた明かりが消えた。
 考えるよりも先に身体が反応し,気づけば車の鍵もかけずに飛び出していた。

 プレミアムリビングの玄関前に着くと,大して走ってもないのに息が上がっていた。
 一分,二分と時間が経過するが,中から人が出てくる気配がない。
 おかしい。アイさんはどうしているだろうと気にはなるが,おれが店を出た時には他にも従業員はいた。何人かが遅くまで残って仕事を片付けることはどの仕事にもあるだろう。ただ,社員が一人も退社しないということがあるだろうか。

人権をないがしろにしたらだめですよね

 守田が言った言葉が,頭の中でこだまする。
 ふと視線を上げると,暗がりの中に人がいたような気がした。建物の中は消灯して仲は見えないし,大部分はガラス張りの作りになっているため,見間違いかもしれない。
 重たい雲が,月の姿を隠す。明日は雨かもしれない。陰鬱な気持ちで,おれは車に戻った。


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